カテゴリーアーカイブ:社会の見方

格差拡大の先に

2026年1月29日   岡本全勝

格差の拡大が問題になっています。一部の富裕層が富の多くを所有し、ほかの人たちが貧しくなっているのです。
アメリカでの貧富の格差が取り上げられますが、日本も進んでいます。例えば、東京都の最低賃金は、2025年10月から時間額1,226円です。1日8時間働いて約1万円。1か月20日働いて20万円。1年12か月で240万円です。最低賃金近くの労働者もいて、中小企業は引き上げに難色を示します。
他方で、東京都の中古マンションの平均価格(70平米)は、1億円を超えたそうです。240万円×40年=9600万円ですから、利息なしで40年かかることになります。生活費ゼロです。首都圏でも6000万円を超えています。

成功した経営者は、「私の努力の成果だ」と考えるでしょう。それは、一部は正しいです。しかし、それが進むとどうなるか。多くの消費者の所得が上がらないと、製品やサービスは売れません。消費者がいて、所得が上がればこそ、売り上げが拡大するのです。
企業が業績を上げるために、売れ行きを拡大するためには、消費者を豊かにしなければなりません。

経済成長期は、製品が売れる→従業員の所得が上がる→製品が売れるという好循環があり、持続的に成長しました。バブル経済崩壊後の長期不況は、この逆に、給与が上がらない→売れない→給与が上がらないの悪循環だったのです。
格差の拡大の行き着く先は、資本主義経済の自滅です。

世界で進む少子高齢化

2026年1月27日   岡本全勝

2025年12月21日の読売新聞「あすへの考」、大塚隆一・編集委員の「少子高齢化 世界で加速 人類史上初 予測超える悪化 新しい繁栄モデル構築 課題」から。詳しくは記事をお読みください。

・・・少子高齢化が深刻なのは日本だけではない。豊かな国も貧しい国も、民主国家も強権国家も同じ問題に直面しつつある。人口が減少に転じる国も増えてきた。同時に進む経済成長の減速は問題への対処を一段と難しくする。人類史上初めての事態は世界にどんな波紋を広げるのか。

まず国連の最新のデータから作った図やグラフを見てほしい。
左側は世界全体で進む少子化の現状と見通しだ。尺度にしたのは「合計特殊出生率」。1人の女性が生涯に産む子供の数の平均である。この値が1950年から2100年までの150年間にどう変わっていくかを示した。将来の予測は国連が最も可能性が高いと考える「中位推計」に基づく。右側は高齢化の推移だ。比べたのは、全人口を年齢順に並べた時にちょうど真ん中にくる「年齢中央値」である。これは国の「若さ」や「老い」の目安になる。予測の部分はやはり「中位推計」だ・・・
・・・改めて驚くのは少子化と高齢化のスピードだ。
第2次大戦後まもない1950年、世界全体の出生率は4・85だった。今は人口を維持できる「人口置換水準」の2・1をかろうじて超える2・25まで落ち込んだ。同じ期間に世界の年齢中央値は22・2歳から30・4歳に上昇した。2100年には40歳を超える。これほど急速な高齢化を人類は経験していない。
子供の数が減れば人口は伸びが鈍り、いずれピークを迎える。グラフが示す通り「中位推計」だと世界の人口は2080年代に100億人を超え、その後は減少に転じる。14世紀のペスト禍を除き、人口が下り坂に入るのはやはり初めての事態だ。

個々の国や地域の動向では注目したい点が三つある。
まず中国と韓国の少子高齢化。子供の減り方は際立っている。高齢化の勢いも他国を圧倒する。中国の年齢中央値は2100年に60・7歳になる見込みという。一体どんな社会になるのか。
次に子だくさんのアフリカも変わっていく。どの地域よりも「若さ」を保つが、少子化はこの大陸にも及んでいく。出生率は今世紀末には人口置換水準を下回る・・・

・・・ここで断っておけば国連の将来予測には異論が多い。見通しが楽観的すぎるというのだ。
多くの専門家は人口のピークはもっと早いとみる。2053年に約89億人という「低位推計」の方が現実的という指摘もある。
なぜなのか。国連は出生率が大きく下落すれば、その後は安定または反転すると仮定している。だが実際は少子化が止まらず、むしろ加速している国が多いからだ。例えば、日本。国連は2023年の出生率1・21が翌24年には1・22に回復すると予測したが、現実は1・15への低下だった。トルコは大外れだった。予測は23年1・63→24年1・62だが、実際には1・48まで急落した。
こうした流れが続けば、2100年の世界の出生率は1・84よりもっと落ち込む可能性がある・・・

