カテゴリーアーカイブ:人生の達人

デザイン思考、あるいは商品としての言葉

2021年8月19日   岡本全勝

「デザイン思考」という言葉や考え方が、よく使われるようになりました。この20、30年間のようです。興味を持っていたのですが、深く勉強しませんでした。ようやく、このようなことを主張しているのだと理解できました。

デザインと聞くと、商品の色と形を意味すると考えます。日本語にすると、意匠です。デザイナーは、商品の形や色を考える人、そしてどうしたら売れるかを考える人です。
これに対しデザイン思考は、商品(物)に限らず、サービスや事業などをも対象とします。それは色と形を考えるのではなく、どうしたら効率化できるか、よりよいサービスを提供できるかなどを考えます。課題解決と言い換えたらよいでしょう。

この思考自体は良いことだと思いますが、目新しい話ではありませんよね。「デザイン思考」と言われると、何か高尚なものかと思ってしまいます。これがカタカナ語を使う落とし穴ですね。
中国語では、デザインを「設計」と訳すそうです。田中一雄著『デザインの本質』(2020年、ライフデザインブックス)15ページ。これなら、デザイン思考が課題解決という意味であると理解できます。ものの形だけでなく、さまざまな業務に適用できます。

反対語は、成り行き任せ、前例通り、何も考えずに取り組むことでしょうか。
課題解決あるいは設計なら、経営者も管理職も、あるいは課題を与えられた社員も、みんな実践しています。でも、それでは売れないので、「デザイン思考」と名前をつけて、本や講演、コンサルタント業を売るのでしょうね。
売られるのは、店に並ぶ商品だけではありません。このようにアイデアを新しい言葉で売る人たちも、新しい理論を売る学者もいます。ところで、低下する日本の国力を嘆く人は多いのですが、次の日本のあり方を売る人が見当たらないことが心配です。

業績を左右する社風

2021年8月17日   岡本全勝

会社にしろ、役所にしろ、あるいは学校にしろ、その会社の概要説明や内部規則だけでは、それぞれの組織の「体質」はわかりません。同じ業種でも会社が違えば、社風が異なります。霞が関の各省でも、社風が違います。それによって、楽しい職場であったり、業績が上がったりします。その逆もあります。企業風土、企業文化とも言われます。社風やお国柄が組織や国を強くすることは、私の研究対象の一つです。参考「組織の能力5。仕事の仕方と社風を作る」「福澤武さん、社風を変える2

週刊『日経ビジネス』8月16日号は、特集「良い社風、悪い社風 不祥事の根源か、改革の妙薬か」です。日経ビジネス電子版には、「三菱電機、みずほ、不祥事企業「誌上覆面座談会」 原因は社風に?」が載っています。覆面座談会は信憑性に疑いがあるのですが、一部を紹介します。これを読んでも、社風を変えることは大変でしょうね。

・・・日経ビジネスは不祥事を繰り返す企業の現役社員のインタビューを実施した。登場してもらうのは、2021年6月に長期にわたる組織的な検査不正をしていたことが発覚した三菱電機、2月から3月にかけて3度目となる大規模なシステム障害を起こしたみずほ銀行、15年に不正会計、20年以降には経済産業省と共同で株主に圧力をかけた問題が指摘された東芝の現役社員だ。自らが勤める会社の社風をどう捉えているのか・・・

ー企業で不祥事が起きると、根底には「あしき社風」があると指摘されます。勤務している企業の社風をどう捉えていますか。
三菱電機社員のDさん(40代):上司に意見を言わない風土はある。事業本部だと、担当、課長、部長、事業部長、本部長という序列があるが、トップである本部長は神のような存在だ。部長が本部長に直接話すと、間にいる事業部長はいい顔をしない。
本部長は(年度によって異なるが)いわゆる「1億円プレーヤー」だ。報酬の高さからこのポジションを目指す人は多く、上への忖度が半端ない。顧客と話していても「三菱電機は管理職の権限が強すぎる」とよく言われる。これが(経営陣も会見などで指摘している)「上にものが言えない風土」なのかなと。

東芝幹部社員のTさん(40代):よく言えば真面目、悪く言えば従順かな。仮に変だと思っても上が決めたことをやってしまう風土がある。
ただ、事業部門によって文化は違う。もう手放したけど、パソコンや半導体メモリー事業は動きが速く、自ら市場を開拓するためガツガツした感じだった。一方で重電はややのんびりしている。官公庁向けの業務も多く、顧客を見て仕事をしている雰囲気だ。

ーみずほ銀行はどうですか。第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が合併して生まれましたが、どこかの社風を引き継いでいるのでしょうか。
みずほ銀行行員のMさん(50代):うーん、どこの社風というのは正直ない。ただ、興銀系のエリート意識はまだどこかに残っている。あとは縄張り争い。リテールが強かった一勧と富士で、それぞれ負けん気を出して行内で競い合った。そのパワーを外に向ければいいのに、内々の競争に使うんだから競合に勝てない。さんざんトラブルを起こしてきたシステム障害もこういった風土が影響していると感じている。
結局、「対等合併」という美名の下でくっついたのが良くなかった。主従がはっきりしていれば、内外から見てもわかりやすい。ところが、対等なんて適当なことを言うから、その後の縄張り争いにつながってしまった。今の社風を端的に表すなら「3行の悪いところだけ足し合わせた」という感じかな(笑)。

