カテゴリーアーカイブ:社会の見方

ワーク・ライフ・バランスの移行期

2026年1月14日   岡本全勝

2025年11月9日の朝日新聞、「「全員が猛烈に働く」文化、脱する道は ワーク・ライフ・バランスの現在地 濱口桂一郎氏に聞く」から。

―高市氏の発言をきっかけに「ワーク・ライフ・バランス」に注目が集まりました。
「ワーク・ライフ・バランス」って、実は変な言葉ですよね。この言葉は「ワーク」と「ライフ」が対立を起こしているというイメージを与えます。
でも家事や育児が「アンペイドワーク(無償労働)」と言われるように、「ライフ」は「ワーク」でもあります。同時に、「ワーク」とされるものは「職業生活」という「ライフ」でもある。

―仕事を制限すれば、やはりペナルティーがあります。
ワークの世界は、ライフの領域の責任が希薄な人たちを前提にできています。だから育児で仕事を制限する働き方が、「マミートラック」という揶揄するような言葉で表現される。でも私は、「マミートラック」の価値が見直されてもいいと考えています。

―どういうことですか。
日本企業は全員が「頑張って働く」ことが当たり前とされていますが、世界的に見れば異例です。諸外国では、少数のエリートは厳しい要求に応える、大多数のノンエリートは与えられた水準の仕事をクリアするだけというのが一般的です。
新幹線で「グリーン車に乗るのが当たり前」なのが日本企業です。それ以外はデッキで立たされる非正規雇用。でも本当は、多くの人は一応座れる自由席でいいはずですよね。この自由席が「マミートラック」とされる働き方です。現状はグリーン車が「ノーマルトラック」になっています。

―なぜそうなったのでしょうか。
戦後の平等主義の中で、エリートとノンエリートの格差がなくなったからです。全ての社員が猛烈に働く文化を作り、正社員であれば平等に扱われる。一概に悪いとは言えません。私は「ガンバリズムの平等主義」と呼んでいます。
でもこれは「がんばれる人の平等」です。がんばれるかどうかは個人の問題ではなく、夜中まで働いている時に子どもの面倒を見ている「銃後の守り」があるからがんばれる。この前提を無視して、そこに女性を投げ込んで、さあ活躍しなさいと競争させられたらしんどいですよね。

―人事考課が「ガンバリズムの平等主義」を補強していませんか?
1990年ごろから「欧米はもっと厳しくやっている」という大きな誤解とセットで、ヒラ社員にも「目標に向かってがんばれ」という評価制度が広がりました。現実は逆で、諸外国ではヒラ社員の評価なんてないのが当たり前です。

―あまり希望が見いだせないですね。
社会全体で見ると、今は移行期なのだと思います。男女ともに「転勤がある仕事は絶対にいやだ」というような考え方が広がっている若い世代と、中高年層との感覚の違いが表面化しています。世代交代によって変化は生まれるでしょう。
もう一つ必要なのは、「ガンバリズム」的な働き方に「ついていけない」「嫌だ」という人たちを振り落とさない形で、「がんばる人」をどう選ぶか考えることです。しかし、「社会は平等になった」と感じている人たちにとっては不愉快な話でもあり、納得できるかどうか。難しいかもしれませんね。

日本の時間あたり労働生産性は28位

2026年1月12日   岡本全勝

日本生産性本部が、2024年の労働生産性国際比較を公表しました。
OECDデータに基づく2024年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は、60.1ドル(5,720円)で、OECD加盟38カ国中28位でした。就業者一人当たり労働生産性は98,344ドル(935万円)で、OECD加盟38カ国中29位です。
G7各国(アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)もちろん、スペイン、トルコ、チェコといった国々にも負けています。
一人当たり労働生産性は、アメリカの54%程度です。主要先進7カ国の中では日本に次いで労働生産性が低いイギリス と比べても8割弱となっています。

日本の産業界のみなさん、奮発してくださいよ。

『2050年のメディア』

2026年1月11日   岡本全勝

下山進著『2050年のメディア』(2023年、文春文庫)を読みました。宣伝には「読売、日経、ヤフー、波乱のメディア三国志!」とあります。
大きく、次のようなことが書かれています。
・インターネットと新聞の戦い。ヤフーに押されて、新聞の発行部数が激減します。
・迎え撃つ新聞社の戦い方は、社によって異なります。無料だったインターネットでの記事を、有料にします。

