内山融先生が「小泉政権ーパトスの首相は何を変えたのか」(中公新書、2007年4月)を、出版されました。小泉政権の意味を、政治学的に分析したものです。いくつも興味深い分析がされていますが、ここでは経済財政諮問会議についての分析を紹介します。
先生は、小泉総理が、諮問会議を政策議論の中心的アリーナとして位置づけるという「場の変更」を行ったことで、次の6つの機能を持ったと指摘しておられます。
1 議題設定の主導権の移動
官僚が主導権を持っていた議題(政策課題、争点、アジェンダ)設定を、諮問会議が握ったこと。官僚が議題設定すると、彼らの不都合な争点は取り上げられない。それが、「骨太の方針」に見られるように、各省のいやがるテーマが議論に上ることになった。
2 政策コミュニティの開放
これまでは、官庁と族議員が閉鎖的な政策コミュニティを構成し、政策決定を独占していた。典型が、予算編成。これに対し、諮問会議は「予算の全体像」「骨太の方針」によって、大枠をはめることになった。
3 議題の統合
これまで、各省が縦割りでバラバラに議論されていた政策が、全政府レベルで統合され優先順位や体系政も配慮されるようになった(これについては、私は先日、諮問会議の企画部機能で指摘しました)。
4 政策決定過程の透明化
これまでは、官僚と族議員によって密室で、政策原案が決まり、閣議決定で公になるときには、政策プロセスは終了していた。諮問会議では議論の過程が公開され、政策決定過程やだれがどのような主張をし、どのような対立があるか、国民に見えるようになった。
5 首相裁断の場の提供
対立の構図の中で、首相裁断の場が提供された。また、小泉総理は裁断をした。
6 外部からのアイデア注入
民間委員を登用したことで、既得権益のために固定化した政策を転換する、新しいアイデアを取り入れることができるようになった。
非常にわかりやすい、優れた分析だと思います。先日、私は諮問会議の「企画部機能」を書きました。それは、行政機構論としてです。先生の指摘は、日本の政治、政治過程論、政治権力論からのものです。私も、いずれ書こうと思っていたのですが、先生の分析を紹介することで、それに代えます。次に書くとしたら、違った角度から書く必要がありますね。
ここでは、諮問会議のさわりを紹介しましたが、本にはもっといろいろ優れた分析が書かれています。小泉政権・小泉改革について、いくつも本が出ていますが、最も優れたものでしょう。新書にはもったいないくらい、重い本です。日本の政治に関心ある方には、必読の書でしょう。