東京大学出版会の宣伝誌『UP』6月号から、高岡佑壮・東京認知行動療法センター臨床心理士の「知能検査を受ける前に」が連載されています。主旨は、「知能検査で「能力」は調べられない」です。
小学校で受けた知能検査。知能指数が高いと、頭が良いと喜びました。でも、あまり勉強ができないA君の数値が高く、なぜだろうと思いました。その後、見聞きすることがなくなりました。
この論考は、知能検査の内容と限界を、わかりやすく説明しています。職場での「能力」を考えるにも、参考になります。偏差値が高い大学を出ているのに、仕事ができない職員がいるとか。詳しくは原文を読んでいただくとして、私なりの理解を書いておきます。
・知能検査では、人の能力は正確には調べられない。仕事や勉強などの「生活の中でのいろいろな課題」をこなす能力の高さは、知能検査では調べられない。
・検査で出される問題はクイズと同じで、やるべきことは一つひとつはっきりと指示されている。しかし仕事や勉強のような生活の中での課題は、やるべきことを細かく指示してもらえることはない。段取りなどは、自分で考えなければならない。
・会議で発言する場合も、知識だけでなく、周りの人との関係を考えなければならない。能力は、経験や健康状態、人間関係などさまざまな要素によって成り立っている。
・能力は、本人の中にあるものだけでなく、環境との関係で結果的にできる(家庭や学校、社会など、恵まれた環境とそうでない環境がある)。
・知能指数は4つの指標から構成されている。言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度。
・例えば、言語理解の場合。検査では「これについて話してください」と指示されるが、実生活ではそうではない。例えば中学生が「周りの生徒たちと意見を出し合って何かを決める」場合、誰かがいちいち「次は○○くんが△△について話してください」という指示を出さない。雑然とした雰囲気の中で話し合いが進む。そこでは「他の人が話しているときは、それをさえぎらない」「自分が話すときは、周りの人が聞いているか見る」「緊張しすぎないように、感情を安定させておく」などなどが必要です。しかし知能検査は、これらの要素を調べていません。
・知覚推理の場合は、検査では「何を見て答えを推測するか」が、一つひとつはっきりと指示されている。しかし生活の中では、「何を見るべきか」を教えてくれない。「会社の中にある散らかった部屋に初めて入って片付けをする」という仕事は、知識に頼れず推測しなければならない。どの順番でやるか、書類や荷物をどのように分類するか、箱に入れるのかロッカーに入れるのか、捨てるか保存するかは誰に相談するか、誰に相談すればよいのかなどを、考えなければならない(この説明は、職場によく当てはまります。納得します。いくら学力が高くても、新人では処理できません。経験が必要なのです。『明るい公務員講座』では、一人で悩まず、周囲に相談せよと助言しました)。