カテゴリーアーカイブ:社会の見方

アメリカ白人中年の死亡率増加の原因

2017年4月5日   岡本全勝

3月29日の日経新聞オピニオン欄、The Economist 「米の白人中年、高死亡率の理由」から。
1999年から2013年にかけて、アメリカ白人中年の死亡率が上昇しています。それまでは低下し、欧州でも年間2%のペースで減り続けています。米国白人の死亡率は、スウェーデンの2倍、自殺や薬物、アルコール中毒が原因です。

・・・両氏(ノーベル経済学賞のディートン夫妻)は、長期的により漠然とした力が働いているのではないかと推測する。根本的な要因としては、貿易の拡大と技術の進歩により、特に製造業の低技能労働者が豊かになる機会を失ったというおなじみの説が挙げられる。だが、社会的変化も見逃せないという。
つまり、生活が経済的に不安定になるにつれ、低技能の白人男性の多くは結婚より同棲を選ぶようになった。彼らは昔から地域に根づき、同じ価値観を重視する宗教ではなく、個人の考え方を尊重する教会を頼り始めた。仕事や職探しも完全にやめてしまう傾向が強まった。確かに、個人の選択を優先した結果、家族や地域社会、人生から自由になったと感じる人は多い。反面、うまくいかなかった人たちは自分を責め、無力感から自暴自棄に陥ると両氏はみている。
では、なぜ白人が最も強く影響を受けるのか。両氏は白人の望みが高く、かなわなかったときの失望がその分大きいからだと考える。黒人やヒスパニックも経済環境は白人より厳しいが、そもそも彼らは初期の期待値が白人より低かった可能性がある。あるいは、彼らは人種差別の改善に希望を感じているのかもしれない。対照的に、低技能の白人は人生に絶えず失望し、うつ病になったり薬物やアルコールに走ったりするとも考えられる・・・

数字に表せる経済的事象は、経済学が解き明かしてくれます。しかし、このような数字に表れる社会の変化でも、経済学では分析や解決ができないものがあります。社会学、政治学、行政学の出番です。これらが、政策科学として有効になるためには、これらの事象を分析し、対策を打つ必要があります。原文をお読みください。

現在の社会に「満足している」

2017年4月3日   岡本全勝

内閣府が行った「社会意識に関する世論調査」で、現在の社会に全体として「満足している」と答えた人は66%と、この調査を始めた平成21年以降、最も高くなりました。
平成21年では、40対60で満足していない人の方が多かったのですが、年々満足している人が増えて、25年に逆転し、今年は66対33にまでなりました(図14-2)。
これ自身は良いことです。ただし、その理由が何なのかが、気になります。
一般的には、若者は社会の現状に不満を持ち、年齢が高くなると満足する(納得する、あるいはあきらめる)が増えてきます。この調査でも、年齢別を見ると、だいたいその傾向なのですが、違うところがあります。20代の男性です(表14-1のエクセルを見てください)。極端に満足しているのです。不満が30%しかありません。30代男性は44%が不満で、20代女性も35%が不満です。これが「草食系男子」現象で、現状に満足して、努力や改革を目指さないのだとすると、困ったことです。

満足している要素は、「良質な生活環境が整っている」43%,「心と身体の健康が保たれる」27%,「向上心・向学心を伸ばしやすい」18%,「人と人とが認め合い交流しやすい」17%,「働きやすい環境が整っている」16%です。満足していない点は,「経済的なゆとりと見通しが持てない」43%,「若者が社会での自立を目指しにくい」36%),「家庭が子育てしにくい」29%,「働きやすい環境が整っていない」25%,「女性が社会での活躍を志向しにくい」25%です。

国の政策に国民の考えや意見がどの程度反映されていると思うか聞いたところ,「反映されている」とする者が35%,「反映されていない」とする者が62%です。
現在の日本の状況について、よい方向に向かっていると思う分野は、「医療・福祉」31%、「科学技術」26%、「治安」22%です。一方、悪い方向に向かっている分野は、「国の財政」37%、「地域格差」が29%です。

 

経済成長の軌跡

2017年3月30日   岡本全勝

この表は古く、別に新しい図表があります(2021年9月24日)。

(日本の経済成長と税収)
戦後日本の社会・政治・行政を規定した要素の一つが、経済成長であり、その上がりである税収です。この表は、拙著「新地方自治入門-行政の現在と未来」p125に載せたものを更新したものです。
次の4期に分けてあります。すなわち、「高度経済成長期」「安定成長期」「バブル崩壊後(失われた20年)」、そして「復活を遂げつつある現在」です。
1955(昭和30)年は、戦後復興が終わり、高度経済成長が始まった年。1973(昭和48)年は、第1次石油危機がおき、高度成長が終わった年。1991(平成3)年は、バブルがはじけた年です。第2期は「安定成長期」と名付けましたが、この間には石油危機による成長低下とバブル期が含まれています。2012年が区切りになるかどうか。それは、しばらく見てみないと分かりません。ひとまずの仮置きです。


高度経済成長が、いかにすごかったかがわかります。年率15%の成長は、3年で1.5倍、5年で2倍以上になるという早さです。池田総理が「所得倍増論」を唱えました。それは「10年で所得を倍にする」というものでした。名目値では、5年で倍になりました(もちろん物価上昇があったので実質価値では違います)。

