3月4日の日経新聞経済教室、諸富徹・京都大学教授の「高市政権の「責任ある積極財政」、財源は不透明」から。表題とは異なる部分を紹介します。
・・・首相が演説で最も力を入れたのが危機管理・成長投資による強い経済の実現だ。人工知能(AI)・半導体、造船、資源・エネルギー安全保障・グリーントランスフォーメーション(GX)など17の戦略分野に財政資源を集中投下する。17分野が経済安全保障と密接に結びつきつつ、新たな産業政策として構想されている点に高市財政の本質があると筆者は考える。
これは、近年の産業政策の世界的な潮流と軌を一にする。その国の経済にとって死活的に重要な産業分野を指定し、政府が率先してリスクを取って長期投資することで予見可能性を高め、民間投資を促す。
半導体製造能力の強化を狙って米国のバイデン政権が22年に成立させたCHIPS・科学法、脱炭素投資の推進を狙った同年のインフレ抑制法(IRA)などが代表例だ。トランプ政権はこれらを換骨奪胎しながら、ますます戦略的な産業投資を強化している。
欧州連合(EU)もグリーンおよびデジタル分野の産業育成を目指す多年度の政府投資スキーム「次世代EU」を20年に創設した。日本では政府がGX経済移行債で調達した20兆円を先行投資し、民間のGX投資を促す仕組みが該当する。
地政学的リスクが高まるなか、どの国にとってもエネルギーや重要鉱物、半導体など戦略分野の製造能力とサプライチェーン(供給網)を確保する重要性が高まっている事情がある。
これは政府の役割の大転換を意味する。これまでは産業振興のため規制緩和や法人減税をし、産業立地の条件整備を行うことが政府の役割だった。だが近年は戦略分野の産業に対し、自国内で製造能力を増強する引き換えに政府が公的資金で長期投資するという手法に切り替わった。国家は「投資国家」としての相貌を帯びるようになったのだ。
もちろん財政は拡張的になる。だが、投資国家は収支を長期で合わせる。政府はリスクを取って投資する代わりに将来、成長の果実として税収増を獲得する。税収増が投資コストを上回れば、帳尻は合う・・・
3月21日の日経新聞オピニオン欄、小竹洋之・コメンテーターの「政府の「失敗」か「不作為」か 高市首相の戦略投資はやり方次第」は、産業政策の目的を、市場の失敗の修正に限らず、市場の創造や形成にも見いだす考えがあることを紹介しています。マリアナ・マッツカート、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授によると、社会的な課題の解決を目指す「ミッション志向」の積極的な政府介入を正当化し、「最後の貸し手」にとどまらず「最初の投資家」としての役割を求めるのです。
参考首相官邸ホームページ「日本成長戦略会議」