役員に女性を入れると新発想を生む

10月26日の朝日新聞夕刊、越直美・元大津市長の「役員に女性、新発想を生む多様性」から。

・・・「キヤノンショック」という言葉を聞いたことがありますか。昨年3月のキヤノンの株主総会で、御手洗冨士夫会長兼社長CEOの取締役再任の賛成率が50・59%しかなかった衝撃をさします。もし1%賛成率が下がっていれば、再任に必要な過半数の賛成は得られず、御手洗氏の選任は否決されていました。
御手洗氏は経団連会長も務めた著名な経営者。なぜ、賛成率がこれほど低かったのか。女性の取締役の不在が理由だとされています・・・

・・・機関投資家が女性役員の選任を求めるのは、そのほうが企業の業績が上がると考えているからです。実際、女性役員がいる会社といない会社を比べると前者のほうが株式パフォーマンスがよいというクレディ・スイスの世界的な調査結果があります。本当?と疑う方もいるでしょう。そこで自身の体験を通じ、女性役員の意義を述べたいと思います。

私は36歳で大津市長になりました。市役所は終身雇用・年功序列の組織で幹部は50代の男性が多かった。様々な案件を巡り、幹部からは反対があり、衝突することもありました。私は当時、自分が年下の女性だからと思っていましたが、今は違うと考えています。真の原因は私の方針が従来のやり方と違っていたことでした。
私は市長として保育園整備や中学校給食など子育て施策のために予算を使い、それ以外の予算を削減しました。これまで自治体は人口増にあわせて道路や公共施設をつくってきましたが、人口減を迎えるとやり方を変える必要がある。何かを増やすには何かを減らさなければなりません。それがなかなか理解されませんでした。同じ組織に長期間いると視線が「内向き」になり、外の変化が見えにくくなったり、やり方を変えられなくなったりするのではと気付いたのです。
これは市役所に限りません。企業でも似たようなことがあるのではないでしょうか。

平成以降の日本経済は「失われた30年」と言われ、世界を変えるようなイノベーションは生まれませんでした。イノベーションには従来と異なる発想が必要です。女性、若者、外国人など、企業の意思決定に関わることが少なかった人の参加、ダイバーシティーが大切です。
取締役会に女性が入るとどうなるか。女性がこれまで誰も聞かなかった、基本的だが大切な質問をする。それを受けた発言が続く。会議の「予定調和」が崩れて議論が起こり、新しい発想が生まれる。これこそが多様性の目ざすところです。

一方、女性役員は増えたが、増えているのは社外役員という実態もあります。社内から昇進する社内役員に対し、他の会社の経験者、弁護士、会計士などが社外役員となります。
社外役員が増えるのは、コーポレートガバナンスの観点からは良いことですが、男性役員は社内が6割、社外が4割なのに、女性役員は社内が1割、社外が9割。この差はどこからくるのか。女性が社内で昇進するのが難しいからです・・・