税収も同じように伸びていますが、実はこの間に毎年のように減税をしました。累進課税なので、減税をしなければ、もっと激しく伸びたと予想されます。石油ショック後も結構な成長を続けたこと。バブル後はそれが止まったことも。
そして、参考(65歳以上人口)に示したように、高度経済成長期は日本が「若く」、社会保障支出も少なくてすみました。当時ヨーロッパ各国は、すでに10%を超えていました。現在ではヨーロッパ各国を追い抜いて、世界一の高齢国になっています。人口の増加率も、もう一つの要因でしょう。2004年をピークに減少し始めました。
なお、より細かい景気循環については、次のページを参照してください。
内閣府の景気基準日付 http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/150724hiduke.html
日本の30年 http://www.geocities.jp/sundayvoyager/index.html

(GDPの軌跡と諸外国比較)
次は、日本、アメリカ、韓国、中国の4か国のGDPの軌跡です。「新地方自治入門」p6の図表「日本の国民一人当たりGDPの軌跡と諸外国の比較」を更新したものです。この図は、縦軸が対数目盛になっています。一つ上は2倍でなく10倍です。等間隔目盛にすると、とんでもない急カーブになります(縦に100枚つないだ状態を想像してください)。
これを見ると、かつてなぜ日本が一人勝ちできたのか、そして近年そうでなくなったかが、わかります。上に掲げた、日本の経済成長の数字だけでは見えないものが見えてきます。2018年12月23日に図を更新しました。今回も、小黒桂君の助けを借りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらの図表は、昔から使っていたものです。なかなかの優れものです。日本の社会と行政を規定する経済要因を、2つの図表で示すことができます。

今回は、小黒桂君の助けを得ました。旧サイトの「戦後日本の経済成長と税収」のページ(引っ越しの際にリンクがうまく移行できなかったらしく、新しいサイトでは、一部の図表が出てきません。よって、ページを作り直しました)。

外国人の目で見る日本

2017年3月26日   岡本全勝

3月20日の読売新聞文化欄「外国人の目で見る日本」から。
・・・外国人観光客をガイドする通訳案内士は、彼らが見せる意外な疑問や驚きに日常的に接している。業界団体の一つ、日本観光通訳協会の萩村昌代会長が明かしてくれた・・・
・・・修学旅行で行儀良く行動する中高生や、観光バスの運転手が乗客を駐車場で待つ間にタイヤのホイールを拭く姿などにも感銘を受ける外国人観光客がいた。「彼らは『日本人は客が見ていないところでも働くのか』と感激し、写真を撮っていた。私たちは、どこで見られているか分からないし、意外なものが観光資源になり得る証だ」・・・

このほかに、訪日外国人が驚き、感動する例として、次のようなものが挙げられています。
・小学生が1人で登下校している(危険ではないのか?)
・ハイテクなトイレ(買って帰りたい!)
・音をたてて麺を食べる(不快に感じる)
・富士山頂に雪がない(一年中白いはずでは?)
・アイスコーヒー(コーヒーは温かいものでは?)
・ごはん(白飯)に味がない(どうして食べられるの?)

街角の自動販売機が壊されないことも、びっくりだそうです。「お金が入っているのに、なぜ壊されないのか」と。東日本大震災の際も、「こんな時に、暴動と略奪が起きないのは、日本だけだ」とあきれられ、笑われました。日本は、それくらい成熟した社会です。

水町先生の労働法入門

2017年3月23日   岡本全勝

水町勇一郎著『労働法入門』(2011年、岩波新書)が、すばらしいです。出版されたときは、「法律の入門書、しかも労働法を新書で書いて、面白いのかなあ」と思って、読みませんでした。2月12日の日経新聞読書欄で、川本裕子・早稲田大学教授が紹介しておられたので、読みました。読んでみると、新書という読みやすさと、新書とは思えない内容の濃さです。

1 具体事例から入るので、わかりやすいです。海外旅行の予定を立てていたのに、上司から仕事のために時期を変えて欲しいと指示された場合。定年間近になって、後輩に職を譲るために自宅で休養を命じられた場合。
2 国や時代によって労働に対する考え方が違い、労働法はその社会の考えを反映していること。また、法律を変えることで、働き方を変えることができること。
3 西洋の市民革命で、領主や同業組合に縛られていた人々を解放し、自由で独立した存在としました。しかし、自由に働くことができる反面、それまであった共同体の保護を失うことになりました。そして、労働者は過酷な条件の下で、働かざるを得なくなりました。そこで、契約の自由と言う原則を変え、労働契約は法律で一定の規制をかけることにしました。そして、集団としての労働者を守ることも、導入しました。
4 ところが、20世紀の後半から、従来の労働法が前提としていた状況が変わってきました。工場で集団で働くといった標準的な労働者が減って、より自由な裁量で働くホワイトカラーや専門技術者が増え、またパートタイム労働者や派遣労働者も増えました。すると、従来の労働法では、社会の変化について行けなくなったのです。そのために、各国は1980年代以降、労働法のあり方に修正を加える改革を進めています。
私は、1970年代に大学で労働法を学びましたが、その後の社会の変化とそれに対応するための労働法の改革の動きが、とても勉強になりました。労働組合が機能不全になっているのも、この社会の変化によるのでしょう。
5 日本の労働関係の特殊性も解説されています。終身雇用、よほどのことがない限り解雇しないことを前提とした雇用システムです。メンバーシップ型労働社会であり、職に就く就職でなく、会社に入る就社です。それによって、法律や判例が諸外国と異なるのです。
6 労働法には、労働基準法のような規制の法律とともに、雇用政策の法律があること。働けなくなったときに生活を保障する失業手当です。このような消極的労働市場政策だけでなく、より積極的な労働市場政策もあります。雇用調整助成金や職業訓練助成です。
7 社会の変化に応じて、労働政策を変えていく、そして労働法制を変えていく。それが、国家や会社、社会に求められています。

法律というと、無味乾燥な世界と思われるでしょうが、こんなに面白いのです。そして、社会や国家の役割が大きいことがわかります。勉強になりました。