カテゴリーアーカイブ:行政

西欧的価値と普遍的価値

2022年2月5日   岡本全勝

今野元著『ドイツ・ナショナリズム 「普遍」対「固有」の二千年史」』(2021年、中公新書)の「はじめに」に、次のような記述があります。

・・・本書の鍵概念は西欧的=「普遍」的価値である。これは私の造語で、歴史的に西欧(英仏米)で生まれた、その意味では西欧「固有」の政治理念でありながら、西欧の影響力の大きさゆえに、近現代世界で「普遍」的に妥当すると主張されている価値のことである。それぞれの時代や地域において、西欧的=「普遍」的価値を推進しようとする勢力が進歩派(左派)であり、それを抑制しようとする勢力が保守派(右派)である・・・

・・・ちなみに私のいう西欧的=「普遍」的価値は、日本国憲法では「人類普遍の原理」と呼ばれているが、ドイツ連邦共和国では「西欧的価値」(westliche Werte)と呼ばれている。日本で「西欧的価値」と呼ばないのは、異国「固有」のものが自国に押し付けられているという語感を出さないための工夫だろう。だが、西欧中心主義的気風が強い現代ドイツでは、西欧のものが「普遍」妥当性を持つのは当たり前だと考えられているので、わざわざ「普遍」的などと言う必要を感じないのである・・・

3段階の科学者の説明

2022年2月1日   岡本全勝

1月27日の朝日新聞オピニオン欄、横山広美・東大教授の「科学的提言、信頼得るために」から。

・・・新型コロナ対策の専門家有志は21日、オミクロン株による感染者数の急増への対応について提言を発表した。その前日に検討された案には「若者は検査せずに診断」という旨の文言が入っていた。医療機関のキャパシティーを心配してとのことだが、各方面からの苦言を受けて撤回された。「人流抑制よりも人数制限」という方針も混乱を招いた。

科学者と社会のコミュニケーションは、3段階に分けることができる。緊急時のクライシスコミュニケーション、それよりは状況に余裕のある段階でのリスクコミュニケーション、そして平時から行う科学コミュニケーションである。
クライシスコミュニケーションの重要な点は、社会の構成員にこの危機は制御可能であるという具体策を示すこと、恐怖を煽らないこと、一貫したメッセージを発することだ。メッセージは状況によって変えてもよいが納得感が肝心である。今回の提言はこの2年間で私たちが自分たちなりに抱いた落としどころと、ずれが生じた・・・

ワクチン接種、自治体の悩み

2022年1月29日   岡本全勝

1月25日の朝日新聞オピニオン欄「新型コロナ 3回目接種うまくいく?」、岩瀬均・東京都墨田区新型コロナワクチン調整担当次長の発言から。

――今回の追加接種で何か問題は起きていますか。
「政府は昨年11月まで『2回目接種8カ月後を絶対守れ』と言っていたのが、12月の首相の所信表明演説で『8カ月を待たずに、できる限り前倒しする』となり、その後も『さらに前倒しを』と五月雨式に変更を打ち出してきました」
「ワクチン入手の見通しを立てるのが難しいのでしょうが、あまりに激しい変更は困ります。国は変更したら新聞に載せて終わりでも、自治体は住民に周知しなければなりません。高齢者は区報で情報を得る人が多い。ころころ変わると掲載が間に合いません。命にかかわる情報は公平に届けなければなりませんし、追加接種の意義を説いたり交差接種への疑問に答えたりする必要もあります」
「4月以降、ワクチンが実際に来るかも心配です。もう少し計画的に進めていただきたいですね」

――さかのぼりますが、1、2回目の接種はどうでしたか。
「墨田区は全庁応援を早期に始め、私も一昨年12月に選挙管理委員会事務局長から福祉保健部に戻りました。以前担当していた医師会との連携を進め、集団接種の接種券送付や会場設営に選管ノウハウを応用してくれということで、選管職員も連れて行きました」

――墨田区で接種が順調だった要因は?
「医師会が一つで連携がうまくいきました。集団接種のシミュレーションを繰り返し、全庁から会場に派遣する人数や1日に接種できる人数を綿密に試算して、それに基づくワクチン数を都に求め、確保できました。全庁応援は大変でしたが、ワクチンはワクチンの部署に任せておけではなく、介護保険課や障害者福祉課といった部署が、それぞれの担当する住民の問題と捉えて積極的に動くようになる効果もありました」