報道でもこれらのことは書かれていますが、本書ではこれまでのいきさつが、よく整理されています。お勧めです。また、10年後に、その後を書いてほしいです。
新聞を読む人が減っています。これから、新聞がどのように生き残るのか。社会に必要な「公器」ですが、営業とどのように両立させるのか。気になります。インターネットで見ることでニュースを見たと思っている人、それで十分だと考える人が多いということです。

また、この本筋とは別に、読売新聞社内の内情が語られます。巨人軍監督の反社会勢力との付き合い、「清武の乱」とか。
なかなか、内容の濃いものです。

福井ひとし氏の公文書徘徊9

2026年1月6日   岡本全勝

『アジア時報』1月号に、福井ひとし氏の連載「一片の冰心、玉壺にありや?―公文書界隈を徘徊する」第9回「謹賀新年ー公文書の中のお正月」が載りました。

「明治元年にお正月はあったのか?」(孝明天皇が亡くなられたことによる明治改元は9月8日です。正月はまだ慶応4年だったはず)から始まります。
新政府ができて、官庁や官吏はどのようにして新年を迎えるのか。悩ましかったようです。
その後の、年賀状の扱い、新年一般参賀などの歴史が語られています。いつものとこながら、よく調べてありますね。宮内庁の資料まで。絵はわかりやすいです。
「へえ」と思うことがたくさん載っています。ご一読をお勧めします。無料でインターネットで読めることは、うれしいですね。

誤りだった「文明の衝突」

2026年1月6日   岡本全勝

2025年12月26日の日経新聞オピニオン欄、ジャナン・ガネシュ氏の「誤りだった「文明の衝突」 紛争は仲間内から生じる」から。この後の分析は、記事をお読みください。

・・・「文明の衝突」を著した米ハーバード大の政治学者サミュエル・ハンチントン氏が、2008年に亡くなる前に「ほら、私の言う通りだった」と述べたとしても、さほど反論は受けなかっただろう。
米国は当時、すでにイラクとアフガニスタンでの作戦に何年もどっぷりはまっていた。西側諸国とイスラム世界との間で生じたこうした暴力は、かつて世界を複数の文明に分類し、それらの衝突を予見したハンチントン氏の正当性を証明したかに見えた。
我々の新たな千年紀が多くの混乱とともに幕を開けたので、彼には「先見の明がある」という言葉がついて回った。
「良いタイミングで亡くなった」などと言うのは失礼だ。だがハンチントン氏が存命だったら、世界を完全に読み違えたとして、あの米政治学者フランシス・フクヤマ氏と同様に厳しい批判を受けていただろう。

現在、重大な対立は文明と文明の間ではなく、文明内部で起きている。文明という言葉がかくも多用されつつ(米政府が先日発表した「国家安全保障戦略」も欧州の「文明消滅」について語っている)、これほど役に立たない時代も珍しい。
今の紛争が起きている場所を見てほしい。ウクライナ戦争は少なくともハンチントン氏の分類に従えば「東方正教会文明」の内部で起きている。中国本土と台湾の対立も同じ文化圏内の争いだ。ハンチントン氏はこの文化圏を中華文明と呼んだ。
世界で今、最も死者を出している紛争と思われるアフリカのスーダンの内戦も、まとまりのある宗教的、あるいは文化的な集団同士の戦いではない。それどころか同内戦の当事者を支援する外国勢力の一方にはアラブ首長国連邦(UAE)が、他方にはエジプトが含まれており、異なる文明圏というより大半が同じイスラム圏の勢力だ。
イスラエルとパレスチナとの問題は文明間の衝突に近いかにみえるが、今の世界紛争の典型例とは言えない。この局地的な紛争にかくも部外者が注目するのは、文明間の対立として理解(もしくは誤解)しやすいからで、誰もが想定できる紛争と言える。

今日の様々な対立の境界線はそれほど明確ではない。ハンチントン氏の主張で最も批判を招いているのは、イスラム教には「血なまぐさい境界線」があるというものだ。ほかの文明と接触した時、および場所から争いが始まるというのだ。
だが過去10年が示す証拠は、イスラム諸国にとっての標的はほかのイスラム諸国かに見える。イランとサウジアラビアの代理戦争、エジプトと湾岸3カ国(サウジ、UAE、バーレーン)による17〜21年のカタールとの断交、そして12月上旬にイエメンで続く内戦でUAEが支援する反政府組織が、サウジが支援する政府軍に対し大きく前進したことを考えてみてほしい。
これに11年に始まったシリア内戦と、そのきっかけとなった10年末に始まった中東の民主化運動「アラブの春」もそうで、「血なまぐさい」衝突は文明間ではなく同じ文明内で起きている・・・