カテゴリーアーカイブ:再チャレンジ

傷ついた心を支える、苦手な日本

2023年8月30日   岡本全勝

8月10日の朝日新聞オピニオン欄「心のケア、苦手な日本」から。詳しくは本文をお読みください。

心のかたちは、世界広しといえども同じ。でも、日本社会で心を支え合うのは、とても難しい――。国内外の紛争地や被災地で、傷ついた心のケアを約30年間にわたって続けてきた、精神科医の桑山紀彦さんがたどり着いた結論だ。「トラウマは人生を変える資源」とも説く桑山さんに聞いた。なぜ日本では、心を支えにくいのか。

――そもそも、トラウマとは何ですか。
「トラウマとは、いわば凍りついた記憶と感情です。心に刻印されたそれは、決して消え去ることはありません。何度もよみがえり、そのたびに苦しくなる。時間が経てば軽くなるものでもありません」
「ただ、私は、トラウマは『資源』だと考えています。トラウマはバネになる。人生を変える起点にできる、ということです。そのために大切なのは、つらい記憶をなかったことにしないことです」

――トラウマに向き合うには、専門家の力が欠かせないのでしょうか。
「受けたトラウマが非常に強烈なものだったり、適切な対処がされずに悪化したりしてしまえば、もちろん精神科医や臨床心理士など専門家の力を借りる必要があります。でも、私の体感では、そういうケースは全体の15%ほど。残りの85%は、社会のなかで癒やせる。周囲の力を借りることで、傷と向き合えるようになります。文化や言語が違っても、『心の形』や回復の過程は、世界中どこでも同じです」
「ただ、いろんな国で活動してきて唯一、心のケアが難しいと感じた国があります」

――どこですか。
「日本です」
「11年の東日本大震災の時を例に、お話しします。震災の3カ月後、被災地の学校に招かれてPSSのプログラムをやろうとしたのですが、難しかった。教員のみなさんから、『子どもたちをあんなおそろしい経験と向き合わせるなんて、ありえない』『子どもが不安定になったら、どう責任をとればいいんだ』といった、激しい反発が出ました」
「彼らを責めたいわけではありません。こういう反応が起こるのは、日本の社会がずっと、トラウマを『触れてはいけないもの』として扱ってきたからでしょう。結果的には、場所を学校から避難所に変えることで、プログラムは無事に実施できたのですが」

――「心の形」には国による違いはないのに、日本が向き合えないのは、なぜでしょうか。
「トラウマから回復するステップは原因が紛争でも自然災害でも同じです。ただ、うまくいくかどうかに差が出るのが、先ほどお話しした『社会との再結合』です」
「日本では、心に傷を負った経験が『恥ずかしいこと』だと捉えられがちです。本人も表明を避けますし、周囲も『触れてはだめだ』という態度を取る。例えば、『胃潰瘍(かいよう)で体調が悪い』と言うのと、『トラウマで苦しんでいる』と言うのとでは、社会からの受け止めが大きく違います」

――日本以外の国でも、違うのではないですか。
「こう説明しましょう。日本社会では、『心に傷がないのが良いことだ』という意識と、『みんながそうあるべきだ』という意識がセットになっている。トラウマは本来的にマイノリティーの体験ですが、どんな人でも抱える可能性があります。にもかかわらず、日本では『マジョリティーでなければまともじゃない、恥ずかしい』という意識が、強く働いているように思います」

全国こども食堂支援センター・むすびえの受賞

2023年8月28日   岡本全勝

このホームページでもしばしば取り上げ、新しい公共の形として紹介している「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が、ジャパンタイムズの「Sustainable Japan Award Satoyama部門 審査員特別賞」を受賞しました。この賞は、先進的で持続可能な取組みを行った企業・団体・個人を表彰し、その活躍を国内外に伝えていくことを目的にしています。

受賞理由は、次の通り。
「2012年の設立から11年目の今年、こども食堂は全国に広がり7300箇所を超えている。「むすびえ」が目指す子ども食堂は、子どもだけでなく誰もが来られる地域の居場所として認知され、地域を大きな網で包むことで、子ども食堂を媒介に誰もがとりのこされない、誰かと繋がれる社会を作る、そんな役割を担う。また、こども食堂と地域のステークホルダーを結びつけることで支援の範囲を広げ、個々の食堂を持続可能な存在としている。また食堂運営者がアクセスしにくかった助成金や寄付などの情報の共有に加え、行政や社協、これまで社会活動に関与していなかった企業までを巻き込むことで、子どもを地域全体で支えるという「社会的な大きなうねり」を生み出している。」

