カテゴリーアーカイブ:行政

二種類の「詰める」

2022年5月30日   岡本全勝

新しい政策や事業を考える場合や新しい事態が起きたときに対応を考える場合、公務員はその問題点を詰めます。それは、民間企業も同じでしょう。ええ加減な詰めで、後々問題を起こしてはいけません。きっちりと問題点を指摘し、その解決方法を考えなければなりません。

その際に、二種類の公務員、特に二種類の上司がいます。新しい企画を潰す職員と、作る職員です。
潰す職員にとって、新しい企画の問題点はすぐに2つや3つは思いつきます。「前例がない」という決めぜりふも用意されています。潰すことで、彼は安心します。あるいは決定を先送りすることで、当面安心します。「新しいことをしないことで、責任を負わなくてすむ」とです。
他方、作る職員は問題点を見つけつつ、その解決方法を考えます。あるいは解決の方向を考え、関係者に指示を出します。

企業の場合は、新しい企画を潰したり、検討に時間をかけていると、競合企業に先を越され、競争に負けてしまいます。よって、どこかの時点で見切り発車することもあります。大きな企画で失敗すると傷が大きい場合は別ですが、小さな傷だと「そういうこともあるよ」と方向転換します。
ところが、行政の場合は競合がないので、先送りができるのです。新しい何かをした失敗は目につくのですが、しなかった場合の失敗は当座は見えないのです。参考「制度を所管するのか、問題を所管するのか

すると、有能な公務員や上司に求められることは、次のようなことでしょう。
・部下が新しい企画を考えてきたら、潰すことを考えるのではなく、一緒にどうしたら成功するかを詰めること。
・失敗してもよい程度の企画なのか、失敗してはいけない企画なのかを判断すること。

私は、「必要な場合に新しいことに挑戦しない官僚は存在理由がない」と考えていました。従来通りなら上級職は不要で、中級職や初級職の職員に任せておけば良いのです。で、しばしば職場内で「前例通りの壁」にぶつかりました。それを頭とからだを使って突破するのも、官僚の「技」です。
東日本大震災の際は、これまでにない大災害で、これまでにない政策を次々と打ち出しました。それらは私が考えたことより、部下や関係者が考えて持ち込んできたものです。それを実現するのが、私の役割でした。大震災という非常時だからできたのでしょう。政治家から「霞が関の治外法権」と呼ばれたときは、「ああ、そのような見方もあるのだ」と感心し、うれしかったです。

精神疾患、高校教育

2022年5月30日   岡本全勝

5月17日の朝日新聞教育欄に「「精神疾患」高校生にどう教える? 40年ぶり教科書に」が載っていました。
・・・今年度から、高校の保健体育の教科書で40年ぶりに精神疾患に関する記述が復活した。若者らの自殺が社会問題となるなか、どのように心の病について教えたら良いのか。教員や生徒たちが正しく理解し、受け止められるよう様々な取り組みが始まっている。

「誰でも発病する可能性があります」
今年4月から使われている大修館書店の「現代高等保健体育」では、計8ページが精神疾患に関する項目にあてられている。「およそ5人に1人以上が生涯に1回は何らかの精神疾患を経験」「約50%は14歳までに、約75%は24歳までに発病」といった説明とともに、うつ病や統合失調症、不安症、摂食障害の具体的な症状を記載した。早期発見と治療が回復の可能性を高めることも記している。
精神疾患の項目は、今年度から使われる3点の保健体育の教科書すべてに登場した・・・

日本の学校教育は明治以来、子どもが優等生になることを目指してきました。それはよいことであり、よい成果を生んできたのですが、他方で落ちこぼれた子どもを無視するという弊害がありました。
いじめ、引きこもり、集団生活になじめないことどもなどなど。つまずいた子どもたちに、つまずかないようにすることを教え、つまずくこともある、その場合にどうしたらよいか生きていく力と知識を教えることも重要です。

