4月18日の朝日新聞オピニオン欄、宗教社会学者・桜井義秀さんの「旧統一教会問題への不作為」から。
・・・高額献金や霊感商法の問題が長年、指摘されてきた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に東京高裁が3月、解散を命じた。教団について約40年、研究してきた宗教社会学者の桜井義秀さんは、行政や捜査機関などがすべきことをしなかった「不作為」を指摘している。社会は何を見過ごしていたのだろう。
―旧統一教会の問題は長い間、指摘されてきたものの、安倍晋三元首相の銃撃事件まで、目立った対策がとられてきませんでした。
「1980年代からカルト宗教を研究してきましたが、宗教界を中心に、ほとんどの人はこのテーマに関わりたくないと思っています。カルトがもつ独善性や、自由を奪い規律で人を縛る仕組みなどは、宗教自体の特徴と通じるところもあり、宗教の負の面を見たくない、ということなのかもしれません」
「2010年に旧統一教会の研究書を出版した時も、社会的インパクトはほとんどなかった。その一方で私は、調査対象とした教団からネットでの誹謗中傷を受け、訴訟のリスクを常に抱えてきました」
「日本は『現状維持』をしたがる社会です。自ら変えようとする動きはあまり見られません。旧統一教会の問題とは、信者やその家族ら、一般市民の人権が守られていなかったということです。霊感商法や高額献金の問題が広く知られていたにもかかわらず、自民党の議員たちは選挙で教団を利用していました。メディアはその実態を報じず、国民もこうした政治家を支持してきました。教団が社会的に認められてしまうという絶望、危機感が背景にあったのが安倍元首相の銃撃事件でした」
―東京高裁が3月、教団に解散命令を出し、教団側は最高裁に不服を申し立てています。
「献金、勧誘、布教行為は信教の自由に基づくという前提がある中で、今回の決定は、信者の財産、家族への影響などから見ても、社会的相当性に照らし悪質で組織的な不法行為であると、明確に打ち出しています。非常に評価できますが、遅きに失した感は否めません」
「09年に教団が『コンプライアンス宣言』したきっかけは、信者たちが印章などを売りつけた事件でした。なぜ当時、捜査機関がもっと踏み込まなかったのでしょう」
「今回の解散命令に先立って、文部科学省は教団に質問権を行使し、解散命令を請求しましたが、質問権の行使についてはもっと前にできたのではないでしょうか。私は20年以上前から文科省主催の宗教法人対象の研修会において教団の問題性を指摘していました」
「もちろん、戦前・戦中にあった宗教統制や弾圧の歴史を顧みれば、宗教に国が安易に介入すべきではないし、管理も実質的にできません」
「ただ、国が宗教団体を宗教法人として認証するということは、非課税という、いわば特権を与えて公益法人として認めることです。そうである以上、法人が宗教活動に専心し、公益活動も行うという宗教法人本来の認証目的にかなっているのかどうか、これをチェックするという意味での質問権行使は、所轄庁として当然すべきことだったと考えています」
―同様の被害を起こさないためには、何が必要だと考えますか。
「宗教者、児童相談所のスタッフなど、現場にいる人々に関わってもらうことです。介入の難しさや孤立のしやすさを前提にして、相談できる場所、支援する人を増やしていく必要があります」
「『宗教のことだから』『信教の自由があるから』といって思考停止するのではなく、何かおかしくないか、何か自分にできることはないか、そういう手を誰もがさしのべる必要があるのではないでしょうか」
「社会に大きな影響を与える出来事が起きても、誰も責任をとらないということが繰り返されてきました。元首相銃撃事件も、旧統一教会の一連の問題も、この国が自分たちで問題を解決しようとしなかったことの表れではないでしょうか。何かしなければ、と考え、行動を起こす人間が出てくることを待つしかありません。私自身は間違いなく、その一人になろうと思います」・・・