「人生の達人」カテゴリーアーカイブ

管理と運営の違い

職場では、「管理」という言葉をよく使います。管理職、職場の管理、人事管理、業務管理など。私も、使っています。
先日、ふと思いました。「良い管理をしていたら、その組織は成果を出すのか」とです。良い管理だけでは、その組織は生き残ることができない、さらなる良い成果を上げることはできないのではないか。

管理職は、上司から与えられた課題を、預かった組織を使って成し遂げます。ところがたくさんの管理職を見ていて、管理としては十分な仕事をしているけど、物足りない管理職や、評価が低くなる管理職を見てきました。何が足らないのか。
「管理」は「与えられた任務を遂行する」ことで、あわせて内部管理の意味合いが強いです。外部環境の変化とそれへの対応が、「管理」という言葉では抜けてしまいます。言われたことしかしない、前年通りの仕事しかしないのです。

それで、「運営」という言葉を思いつきました。
運営も管理に近いですが、その組織を使って何を成し遂げるかという、戦略を考えることも含みます。その際には、その組織が置かれた環境の変化を見て、目標や組織をどのように変えていくかを考えなければなりません。管理は静的で、運営は動的です。「管理方針」と「運営方針」だと、この違いをわかっていただけるでしょうか。
良い管理だけでは、社会の変化について行けません。前年通りの仕事をきちんとしているだけでは、社会の変化に取り残されます。企業なら、新しい商品やサービスを出さないと、消費者に飽きられ、競争相手に負けて衰退するのです。もちろん、組織全体でそれを考えるのは、経営者の役割です。運営の上位に、経営があります。

役所は、市場での競争がないので、この意識が希薄です。首長や部局長からの指示を待つだけでは、不十分です。預かった組織は、次に何をしなければならないか。それを考えるのも管理職の役割です。
管理職には、「組織を運営するという意識」を持つことが必要です。内だけでなく、外も見なければならないのです。「内包と外延、ものの分析
私がこのことに関心を持つのは、社会が変わっているのに昔ながらの仕事をしている課を見てきたこと、復興庁では新しい課題に取り組まなければならないので、「管理」では不十分だったことなどからです
管理と運営の違い2」に続く

花形でない部署での経験

1月21日の読売新聞「経営者に聞く」は、井川伸久・日本ハム社長でした。

・・・同じ食肉事業本部でも、国内ポークや輸入ビーフの担当者は入社2年目や3年目で数千万円、数億円の商売をします。惣菜課の僕は工場でモツを煮たり、スーパーで店頭販売をしたり。主任になるのも、彼らより遅かったですね。
でも、ほったらかしで何でもやらせてもらえた点は良かったです。誰も仕事を教えてくれないから、売り上げを上げる方法を自分で考えるしかありませんでした。「失敗しないレール」に乗ったエリートの人たちとは違い、失敗だってしました。

そんな環境だったので、上司にも「これは違う」「こうした方がいい」と好き放題言っていたら、営業部門へ異動になりました。2013年に関西フードサービス部の部長に就任した時、50歳を過ぎていました。商売相手は外食チェーンなどで、一度も経験のない現場営業です。
ここで工場勤務の経験が生きました。同じような商品を他社からうちに切り替えてもらうには、価格を下げる必要があります。たとえ買ってくれても、値下げすればもうかりません。だから、全く新しいメニューを提案しました。
僕は工場や原材料のことがわかっています。だから「今この原料は安いやろ」「これを20トン分作ってよ」と、工場と話ができるわけです。提案したメニューを採用してくれれば、相手にもうちにもメリットがあります。そうした手法をどんどん広げました。

加工事業本部長に就いた時は業績回復が課題となっていて、僕は「シャウエッセン」に目を付けました。23年度で746億円売り上げた看板商品ですが、「ボイルを推奨」などの社内ルールがあり、味も1種類だけでした。
なぜボイルにこだわるのか、なぜトレンドのチリ味を出さないのか、疑問に感じていました。看板商品なので変えにくかったのでしょう。僕は、売れなかったらやめたらいいだけだと割り切りました。社内で根回しをすると、思った以上に反対されました。
味自体を変えると反発が強いため、まずシャウエッセン入りピザを発売しました。ボクシングでいえば、ジャブを打ったわけです。それで翌年にはホットチリ味を出しました。この作戦がはまって利益がピューッと上がると、社内の雰囲気が変わりました・・・

部下と戦う上司

頭が良くて仕事ができるのですが困った上司に、部下と戦う上司がいます。

部下が上げてきた案を、細かく詰めます。それは案を良いものに仕上げるには、必要なことです。ところがその上司は、欠点の指摘をするのですが、それ以上の助言をしないのです。すると、わからない部下は、何度説明に行ってもその上司の了解を得ることができず、仕事は前に進みません。
また、部下を叱る上司もいます。「なぜこんなことができないのか」と言ってです。上司は自分が経験してきたことを基に、それと同じことができない部下を叱ります。

これは、上司が部下と同じ「平面」に立って、対等に戦っているからです。
部下は多くの場合、上司より経験が少なく、仕事の能力も劣ります。その部下を指導して育てることも、上司の任務です。
部下が考えた案について、欠点を指摘することは必要ですが、部下が難渋したらそれを助けるのが、上司の役割です。しかも急ぎの仕事なら、差し戻しを繰り返す時間はないはずです。

部下を叱る上司も、同じです。なぜ、部下はあなたのようにはできないのか。できたら、その部下が上司の席に座っているでしょう。
達観した上司は、仕事のできない部下を叱りません。「叱ったところで、仕事が進むわけではないわ」と考えるのです。それよりも、早く仕事を進めるにはどうしたらよいかを考え、次回は部下ができるようにするにはどのように指導するのが良いかを考えます。