こども食堂4

2022年5月29日   岡本全勝

子ども食堂3」の続き、余談です。
湯浅誠さんとは、不思議な縁です。というか、私の考えが変わった「先生」の一人です。

2008年(平成20年)年末に、年越し派遣村が日比谷公園にできました。それを担ったのが湯浅さんです。私は当時総理秘書官で、官邸からその動きを見ていました。簡単な構図で言うと、湯浅さんが政府を責める側、私は政府側の人間でした。
リーマン・ショック
の影響が大きくなり、それへの対応に追われていました。震源地のアメリカは、選挙で選ばれたオバマさんがまだ就任しないというブッシュ大統領がレームダック状態、ヨーロッパ連合はリーマン・ショックの金融機関への波及が大きくお手上げ状態。当時世界第二位の経済国である日本がIMFへの巨額融資や経済対策などを行い、三位の中国にも協調を働きかけて、食い止めようとしていました。国際会議も多く、予算編成など大変だったのです。一方、世論調査での内閣支持率は下落し、それも悩みの種でした。

派遣切りにあった生活困窮者について、政府や行政の反応は鈍かったと思います。舛添厚生労働大臣から総理への進言や相談もあり、放っておけないと判断した記憶があります。その後は危機感を募らせ、失業者を増やさないために、雇用調整助成金を本格的に使うようにもしました。

市民活動や社会活動家は、行政とは異質な世界の人と思っていました。その2年後、東日本大震災の被災者支援に呼び出され、非営利団体の人たちに出会って転向したことは、何度も書いたとおりです。その時は、田村太郎さん藤沢烈さんとの付き合いでしたが、その後、湯浅さんともお付き合いが始まりました。先日は、田村さんと一緒に、市町村アカデミーの「政策の最先端」にも、出講してもらいました。

トイレの重要性

2022年5月25日   岡本全勝

5月12日の朝日新聞夕刊1面に「火事だ!トイレも現場へ 熱中症リスク・寒い夜…水分我慢しない 東京消防庁」が、大きな写真付きで載っていました。

・・・東京消防庁が昨年に導入した「トイレカー」が活躍している。この1年で40件以上の現場に駆けつけ、いったん出動したらトイレを我慢しがちになっていた署員の活動を支援してきた。消防だけでなく、災害に備えて移動式のトイレを配備する自治体も増えている・・・

・・・全国の自治体でも、トイレカーやトイレトレーラーの導入が相次いでいる。
東日本大震災をきっかけに組織された一般社団法人「助けあいジャパン」(東京)は、全国の自治体がトイレトレーラーを常備するよう呼びかけている。「みんな元気になるトイレ」プロジェクトと題し、災害時に自治体の隔てなく派遣し合うことを目指し、ふるさと納税を購入資金に活用することを勧めている。仕様によって異なるが、トレーラーはおおよそ2千万円前後という。
静岡県富士市は2018年に導入した。普段はスポーツ大会や花火大会といったイベントで使っているが、豪雨や台風の被害を受けた岡山県や千葉県、長野県にも派遣した。市の担当者は「臭うこともある仮設トイレより清潔で明るい。鏡や洗面台があり、化粧直しもできると女性からも好評だ」と話す・・・

災害直後の避難所でも、トイレ、温かい食事、快適な寝床が必要です。特に、トイレは辛抱できません。水や食料は運べるのですが、トイレは運べないのです。

こども食堂3

2022年5月24日   岡本全勝

子ども食堂2」の続きです。
近年、多様性(ダイバーシティ)の尊重が提唱されています。さまざまな事情を持った人たちが社会で活躍できるようにすることは、重要なことです。
この点に関して、湯浅誠著『つながり続けるこども食堂』(2021年、中央公論新社)に、次のような指摘があります。
「みんなちがって、みんないい」はよいことか。家族旅行に行くときに希望を聞いたら、父はハワイ、母は温泉、姉はディズニーランド、私はどこも行きたくない。では、みんなバラバラに行くのがよいのか。

これは困りますよね。湯浅さんは、多様性だけでは足りない、配慮が必要だと指摘します。その配慮は、英語ではインクルージョン(inclusion)で、包摂などと訳されますが、湯浅さんは「配慮」と訳します。
家族それぞれに希望が異なる行き先を、みんなで話を聞いて、配慮し合うことが必要です。みんなバラバラだけでは、困るのです。多様性と共同性を両立させるためには、各人の意尊重尊重とみんなでの配慮が必要です。

田村太郎さんは、ダイバーシティ(多様性)への配慮に関して、次のような指摘をしています。
「少数者(マイノリティ)への配慮」と言われるが、この言葉はおかしい。日本の人口では、女性の方が男性より多い。女性は少数者でなく、社会において男性より「劣位」におかれてきた。
そうですね。男性でも子育てや家族の介護・看護をする社員は「少数者」で、配慮されませんでした。