復興政策の検証

2022年1月25日   岡本全勝

読売新聞「記録誌作成へ」に載りました」の続きです。役所が自らの実績を評価することは良いことだと思います。

失敗をしでかしたときは、内部または外部の人を入れて、原因究明と再発防止のための検証委員会がつくられます。最近では国土交通省の統計書き換え事件です。
他方で、各省が出す白書には、政策とその成果が書かれます。これは、毎年という期間です。また、各省の局が持っている機関誌や関係業界の雑誌には、新年号に局長などが前年の振り返りと新年の取り組みを書くことが多いです。

ところが、5年や10年という期間で、その省や局の成果を振り返ることは、あまりされていないようです。多くの組織では「10年史」「20年史」が作られます。役所でもかつてはありました。しかし最近は見ません。5年とか10年は、適当な時間だと思います。それより長くなると、関係者もいなくなり、記憶も薄くなってしまいます。

評価をするためには、物差しが必要です。そして、成果を測る必要があります。白書に載っている数値は、多くの場合に成果ではありません。実は、役所のほとんどに、今年1年、これからの3年間に何をするかという「目標」がないのです。

実績を見る際に、3つのものがあります。
「投入量」(インプット)。予算額、つくった法律など
「産出量」(アウトプット)。復旧した道路、防潮堤の延長など
「成果」(アウトカム)。住民の暮らし、町のにぎわいがどの程度戻ったか
役所が行う評価は、しばしば投入量を測ります。「予算を確保した」「法律をつくった」は霞が関では成果ですが、被災地にとっては投入量でしかありません。
私が記事で「被災者の目線で検証をしてもらいたい」と言ったのは、被災地で見た、被災者から見た成果検証としてほしいのです。復興庁の使命は「被災地の要望に応えること」であって、それができたかどうかです。いくらたくさんの防潮堤と道路を造っても、町の暮らしが戻らないと意味がありません。

このような試みは、各省でも実施されませんかね。
まず東日本大震災では、原発事故復旧の検証をしてほしいです。今回の復興庁の検証では、その前身である緊急災害対策本部被災者生活支援本部(津波災害)は検証対象に含まれますが、原発事故の復旧は「原子力災害対策本部」の所管であり、復興庁の所管の外なのです。対策本部は会議体なので、資料の保存や検証はその事務局の仕事になります。
原発事故がなぜ防げなかったか、冷温停止になぜ失敗したかは、国会、政府、民間の事故調査委員会が検証しましたが、その後の復旧作業の検証がなされていません。

統計不正、官僚の組織管理の問題

2022年1月25日   岡本全勝

1月22日の朝日新聞オピニオン欄「統計不正 この国はいま」、田中秀明・明治大学教授の「政策見直さぬ、官僚の「政治化」」から。

――政治家と官僚の関係はどう変わってきたのでしょうか。
「かつては一定の緊張感があった両者の関係は平成以降、政治主導の流れのなかで変わってきました。いま官僚は常に目玉政策を考えねばならず、過去の政策を振り返る余裕などありません。政治家が思いついた政策に『ノー』と言えば、左遷もありえます。そんな上下関係があるから、政策を評価したり、問題点を指摘したりすることはできないのです」
「官僚が、政治家の下請けになり、先輩たちがやってきた政策を否定せず、自分たちの利害を優先する。私は『公務員の政治化』と名づけました」

――それが霞が関や官僚の劣化なのでしょうか。
「官僚の役割は政策を検討したり実施したりすることですが、それには専門性が重要です。しかし、係長級を含めほとんどの官僚が、政治家や業界の根回しに奔走します。経済社会は複雑化しているので、より高い専門性が必要ですが、根回しで勉強する時間もありません」
「霞が関の幹部は法学部出身のゼネラリストが多く、エコノミストやITの専門家は不足しています。諸外国では、省庁幹部に博士号を持つ人が多いですが、日本では限られています」

――人事制度が最大のネックになっているというのですね。
「課長や局長は短ければ、1年ほどで異動します。そつなくこなし、リスクはとらなくなる。可能な限り専門性を磨いて、政治家を忖度するのではなく、成果をもとに処遇されるようになれば、不正は減り、政策過程も少しは改善するでしょう。事務方トップの事務次官が毎年のように交代し、名誉職化している点も問題です。英国などの次官は予算執行や内部統制に一義的な責任を負っており、内部監査委員会も設置されています。次官が組織運営に指導力を発揮するべきでしょう」

――外部の機関が政策をチェックするのはどうでしょうか。
「これが著しく弱いことが大きな問題です。ほとんどの先進国で導入されている独立財政機関は、日本にはありません。国会の政府監視機能も弱い。与党議員も一議員としてその役割を担うべきです。法律を作る際、与党の事前審査で審査も修正も実質的に終わるため、国会審議も形骸化しています。結局のところ、政策過程の劣化は日本の政治システムの問題なのです」