4月20日の日経新聞経済教室、久保田進彦・青山学院大学教授の「若者世代の消費行動、「リキッド消費」で流動的に」から。ものや情報があふれると、このようになるのでしょうか。
・・・「リキッド消費」という言葉をご存じだろうか。現代の消費スタイルを的確に表現した新しい概念であり、2017年に英国在住の研究者らによって提示された。日本には19年に紹介され、25年には一般向け解説書「リキッド消費とは何か」も出版された。
リキッド消費は短命で、アクセスベースで、脱物質的な消費と定義される。
短命性とは物・サービス・情報・体験の価値がそのときの場面や状況に左右されやすく、長続きしない傾向を指す。その結果、消費は移り変わりやすくなり、次々と新しいものを求めやすくなる。
アクセスベースとは、物やサービスなどを所有せずとも、その価値にアクセスできればよいとする考え方である。レンタルやシェアリング、サブスクリプション型の音楽配信などをイメージすると分かりやすい。
アクセスベース型の消費には(1)所有に伴うお金・手間・心理的な負担を避けられる(2)手が届きにくい高額な製品でも気軽に利用できる(3)気分や状況に応じて様々なものを試したり使い分けたりしやすい――といったメリットがある。
脱物質とは同じ価値や機能を得るために、物質を少ししか(あるいは全く)使わないことである。例えば写真はプリントではなくスマートフォンに保存され、現金も紙幣や硬貨ではなく電子マネーとして持つことが一般的になった。物質に頼らない生活が広がることで価値観や心理も変化している。物を持つことよりも経験や体験のほうが満足や幸福につながると感じられやすく、ぜいたくな物よりも特別な体験のほうがラグジュアリーとして価値づけられる傾向がある。
3つの特徴で、現代の消費傾向の少なからぬ部分を説明できる。物事の価値がはかないものとなり、所有に意味を感じず、形あるものを必要としなくなることで、消費は流動化し、気まぐれで移り気な様相を強めていく。リキッド消費は一時的な流行ではなくデジタル化、グローバル資本主義、プラットフォーム経済といった複数要素に支えられた中長期的現象である。
筆者は前述の3つに加えて「省力化」も重要な特徴だと考えている。ここでいう省力化とは、消費に伴う時間や労力をできるだけ少なくしようとすることである。気まぐれで移り気な消費を実現するには、時間や労力のコストを下げる必要があり、そのためには手軽さが必要となる。
現代の消費は、できるだけ時間や手間をかけない方向へと進んでいる。「おすすめ」やランキング、ワンクリック購買といった仕組みは選択や判断の負担を軽減する。また取扱説明書を読まなくても直感的に使える製品は、使用時の認知負荷を軽くする。リキッド消費の実現は省力化によって下支えされている・・・