カテゴリーアーカイブ:再チャレンジ

教師の育成、子どもの貧困を学ぶ

2021年2月7日   岡本全勝

1月28日の読売新聞解説欄、古沢由紀子・編集委員「子供の貧困 教師の卵学ぶ」から。
・・・教員養成大学で、子どもの貧困問題や支援の方策について学ぶ機会を拡充する動きが広がっている。学校現場には、困窮家庭の子どもの状況を早期に把握し、地域や福祉の専門家らと連携する役割が求められるためだ。教師を目指す学生らの意識向上とともに、教科指導に偏りがちな教員養成課程のカリキュラムを実践的な内容に見直す効果も期待される・・・

・・・厚生労働省の国民生活基礎調査によると、18年の子どもの貧困率は13・5%に上り、約7人に1人の子どもが、厚労省が目安とする所得の基準を下回る困窮家庭で暮らす。こうした状況を踏まえ、約8割の学生が教師志望の同大では、子どもの貧困問題について学ぶ授業や研究活動を本格化させている。
オンラインによる小学生の学習支援を主体とした授業は、17~19年度に実施された。同大と連携する都内の自治体で毎年度、希望者を募集。自治体からの就学援助を受けており、学習塾などに通わせる余裕のない家庭の児童らを対象に無償で行った。
時間、距離の制約などから、指導にはネットを活用。当初は子どもが騒いで立ち歩くケースもあり、学生たちは雑談を交えるなど、信頼関係づくりに努めてきた。
中学校の数学科教師を目指す男子学生は「回を重ねるうちに集中して勉強する子が増えてきた。自分は子どもの頃、当たり前のように塾に行っていたが、そうでない子と接するのは貴重な体験。教師を目指す上で、いろいろな見方ができるようになるのではないか」と話した。

学習支援には、スクールソーシャルワーカーなどの専門職を目指す学生らも参加。指導後には毎回、学生同士で意見交換し、報告書を提出する。月1回程度、学生の有志と児童らが対面で交流する場も設けた。
担当した入江優子准教授は「教師志望の学生らが、多様な子どもたちと接する機会は大切だ。大学生には比較的学習機会に恵まれてきた人が多いが、学校現場に出れば様々な困難を抱える子どもがいる実情に触れてほしい」と話す・・・
・・・一般に、教員養成大学の授業は教科の指導法に重点を置き、学力水準が高い付属学校での実習などが「学校現場の実態に合っていない」との指摘もあった・・・

これまでの教育が、「よい子」を育てることに重点を置き、漏れ落ちる子どもを視野に入れていないと、連載「公共を創る」で主張しています。選抜された優秀な子どもを相手に教育実習をしていても、現場では役に立ちません。できる子どもは、極端に言えば「放っておいても」勉強します。手のかかる子どもを、どう指導するのか。それを教えないと、教員養成にはなりません。
職場でも同様です。「よい部下の育て方」だけでは、管理職研修になりません。出来の悪い職員をどう育てるのかが、重要なのです。
平成31年度からの新しい教職課程では、「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解(1単位以上修得)」が増えています。

同一賃金への道

2021年1月28日   岡本全勝

1月25日の朝日新聞「記者解説」沢路毅彦・編集委員の「同一賃金巡る司法判断 基本給・賞与のあり方、労使に宿題」から。

・・・「格差是正一歩前進」と「不当判決」。昨年10月13日と15日に出された、労働契約法20条を巡る五つの最高裁判決は、非正規労働者に一部の手当を支給しないことを違法とする一方、ボーナスや退職金の不支給は違法とせず、明暗が分かれた。訴えられていたのは、3件の訴訟があった日本郵便と、大阪医科薬科大学、東京メトロ子会社だ。
20条は、雇用期間に定めがあるかないかで、労働条件に不合理な格差を設けることを違法とする規定だ。(1)仕事内容や責任の程度(2)人材活用の仕組み(3)その他の事情――を考慮して不合理かどうかが判断される。
2千万人を超える非正規労働者のうち7割は雇用期間に定めがある有期契約だ。一方の正社員は無期雇用。20条は正社員よりも低い非正規労働者の処遇を改善することが目的で、2013年施行の改正労契法に盛り込まれた。

本来、労働条件は企業と労働者の交渉によって決めるものだ。それなのに20条ができたのはなぜか。
1990年代後半まで非正規の割合は約2割。その多くが家計を補助する主婦パートやアルバイトで、低い処遇でも大きな社会問題にならなかった。ところがその後、非正規は増え今や4割近い。就活がうまくいかなかった若者から中高年男性まで広がった。
こうした状況を改善するため改正労契法が制定された。20条のほか、有期契約が繰り返し更新されて5年を超えた場合に無期転換できる「5年ルール」もできた。

安倍前政権の「働き方改革」は「同一労働同一賃金」を目玉の一つに据えた。「同一労働同一賃金」は本来、「同じ仕事に同じ賃金を」という意味だが、「働き方改革」では「不合理な格差を違法とする」という20条と同じ考え方をとっている。働き方改革関連法で労契法20条はパートタイム有期雇用労働法に統合された。賃金の総額ではなく、項目ごとに格差が不合理かどうかを判断することを明確にした。
昨年10月の最高裁判決は20条による判断だが、パート有期法にも言及しており、今後の解釈に大きく影響することは間違いない・・・