・・・国連の推計が覆される例が相次ぐことが示すように、人口の将来予測は難しい。こんな例もある。
国連は人口予測を2~3年ごとに公表している。今回の2024年版を2019年版と比べると世界人口のピークは「2100年頃に約109億人」から「2084年に約103億人」に変わった。ピーク年は16年も早まった。また中国の2100年時点の人口予測は「10・7億人」から「6・4億人」に激減した。たった5年で国連の見通しはこれほど変わった・・・

家近亮子著『蒋介石』

2026年1月26日   岡本全勝

家近亮子著『蒋介石―「中華の復興」を実現した男』 (2025年、ちくま新書)が、勉強になりました。

「はじめ」にも紹介されていますが、大学生が「ショウカイ石って、どんな石ですか」と質問する時代です。
私の世代にとっては、中国共産党との戦いに敗れ、台湾に拠点を移した中国近代史の政治家です。父の世代にとっては、敗戦で中国大陸に残された日本軍と日本人を平和裏に帰還させた恩ある政治家、賠償金も取らなかった温情ある政治家です。ソ連占領地域の満州に残された日本人の悲惨な扱いと比べると、その差の大きさがわかります。
とはいえ、父の世代も私の世代も、実は蒋介石についてよくは知らないでしょう。戦時中は日中戦争の敵であり、おとしめた記事が広められました。戦後は共産党中国が、国民党と蒋介石の実績を隠しました。私が大学に入った頃は、新聞なども中国共産党と毛沢東を高く評価していました。その後、共産党支配の実態がわかるにつれて、その評価は低下しましたが。他方で、台湾と蒋介石については、十分に知られていたとは言えません。

宣伝文には、次のようにあります。
「蒋介石は、中国の悲願である「中華の復興」を実現しながらも、毛沢東に敗れたために「人民の公敵」として記憶されている。決定版評伝で中国近代化の真相に迫る」

確かに、清朝末期以来、西欧諸国(日本も含む)の侵略を受け、世界の大国の地位どころか国家としての体を失いつつあった国を、国際連合の5大国の一つに引き上げたのは、蒋介石の実績です。彼の願いの第一には、中華の復興があったのです。他方で、国内統一、国民党の支配確立は簡単ではなく、苦悩します。第一の敵は、日本軍でした。党内把握は何度も挫折しつつも維持しますが、共産党との争いには負けてしまいます。苦悩の連続です。政略の離婚と再婚、私生活での悩みも続きます。躁鬱症にも悩んだようです。
日本と日本軍が違った行動を取っていたら、彼と中国の運命は大きく変わっていたでしょう。大きな視野からの戦略を持たず、その場限りの対応や青年将校たちの将来を考えない膨張主義が、とんでもない結果を生んでしまいました。

本書は、彼の内面、行動、そして結果を丁寧に追いかけています。新書ですが、本文だけでも460ページあります。読み応えありますが、読みやすい文章です。
他方で、毛沢東のわかりやすい評伝はあるのでしょうか。報道の自由がない共産党中国では、本書のような客観的な記述はできないのでしょうね。

低い幸福度の理由

2026年1月26日   岡本全勝

2025年12月13日の日経新聞「くらしの数字考」は「幸福度 日本の順位なぜ低い」でした。

・・・日本は今なお世界4位の経済大国で、長寿も世界トップレベル。だが、国や地域別に「幸福度」をはかる国際調査では、順位の低迷が続いている。なぜなのだろうか。

英オックスフォード大などがまとめる「世界幸福度報告書」2025年版で、日本は147カ国・地域のうち55位と、前年の51位から順位を下げた。同調査は各国・地域の約1000人に対し、生活満足度を0から10の範囲で自己評価してもらい、直近3年間の結果を平均して幸福度を測定する。
国・地域間の違いを理解するための項目別データをみると、日本は「健康寿命」は世界2位、「1人あたりの国内総生産(GDP)」は世界28位と高水準。一方で「人生の自由度」(79位)や「寛容さ」(130位)などの順位が低い。
他の調査でも日本の幸福度は低迷している。米ハーバード大学などの研究チームが4月に公表した調査結果では、調査対象の22カ国・地域中で最下位。国際調査会社の仏イプソスが25年に実施した幸福度ランキングでも日本は30カ国中27位だった。

