連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第270回「これまでの議論ー制度ではなく課題の所管を」が発行されました。
「人間らしい生き方への被害」というべき新しいリスクとそれに苦しむ弱者は従来の社会保障制度では救済できず、さらに憲法の考え方にも変更を迫るものです。再チャレンジ政策はこの課題に取り組んだのですが、不十分なままに終わってしまいました。
ところがその後、「人間らしい生き方への被害」「社会生活で苦しむ弱者」への対応は、政策としての統一的方針がないままに、事実上は進展しました。例えば、男女共同参画、働き方改革、子育て支援などは、政府の取り組みとともに、国民の意識の変化と社会の仕組みの転換によって大きく進んでいます。
このほかにも、社会保障制度から漏れ落ちている「弱者」への支援の動きが広がりました。民間では「子ども食堂」です。政府の中でも、2024年から内閣府に政策統括官(共生・共助担当)が設置され、厚生労働省社会・援護局が、地域共生社会の実現に取り組んでいます。
私は、「生活省」(または生活者省)の設置を主張しています。それは、ここで議論している社会生活問題に本格的に取り組むためであり、行政の任務が大きく変わったことを明らかにするためにも必要だと考えるからです。生活者、消費者、社会的弱者を行政の対象とし、その人々を守り、支援する施策です。そのような施策を任務としている課や局を、統合して一つの省をつくるのです。私が対象と想定している事務と部局は、次のようなものです。
【共生社会の実現など】内閣府政策統括官(共生・共助担当)、男女共同参画局
【消費者の保護など】消費者庁、食品安全委員会
【子育てや家庭を対象とする事務】こども家庭庁
【働き方改革】厚労省雇用環境・均等局
【社会的弱者を対象とする事務)厚労省社会・援護局
【定住外国人を対象とする事務】出入国在留管理庁在留管理支援部
公務員の仕事の仕方や発想の仕方に、二つのものがあります。一つは制度を所管するという発想であり、もう一つは課題を所管するという発想です。生活省は、各省に分かれている部局の組織と制度を一つに統合するとともに、「課題を所管する役所」にすべきでしょう。
ところで政府の在り方について、我が国は約40年、「小さな政府」を目指して、業務を切り出して民間に委託したり、民間への規制を緩和したりしてきました。「新自由主義的改革」と呼ばれるように、自由と平等を求める近代の一つの方向であったと言えます。しかし、その努力により目標はほぼ達成したように見えます。
他方で新しい社会の課題が発見され、行政需要は減るどころか、増えているようです。2001年の省庁再編時に各府省設置法に列記されていた929の所掌事務は、2026年度には1157に約2割増えています。人口は減りつつあるのですが、政府と行政への期待は膨らんでいるように見えます。経済産業分野についても、政府による関与を縮小してきたのですが、近年はそれについても政府の役割が再認識されています。