この活動が広く知られることを期待しています。

増える日本在住の外国人

2023年8月20日   岡本全勝

8月14日の日経新聞夕刊に、斉藤徹弥・編集委員の「増える日本在住の外国人 自治体・NPOの支援に限界」が載っていました。

・・・日本に住む外国人が再び増えてきました。日本人の人口が急速に減るなか、政府は永住できる外国人を増やす方針で、様々な社会的な役割を担う欠かせない存在となっています。ただ、受け入れ拡大につれ、生活を支援してきた自治体やNPOからは、対策の充実を求める声も聞かれます・・・

記事では、外国籍の住民が全国で299万人、1年間に29万人、1割も増えています。総人口に占める割合は2.4%ですが、北海道占冠村と大阪市生野区が2割を超えています、東京では新宿区と豊島区が1割を超えています。
驚いたのは、外国人の住民登録がないのは全国で3村だけ。青森県西目屋村、東京都青ヶ島村、和歌山県北山村です。ということは、それ以外の離島や山村にもおられるということです。斉藤記者は、次のように締めくくっています。

・・・外国人政策に詳しい日本国際交流センターの毛受敏浩・執行理事は「外国人の受け入れは、日本に定着し活躍し続けてもらうフェーズに入りました。社会も政治も企業も考え方を180度、変える必要があります。新しい時代認識を持たないとよい人材は入って来ません」と指摘します。
とりわけ大切なのが日本語教育です。日本では国による支援は少なく、NPOなどを中心にボランティアで担っているところが目立ちます。政令指定都市の市長会は3日、日本語教育の充実を求めて文部科学省などに国による体制強化を要請しました。
政府は全国的な人手不足に対応するため、特定技能の在留資格で受け入れる外国人を増やすことを決めました。企業や地方は外国人に大きな期待を寄せていますが、円安傾向もあり、各国との人材獲得競争は厳しくなっています。
日本を選んでもらえるよう、外国人との共生に本格的に取り組む時期を迎えています・・・

つながり・支え合いのある地域共生社会

2023年8月18日   岡本全勝

孤独感、若い世代で強い」の続きです。令和5年版厚生労働白書の主題は、「つながり・支え合いのある地域共生社会」です。「概要版」がわかりやすいです。いくつか抜粋します。

●単身世帯の増加、新型コロナウイルス感染症の影響による、人々の交流の希薄化などを背景として複雑化・複合化する課題、制度の狭間にある課題(ひきこもりやヤングケアラーなど)が顕在化。
●こうした課題に対して、これまでの「つながり・支え合い」の概念は拡がりをみせており、ポストコロナの令和の時代に求められる新たな「つながり・支え合い」の在り方を提示。これにより、人々がつながりを持ちながら安心して生活を送ることのできる「地域共生社会」を実現する。

・世代や属性を超えて、様々な人が交差する「居場所」づくり
・「属性(高齢・障害など)」別から「属性を問わない」支援へ
・支援の申請を待つ「受動型」から「能動型」支援へ(アウトリーチ)
・暮らしの基盤である「住まい」から始まる支援
・デジタルを活用し時間や空間を超えた新たな「つながり・支え合い」の創造

厚生労働省が、ここまで変身しました。社会保障だけでは、困っている人の助け・支えにならないのです。私が連載「公共を創る」で訴えている「社会の不安が変化している」「行政の役割も変わっている」ことに、応えてくれています。

かつてこのような暮らしの問題は、内閣府の国民生活局が扱い、「国民生活白書」で取り上げていました。そして第一次安倍内閣が掲げた再チャレンジ政策で取り組んだのですが、その後は大きく扱われることがありませんでした(このホームページでは「再チャレンジ」という分類を作り、このページもそこに入れてあります)。
孤独・孤立がさらに進み、社会の不安が国民の間に認識されるようになったのだと思います。子ども食堂の広がりも、その一つです。