・・・今年4月に全面施行されるパート有期法では、基本給だけでなくボーナスも、格差が不合理かどうか判断される対象になることが明記された。パート有期法制定と同時に作られた指針では、基本給やボーナスの格差がどのような場合に違法になるかが列挙されている。だが、指針が示した基本給やボーナスの場合分けは現実とは違うという意見が実務家の間では多い。どのような制度が妥当なのか。非正規の意見を採り入れた形で制度設計をすることが労使にとって課題になる・・・

慰霊から心のケアへ

2021年1月24日   岡本全勝

朝日新聞別冊グローブ1月号特集「心のレジリエンス」に、「慰霊から心のケアへ」が載っていました。

・・・一度に多くの人が亡くなる災害。「不条理」ともいえる悲しみに、宗教はどう向き合ってきたのか。亡くなった人たちの鎮魂・慰霊のための「祈り」から、残された人たちの「心のケア」への取り組みが始まっている。
東日本大震災で4000人近くの死者・行方不明者(関連死含む)が出た宮城県石巻市。昨年11月初旬、曹洞宗通大寺住職の金田諦應さん(64)が2011年に始めた移動傾聴喫茶「カフェ・デ・モンク」が開かれた。新型コロナの影響で約9カ月ぶりだった。20人余りがコーヒーを飲んだり、マニキュアを塗ってもらったりしていた・・・
・・・金田さんは宮城県を中心に各地でカフェを毎月のように開いてきた。「被災者が自然に喜怒哀楽を出せる日常に戻る手助けをしたい」。それが金田さんたちの思いだ。仲間には神主も牧師もカトリックのシスターもいる。だからカフェで布教はしない。共通するのは、死者を弔い、被災者の話に耳を傾け、土地の人々に寄り添って生と死をつないできたという自負だ・・・

・・・上智大グリーフケア研究所長の島薗進さん(72)は震災の翌月に「宗教者災害支援連絡会」を設立し、代表に就任した。仏教やキリスト教、新興宗教が参加。地元の僧侶を中心に始まった「心の相談室」にも様々な宗教が集まり対応にあたった。島薗さんは「心のケアは主に医師や臨床心理士が担っていたが、大惨事に直面して『死にどう向き合うか』というスピリチュアルなところに踏み込まざるをえなくなった」と指摘する。

宗教者による心のケアは、欧米ではキリスト教会が育成する「チャプレン」が、病院などで行うことが多い。イスラム教の国では患者と医師ら「ケアされる側とする側」が同じ教えを共有している。島薗さんは「特定の宗教色が強く出ないようにするのは日本特有のかたちで、米国などでも広がりつつある」という。
日本でそうした宗教の枠を超えた心のケアが広がった背景には、「政教分離」の側面もある。「戦前・戦中の国家神道への反動もあり日本は『信教の自由』に非常にセンシティブだ」。日本宗教連盟と全日本仏教会の理事長を兼務する戸松義晴さん(67)はそう説明する。

東日本大震災でも、憲法の規定を理由にさまざまな問題が起きた。市町村が主催する慰霊式では、参加者全員が寺の檀家(だんか)でもお経は唱えられず献花のみ。火葬場に入ることも許されず、建物の外でお経をあげたこともあった。事前に行政と協定を結んでいない寺が避難所になると、行政からの支援物資を配れないこともあったという。
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で不安が増すなか、宗教の役割が注目されつつある。全日本仏教会が「寺院・僧侶に求める役割」について聞くと、これまでは「特になし」という回答が多かったが、昨年8月のアンケートでは「不安な人たちに寄り添う」が3割を超えた。戸松さんは「葬式仏教にとどまらず、日々の生活で必要とされるよう、ふだんから人に寄り添い、信頼関係をつくっておかなければならない」と話す・・・

この主題は、拙著「復興が日本を変える」や、連載「公共を創る」第69回でも取り上げました。

増える家庭内暴力

2021年1月14日   岡本全勝

1月13日の読売新聞が「増え続ける家庭内DV、19年度が過去最多で20年度は1・5倍で推移」を伝えていました。

・・・内閣府は12日、2019年度に全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた家庭内暴力(DV)の相談件数が前年度比4795件増で、過去最多の11万9276件だったと発表した。20年度の件数が19年度同期と比べて約1・5倍で推移しているとの途中集計も明らかにした・・・
・・・内閣府は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛の影響で増加したとみている・・・

内閣府の公表資料「配偶者暴力相談支援センターにおける相談件数等

発達障害を受け入れる社会、二つの方法?

2021年1月12日   岡本全勝

1月8日の朝日新聞オピニオン欄「ほどよい距離感って?」、熊代亨さん(精神科医)の発言から。

・・・街の精神科医として感じるのは、いまなら発達障害などと診断されるような人が、昭和の時代にはあちこちで当たり前に暮らしていた、ということです。
そうした人たちが早い段階からサポートを受けられるようになったのは良いことです。一方で、いまの社会はますます清潔で行儀良く、効率的で、コミュニケーション能力が求められる。それについて行けない人に対処する需要が高まったから、発達障害が「病気」として受け入れられたようにも感じます・・・

・・・現代社会は確かに自由です。家や身分や地域によって仕事や人間関係を強制されないし、交通機関やインターネットの発達で、距離による制約も大幅に解消しました。
そうした社会では、私たちは友人や恋人や知人として「選ばれなければ」ならない。同時に、友人や恋人や知人を「選ばなくては」ならなくなりました。SNSに好ましい投稿を続けるのも、自分の「市場価値」を高めるためだと思います・・・