カテゴリーアーカイブ:社会の見方

見えざる手だけでは成り立たない経済

2020年1月30日   岡本全勝

1月26日の読売新聞言論欄、堂目卓生・大阪大教授 の「誤解されっぱなしの経済」「見えざる手 その心は共感」から。

・・・みなさん、聞いたことがあるでしょう。富を分かちあう気のない人が、利己的に活動をしても、その方がかえって全体の富を増大させる、それがスミスのいう「見えざる手」だと。
これも、ある意味、誤解です。スミスは最初の著作「道徳感情論」(1759年)で、人が野放図に富の獲得を目指せば社会の秩序は乱れると論じます。そして富への欲望だけでなく、人間にあるもう一つの本性を使おう、その能力を使えば富を得ながらも富に囚とらわれず、心の平静を保つことができる、と書いています。
それが「共感」、シンパシーです。誰でも人が泣いていたら悲しいし、喜んでいたら一緒に笑いたくなる。こうした共感は、損得勘定とは別の能力で、人間に自然と備わっている。家族だったら自分だけ食べて、他の人に食べさせないということはしませんね。当然、分けあいます。他人でも目の前に飢えている人がいれば、自分が相手の立場だったらどんな気持ちになるか想像し、利他的な行動をすることもある。こうした共感によって自分の行動を制御することができれば、それぞれが自由な経済活動をしても、おのずから最低限の富が全体に行き渡る――これが「見えざる手」によってスミスがイメージしていたことだった、と私は考えています・・・

・・・では、なぜ、スミスは誤解されたのでしょう。それは蒸気機関の時代に生きたスミスの予想をはるかに超えたスピードと規模で科学技術が発達し、富と人口が爆発的に増え、物が豊かになり、消費が増えれば幸せになるという世界観が誕生したことにあります。
富や地位への野心は、勤勉、創意工夫などを通じて繁栄に貢献しました。一方で、物の豊かさに目を奪われ、目に見えない文化や習慣、伝統などは軽んじられました。そして、歯止めのかからない野心、利己心から、今や富は偏在し、少数の富裕層が世界の資産の大半を握り、貧しい人は置き去りにされています。その結果、他人を顧みない富の追求が経済だと誤解されるようになったのです。
こうした経済の学祖とされているのをスミスが知ったら、さぞかし不本意でしょう。同時に米中貿易紛争に見られるような保護主義的な介入を見たら、約250年前の重商主義時代となんら変わっていない、と嘆くでしょう・・・

民主主義を支えた中間層の縮小

2020年1月29日   岡本全勝

1月26日の朝日新聞文化欄、「民主主義は限界なのか」、吉田徹・北海道大教授の「絶頂期から30年、衰退の危機」から。

・・・吉田さんによると、歴史上、世界で民主化が進んだのは計3回。19~20世紀初めには市民革命に続いて議会制が整い、20世紀半ばには日本など敗戦国の民主化と旧植民地独立があり、20世紀後半の東西冷戦終結に帰結する動きが3回目だ・・・

・・・絶頂期からわずか30年で民主主義はなぜ揺らいでいるのか。吉田さんが指摘する先進国における最大の理由は、中間層の縮小だ。
「戦後の先進国の民主主義が安定していたのは、原理原則が支持されたからではない。全体主義や共産主義と競争する中で中間層を守り育てる形で労働者への再分配、福祉国家化を進めることで、実質的な平等が実現したから。ところがいま、中間層が縮小し、解体の憂き目にあっている」

中間層の減退が始まったのは、国家による再分配の役割を減らした新自由主義的政策を掲げる指導者が登場した1980年代以降のことだ。その後、経済のグローバル化が進み、国際競争が激化するなかで08年には金融危機が起きた。再分配は低下して不平等化が進み、福祉国家を維持することも困難になり、中間層の縮小は加速した・・・

人生100年時代の現実

2020年1月28日   岡本全勝

1月24日の朝日新聞オピニオン欄、「人生100年の現実」。医師の富家孝さんが、次のように話しておられます。

・・・ずっと元気でいて、あまり苦しまずに亡くなる「ピンピンコロリ」が理想ですが、残念ながらめったにいません。病気やけがにより不自由になった体で生きる期間が平均して男性で9年、女性で12年ほどあるのが実情です。
感染症などで若死にする人が減り、寿命が延びても、がんなど加齢が大きな原因となる病気が残りました。がんの先には認知症が待ち構えており、80代後半で約4割、90歳だと約6割が発症します・・・

・・・議論が進まない責任はメディアにもあります。長生きというと元気な人ばかり登場させますが、長寿は良いことばかりではないと伝えるべきです・・・

フランスの経済エリート

2020年1月28日   岡本全勝

小熊英二著『日本社会のしくみ』で引用されていたので、葉山滉著『フランスの経済エリート カードル階層の雇用システム』(2008年、日本評論社)を、斜め読みしました。
官僚の社会的地位が高く、また主導的機能を果たしている国として、フランスには興味を持っていました。この本は、産業界の官僚ともいうべき、企業のカードルについて書かれたものです。カードルは、企業だけでなく官庁を含め、管理職や高度専門職に就いている人たちです。

一般的に西欧では(実体的には日本でも)、職業は次のように分類されます。
まず、自営業者と雇用者に大別されます。自営業者の中は、農業経営者と、企業主・商人・職人とに二分されます。雇用者の中は、管理職・高度専門職、中間的職業、職員、工員の4つに分けられます。

この「管理職・高度専門職」がカードルです。この言葉は、元は「枠」という意味のフランス語で、1870年代の軍隊から用いられたようです。士官学校出身の将校(士官)たちです。彼らが戦略を練ります。その方針を実践に移すべく現場で指揮を執るのが、下士官です。その指揮の下で、実践するのが兵です。
管理職・中間管理職・職員という三層構造は、たいがいの組織で当てはまります。

関心ある方は、本を読んでいただくとして。あらためて、次のようなことを考えました。
・働き方や雇用慣行は、その国の社会のかたちや個人の生き方を規定する。
・そして、教育の仕組みもそれと連動すること。フランスのエリート教育は有名です。
続きは、別途書きます

この本を探したら、杉並区の図書館にありました。このような専門的な本も所蔵しているとは、たいしたものです。図書館の蔵書は、インターネットで簡単に検索できて、近くの分館まで届けてくれます。通読しようとしましたが、他に読まなければならない本がたくさんあるので、断念。また必要がでたら、借りましょう。
アマゾンで探したら、中古はとんでもない値段がついていました。

外国語の日本語表記

2020年1月24日   岡本全勝

新聞社を始め出版社には、表記の定めがあります。外国語を日本語に移す際もです。
「ヴ」「ヴァ」「ヴィ」を、「ウ」「バ」「ビ」に変えることが多いようです。
するとどうなるか。
マックス・ヴェーバーがマックス・ウェーバーに、
アレクシ・トクヴィルがアレクシ・トクビルに、
カレル・ヴァン・ウォルフレンがカレル・バン・ウォルフレンになります。

それでなのですね、マックス・ウェーバー(Max Weber)は。
私は学生時代に、マックス・ウェーバーと習いました。でも、ドイツ人の彼が、なぜ英語風にウェーバーと表記されるのか不思議でした。日本の社会学は、戦前はドイツやフランスをお手本にしましたから、英語経由で入ってきたはずはないのに・・・と。
これまでの出版業界での表記が、ヴェでなくウェだったのですね。