 

非認知能力

2021年8月16日   岡本全勝

「非認知能力」って、ご存じですか。
時々目にするので、何のことか気になっていました。インターネットで検索すると、いくつか参考になる記事が見つかります。これだという記述は、見つからないのですが。

学力テストなどで測ることができない個人の能力です。意欲、忍耐力、自制心、協調性、コミュニケーション能力などがあげられています。
学術研究によって、非認知能力の高さが、学歴や収入に影響することが明らかになっています。また、学力のように1人で身につけられるものではなく、集団行動を通じて養われるものが多いといわれています。

えらく難しいことをいっているようですが、私たちがふだん経験し、知っていることですよね。
勉強ができるだけでは、職場ではよい成績を上げることができません。忍耐力や自制心は、ある程度は学力に伴うことがあるでしょう。勉強を続けることができたのですから。しかし、自己中心的で協調性のない人、ある案に対して批判するのは得意だけど代案を出さない人・・・私の若いときは、そのような人は「天動説」「学者」と批判されました。

採用面接は、それを見抜こうとしています。体育会系の部活動出身者が高く評価されるのは、それに取り組もうとした意欲、続けた忍耐力、集団行動ができる協調性があると評価されるのです。もちろん、認知能力(頭の良さ)を備えた上でのことです。
小学校ではしばしば、「知育、体育、徳育」の三つを教育の目標としています。この点を踏まえたことでしょう。
頭ばっかりでも、体ばっかりでも、ダメよね」は、プチダノンの宣伝でした。

ところで、非認知能力という表現では、内容がよくわかりませんね。子どもや子どもを持つ親にもわかるような、もっとよい表現はないのでしょうか。

人材育成、規範的判断力の重要性

2021年8月4日   岡本全勝

8月3日の日経新聞、宮田一雄・元富士通シニアフェローの「ジョブ型時代の高度人材 規範的判断力こそ重要」から。

・・・データサイエンティストやデジタル部門責任者などのジョブ型雇用が始まり、人材の流動化が日本でも進み始めたことは喜ばしい。専門性が求められるデジタル部門責任者に、終身雇用下でゼネラリストとして育った人材が就く日本の現実は世界でも特殊だ。
既存企業がデジタル技術の急速な進化に対応していくには新卒一括採用後に企業内研修を経て職場で育てる時間はない。
経営陣には技術の重要性を的確に判断できる高度専門人材がいないと、正しい判断はできない。価値の重みがモノからサービスにシフトし、企業は技術を価値に転換する経営が求められているからだ。「GAFA」に代表される米ネット大手の経営陣の多くはコンピューター科学や心理学、経営学などを大学院で学んだ人々である。
といって、専門知識のみが大学教育に求められているわけではない。企業は、その根っことしてのリベラルアーツ教育に期待している。

リベラルアーツというと歴史や文学を思い浮かべがちだ。高度専門人材のためのリベラルアーツとして産学で合意したのは「人文学、社会科学、自然科学のどの分野であれ学生が一つの専門を深く学ぶとともに、他分野にも関心を広げ、幅広い知識と論理的思考力、規範的判断力を身につけること」という定義だ。
ここで規範的判断力が重要であるという指摘は新鮮だった。これからは「望ましい社会や企業とは」「公正な社会とは」といった判断が避けて通れない。それには一定のトレーニングが要る。
哲学・倫理学だけではなく政治学、法学、経済学、社会学などの規範に関する理論を学び、規範的な思考の枠組みを身につけなくてはならない。複雑な社会課題の解決や共通善に向けた新たな価値づくりのためには、論理的思考力に加え規範的判断力が必須なのだ。
ドイツでは大手企業の経営者の45%が博士号を持つ。大企業の役員・管理職に占める修士以上の割合は米国62%に対し日本は6%。日本の大学院進学率は理工系こそ40%前後だが、人文社会学系は5%以下だ。
こうしたデータを見ると、バブル経済の崩壊以来30年に及ぶ日本の停滞の原因は役員・管理職層の規範的判断力の不足、企業で活躍する文系大学院修了者の少なさにあるという仮説が浮かぶ・・・

益川先生、人は記憶を作る

2021年8月3日   岡本全勝

ノーベル賞を受けられた益川敏英先生が、お亡くなりになりました。なかなか愉快な先生だったようです(失礼)。私のホームページで先生を紹介したことを、思い出しました。再度掲載します。
物忘れのひどい私が言うのではなく、ノーベル賞学者がおっしゃることで、説得力があります。「人は記憶を作る

・・大学の学生時代、友人たちと映画を見た後、感想を語り合った。登場した女性について、ある者は「黄色い色の服を着ていた」と言い、別の人は「赤い服だった」と言う。また別の者は「違う、青色だった」と、てんでばらばらな議論になった。
そこで、確認するために、もう一度映画館に行こうと提案した。ところがその映画は白黒映画だった。色がついているはずがない。みんなキツネにつままれたような表情だった。
人間というものは、記憶を作ってしまうものだということが、その夜の議論の結論だった・・