カテゴリーアーカイブ:生き方

一仕事を終えた後に

2026年5月15日   岡本全勝

先日、ある職責を終えた人と、意見交換会をしました。その重責を負えても社員であるので、次の職に就いたのですが、前職に比べると荷が重くありません。本人曰く「3年間頑張って、燃え尽きました」と。いろいろと難しい場面もあり、それを乗り越えたようです。よかったです。
しかし、それを評価しつつも、私は次のように言いました。
「まだ気を抜いてはいけない。一つに、あなたが卒業した職を見守る義務がある。もう一つは、その経験を生かし、次の仕事の準備をしなければいけない」

日本は、経済成長で世界最高水準になったことに満足して、長期停滞に陥りました。「勝って兜の緒を締めよ」という名文句もあります。サッカーでは、持っていたボールを味方にうまく渡せると一安心ですが、そこで立ち止まると叱られます。「パスを出したら、次にボールをもらえる場所に走れ」と。

組織人間であるからには、自らが育てた組織と職員を見守らなければなりません。ただし、口を出してはいけません。嫌われるだけです。他方、あなた自身の将来を切り開かなければなりません。大きな仕事を終えても、人生は終わりではありません。

アイデンティティーの危機は何度も来る

2026年4月22日   岡本全勝

4月7日の朝日新聞オピニオン欄「人生、焦り迷いながら」、岡本祐子さん(公認心理師)の「目をそらさず、内省深めて」から。
・・・自分は何者なのかという「アイデンティティー」は、青年期に獲得され、その後の人生を方向づけると考えられてきました。しかし私は、現代社会では青年期に獲得されたアイデンティティーで、その後の長い人生を生き抜くことは難しくなっている、と考えて研究してきました。
現代は、大人になってからもアイデンティティーの危機が何度か訪れることが分かっています。中年期や現役引退期に訪れる危機がそうで、「自分の人生はこれでよかったのか」と悩む人は多くいます。30歳ごろに揺り戻しがくる人もいます。変化が速く、価値観も多様化した時代になり、大人になっても自分をつかみ取ることが難しくなっています。

ただ、アイデンティティーの危機が訪れることは、決して悪いことではありません。自分の価値観を問い直し、納得できる生き方に変えるため軌道修正するチャンスにもなるからです。
中年の危機は「自己の有限性の自覚」とも言えます。体力の衰えを感じ、仕事での限界感もある。「あと何年元気でいられるか」と時間的展望が狭まっていく。競争社会に身を置く人ほど深刻だと思います。

男性と女性を比較しながら中年の危機を研究してきましたが、男性が仕事の話を中心に語るのに対し、女性は仕事と家庭を同じくらい重要視し、家族が健康で幸せに暮らせているかどうかも、人生の評価を左右する傾向がみられました。
危機を乗り越えるのに重要なのは、普段から自分を見つめる習慣をもっておくことです。「なぜあの時に心がざわついたのか」など、自分の思いや感覚、体験を書き出すなど、内省を深めておくと、自分の助けになるはずです。
それから、月並みではありますが、自分で自分を支えきれなくなった時、支えてくれる家族や友人らとの関係性を大事にしてほしいです。公認心理師や臨床心理士ら専門家に相談するのも有益だと思います・・・

会社の中の私、私の中の会社

2026年3月22日   岡本全勝

個人の再登場」の続きになります。
「会社人間」は、個人の生活が会社に取り込まれてしまいます。図にすると、会社という大きな円の中に、小さな円である私が入ります。下の図の左。個人が主役になると、私という大きな円の中に、小さな円である会社が入り、ほかに家族や趣味という小さな円も含まれています。下の図の右。
左の図では私が会社を飛び出すのは困難ですが、右の図なら会社を取り替えることも容易です。

また、組織の中の歯車という表現もされます。それを表したのが、下の図です。

尊敬する人は父親より母親

2026年3月13日   岡本全勝

2月21日の日経新聞に「イクメン増えても父の地位低下 尊敬も感情共有も母に軍配」が載っていました。
博報堂の、19~22歳の未婚の男女600人を対象とした調査です。
「尊敬する点が一番多い相手」は、1994年では父親46%、母親28%でしたが、2024年では母親43%、父親34%です。
「自分の価値観や考え方に一番影響を与えている相手」は、1994年では母親22%、父親21%でしたが、2024年では母親41%、父親20%です。

東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が2018、21、24年に実施した合同調査では「進路決定に影響した人の意見やアドバイス」は3回連続で「母親」が1位です。「父親」は21年と24年は「高校の先生」「友達や先輩」に次ぐ4番目でした。

・・・30年前よりも育児に関わる父親、イクメンは増えたはずなのに、なぜか。
博報堂生活総合研究所上席研究員の高橋真さんは「女性の進学率や就業率が高まり、『大黒柱』として尊敬されていた父親の役割を女性も担うようになった。現代の母親は学校の対応や家事、仕事をこなすスーパーヒューマン。ロールモデルとして母親の存在感が増している」と見る。

実際、専業主婦世帯は1980年の1114万世帯から24年には508万世帯に減少。共働き世帯は90年代に専業主婦世帯を超え、2024年には1300万世帯と専業主婦世帯の2.5倍に増えた。女性の大学進学率も1974年の11.6%から2025年には56.5%に伸びた。

男性学に詳しい京都大学名誉教授の伊藤公雄さんは「男は『弱みを見せてはいけない』といった価値観の社会で育ち、家庭内でも職場のように結論先行型で感情のないコミュニケーションをとりがち。共感しながら関係を深める意識が大切」と指摘する・・・

事後に人を論じ、局外に人を論ず

2026年3月6日   岡本全勝

毎日難解な古典漢文解説を続けている肝冷斎、時には私たちにもわかりやすい題材を取り上げてくれます。3月1日は「事後に人を論じ、局外に人を論ず」でした。時代と場所が違っても、人の性癖は変わらず、それを戒める人がいることも変わらないようです。

人多事後論人、局外論人。
(人多く事後に人を論じ、局外に人を論ず)
みなさんは、よく事が終わってから、それに関わった人のことを論(あげつら)う。あるいはその事件の外から、それに関わった人のことを論っている。

事後論人、毎将知人説得極愚、局外論人、毎将難事説得極易。
(事後に人を論ずるは、つねに知人を将(ひ)いて極めて愚なるを説き得、局外に人を論ずるは、つねに難事を将いて極めて易なるを説き得ん)
事が終わってから関わった人を論ずるなら、つねに知恵ある人を極めて愚か者だったと評することができ、事件の外から関わった人を論ずるなら、つねに困難な事案を極めて簡単なことだと評することができるわけだ。