どうして日本の順位は低くなりがちなのか。幸福度の分析をする青山学院大学教授の亀坂安紀子さんは「当然の結果」と言い切る。
賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、男性の稼ぎだけで家計を支える生活モデルが厳しくなった。仕事をする女性は増えたが、家事負担は減っておらず、時間に余裕がない人が増えており「時間貧困で、生活満足度が低い」(亀坂さん)。幸福度を上げるには、睡眠時間を長くし趣味や娯楽を楽しむ時間を確保することが有効だとみる。

一方で「日本人は世界一幸福だが、その幸せに気付けていない」ことが低迷の原因と分析するのは、幸福やストレスについて詳しい精神科医の樺沢紫苑(しおん)さん。感謝の気持ちを持つとセロトニンという脳内物質が出て幸福感を感じられるが、日々の生活に不自由しないことが当たり前になり、感謝の気持ちを持ちづらくなっているとみる。
調査方法が一因との見方もある。幸福度の調査に詳しい武蔵野大学教授の前野隆司さんは、幸福度を聞く調査だと「謙虚」に回答しがちな日本人は順位が低くなりがちだと指摘する。
「個人主義的な国は(自分の幸福度を)高めに答えて(アジアなど)集団主義的な国の人は低めに答える傾向がある。その点は差し引いて考えた方がよい」(前野さん)

一方で前野さんは、日本人が孤独を深めていることが幸福度を下げている側面もあるとみている。「もともと日本人は誰かと一緒に過ごすと幸福を感じやすい傾向にあるが、欧米的な個人主義の広がりと共に幸せを感じにくくなっているのではないか」
世界幸福度報告書は「若年成人の孤独感は日本が突出している」と指摘する。報告書中の調査では、日本の若年成人の30%以上が、家族や友人など親しいと感じられる人が「いない」と回答した。
高齢化や晩婚化により、一人暮らしをする単独世帯も増えている。日本は誰かと一緒に食事をする頻度のランキングで、142カ国・地域のうち133位だった。
誰かと一緒に食事をする割合が高い国の人は、社会的に強く支えられていると感じ、孤独感が弱い傾向にあるという。日本では主体的に「おひとりさま」を選び単身生活を楽しんでいる人もいるが、社会的に孤立し困りごとを一人で抱える人も少なくない・・・

冷めた風呂現象?

2026年1月21日   岡本全勝

ゆでガエル現象」ということは、聞かれたことがあるでしょう。
カエルを水に入れてゆっくりと温度を上げると、カエルは気がつかずに、そのまま茹でられて死ぬという話です。実際は、逃げ出すでしょうが。緩やかな変化は気づかずに、致命的な状況に陥るという警告に使われます。

この30年間の日本経済の停滞は、これに当てはまりますが、温度が下がるので逆だと思います。徐々に経済力が落ちて、国際的には先進国と言えない状況にまでなりました。国内では給与は上がらず、非正規が増え、貧しい国になりました。しかし、徐々に変化した、というか変化しないうちに世界は成長していたので、危機感を持ちませんでした。

この状況は水温が上がったのではなく、暖かいと思って浸かっていたお風呂が、徐々に冷めて冷水になったと言った方がよいでしょう。どこかで風呂から出なければならなかった、そして追い焚きをしなければならなかったのですが、外も寒いので「もうしばらく浸かっていよう」と考えたのです。「冷めた風呂」とでも呼びましょうか。
「ゆでガエル」という表現に対比するなら、どんどん冷たくなって、ついには凍ってしまう「冷凍ガエル」でしょうか。

と書いたら、肝冷斎が、「まあまだいいか」という言葉を使っていました。
そうですね。気づかないうちに危機になる場合と、気づいていても対策を先送りする場合とがあります。もう一つ、間違った対策を打ち続ける場合もあります。この30年間の日本は、二番目と三番目だったようです。