管理職になりたくない

1月11日の読売新聞「管理職はつらいよ」「職場まとめる力 重要に」から。
・・・かつては多くのサラリーマンが目指した管理職が、憧れの地位ではなくなってきているのかもしれない。「なりたくない」という人が増えているのだ。組織の中核を担う重要なポストはなぜ、避けられてしまうのだろうか。

その歴史は古い。紀元前の古代エジプト時代、ピラミッドの建設現場に労働者を差配する「管理職」がいたことが、発掘物から明らかになっている。
現在の企業では、どんな役職が管理職にあたるのか。通常は部長や課長を指す。働く時間や休日を自分の裁量で決められる一方、どれだけ働いても残業代は支払われないケースが多い。任された部署で陣頭指揮を執り、部下をまとめて成果につなげる。組織の目標達成に、なくてはならない存在だ。

「じゃあおまえは何故サラリーマンを選んだんだ」
1983年に連載が始まった漫画「課長 島耕作」(著・弘兼憲史、講談社)で、出世争いから距離を置こうとする大手家電メーカー課長の主人公に対し、同僚がこう問いかける。
会社員は出世を望むべきで、その登竜門が管理職。高度経済成長やバブル景気に沸いた昭和時代は、そんな風潮が根強かった。「出世のためなら苦労も我慢」と考える会社員が半数超に上ったという調査結果もある。

近年は価値観が一変しつつある。パーソル総合研究所が2022年に行った調査では、18か国・地域で管理職になりたい会社員は、日本が全体平均(58.6%)を大きく下回る19.8%で、最下位だった。
理由の一つに業務負担の増加がある。少子高齢化により、生産年齢人口(15~64歳)は、この30年で1000万人以上も減り、人手不足が深刻化した。長時間労働を是正する「働き方改革」も進み、部下の業務を管理職が肩代わりするケースが相次ぐ。産業能率大学の23年の調査では、「プレーヤー」を兼ねる課長は94.9%に上った。
共働きの浸透で、育児や親の介護といった事情を抱える部下は多く、細やかな管理が必要となった。部下の指導や育成と、ハラスメントとの線引きに悩む人も少なくない。
厚生労働省の統計によると、01年に1.8倍だった課長級と一般社員の賃金格差は、23年に1.6倍まで縮まり、報酬面での魅力も薄れている。
パーソル総合研究所の小林祐児・上席主任研究員(41)は「管理職として働くことが、『罰ゲーム』のような状況になってしまっている」と指摘する・・・

・・・管理職の働き方に詳しい法政大の坂爪洋美教授は「価値観の多様化が進む現代ほど、職場を一つにまとめ上げる管理職の力が求められている時代はない。仕事に誇りが持てるよう、待遇改善や支援が重要だ」と語る。
日本経済の未来は、管理職が生き生きと働けるかどうかにかかっているのかもしれない・・・

企業が試行する「つながらない権利」

1月13日の朝日新聞「「つながらない権利」確保、企業手探り 休日の業務電話は自動転送 22時以降・土日はメールNG」から。

・・・いつどこでも業務対応できる時代となる中、勤務時間外は電話やメールなどに反応しない「つながらない権利」が注目されています。権利確保に向けて取り組む企業が増え始めていますが、運用には難しさもあるようです。

空調設備会社オーテック(東京)の男性社員(25)は、月に数回ある平日休みの「勤務」に頭を悩ませていた。
多いときで1日3件、業務の電話が鳴った。取引先から「空調の故障で警報が出ている」と電話があれば、休みでも取引先に出向いて作業した。映画を見ていても、電話が鳴ると対応せざるを得ず、鑑賞を途中で断念したこともあった。
「休みを取っていてもいつ対応が必要になるか分からずビクビクして、休んだ気になれないこともあった」と、男性は振り返る。
この状況が、2023年11月から変わった。
男性が所属する名古屋市の中部支店技術部で、平日に休みを取っている社員に顧客から電話があった場合、支店に自動転送する取り組みを始めたことだ。対応するのは出勤している他の社員。担当以外でもトラブルに対応できるよう、マニュアルをまとめて職場で共有する体制も整備した・・・

・・・日本ではテレワークの浸透やスマートフォンなど情報機器の普及もあり、つながることが当たり前のようになっている職場は少なくない。
労働組合の中央組織・連合が、23年9月に実施した「つながらない権利に関する調査」では、働き手(雇用者)の72・4%が「勤務時間外に部下や同僚、上司から業務上の連絡がくることがある」と回答した。
勤務時間外の連絡を拒否できるのであれば、そうしたいと思うか、と聞いたところ、「そう思う」は72・6%だった。しかし、「連絡の拒否は難しい」と思う働き手は62・4%で、個人で対応する難しさが示された・・・

・・・一方、運用面の難しさなどから取り組みを緩和させた企業もある。
あずさ監査法人(東京)は17年、主に午後9時~翌朝7時のネット接続を原則禁止した。しかし、20年11月には管理職をその対象から外した。外すにあたっては、月80時間を超える残業をより厳しく管理することを条件にした。
コロナ禍でテレワークが浸透し、柔軟な働き方のため、規制緩和を求める声があがったからだ。
その声は管理職だけでなく、一般職員にも広がる。専門知識・スキル向上のための自己研鑽などを柔軟にできるようにしてほしい、海外とのタイムリーな連絡が必要になる、といった意見が相次いだ。活躍が難しくなると退職した職員もいたという。
今では、一般職員でも緊急業務の対応がある場合は上司の承認の上、規制を緩めたり、最繁忙期に統一方針として緩和したりしているという・・・