思ってはいても座席を譲らない

2026年10月28日   岡本全勝

10月18日の朝日新聞オピニオン欄「優先席を考える:2 譲るハードル」から。私の経験「席を譲られた」

・・・快適な利用には、お互いの配慮が欠かせない、電車やバスなど公共交通機関の優先席。ただ、せっかく譲りたい気持ちがあるのに、ためらいを感じることもあります。2回目は、その理由を調査した2人の専門家に聞きました。

欧州で電車やバスに乗ると、乗客がごく自然に席を譲り合っている。「なぜ日本とは違うのだろう」。そんな素朴な疑問を出発点に、公共交通での協力行動や社会規範を国際比較した研究がある。主導した公益財団法人・日本交通公社の川村竜之介さんに、その成果と発見を聞いた。

日本では、弱者に席を譲ることがマナーとして認知されているはずですが、実際には行動に移している人は少ないように感じます。その違いは何によるものなのか、探ろうと思いました。「鉄道やバスの車内で席を譲る行動」に着目して、2012~13年に、日本・韓国・イギリス・フランス・ドイツ・スウェーデンでウェブ調査をしました。世代による偏りが出ないように配慮した上で、各国の首都圏に住む300人に、席を譲る頻度や意図、規範意識などについて聞きました。
大きな発見は、日本は「席を譲るべきだ」という意識は各国と同様に強かったのですが、実際に席を譲る頻度は最も低かったことです。行動に移すまでに、何らかの壁があると考えられます。日本の事情を分析したところ、いくつかの背景や要因が見えてきました。
まず、優先席は6カ国全てにありましたが、「優先席では席を譲りましょう」と車内などで積極的にアナウンスをしていたのは当時、アジアの日本と韓国でした。こうした呼びかけは「席を譲ることが望ましい」という認知を高めている一方で、「優先席以外では席を譲らなくていい」とも受け止められ、譲る行動を抑制している可能性があります。

また日本では、地域のなかで疎外感がある人ほど、席を譲らない傾向もみられました。公共交通機関をよく利用する人ほど、席を譲らなくなる傾向もありました。
今回の調査対象は首都圏、つまり日本の場合は東京圏でした。一般に、コミュニティーに属している感覚が薄く「自分ひとりで生きている」と思う人は、他者を助けようという意識も弱くなります。利他的な行動が、巡り巡って自分にも利益をもたらすと実感できれば、自然に席を譲るという行動につながっていくはずです。
そのためには、時間はかかりますが、地域への愛着を高めるような施策が大事です。過去の研究では、地域を「歩く」行為が、その人の地域への愛情を醸成することがわかっており、歩ける街をつくるための施策も必要になります・・・