12月12日の読売新聞、田中俊之・大正大学准教授のインタビュー「男性視点で見直す男女格差」から。
・・・政治、経済分野での女性の進出が、先進国で最低レベルの日本。政府が「女性活躍」の旗を振るのに、なぜ進まないのか。田中俊之・大正大准教授は、男性が抱えがちな悩みや葛藤を研究する「男性学」の視点から、その背景を読み解く。男性の長時間労働を見直し、育児参加を促すことが、女性の社会進出の推進につながるからだ。自らも2児の子育てに奮闘しながら考える「男女がともに働きやすい社会」への道筋とは・・・
・・・男女雇用機会均等法の施行から35年。女性の採用は増えましたが、指導的立場に就く割合は、欧米諸国に遠く及ばない状況です。賃金格差はフルタイム勤務でも女性が男性の約7割で、非正規で働く割合は男性の2倍以上。出産後も働き続けることのハードルも解消されていません。
共働きの家庭でも、男性は社会から「一家の大黒柱」とみられる傾向は変わっていないのです。女性に比べて地位向上の機会に恵まれる一方で、弱音を吐くのは男らしくないという呪縛もあり、孤独に陥りがちです。男性の自殺率が女性を上回るのは、社会的な重圧が関連しているのでしょう。
近年は低成長時代に入って非正規で働く男性が増え、男性間の格差も拡大しています。50歳時点での男性の未婚率は2割を超え、収入の低い人ほど未婚の割合が高い傾向もあります。結婚は本人の自由ですが、希望しても選択できない状況は深刻です。
「女性は収入の高い男性を好む」と言われる背景には、女性の賃金が低く、性別の役割分担を前提にした社会の設計があります。男女の生きづらさは、お互いに「人ごと」ではなく、コインの裏表のような関係なのです・・・
・・・高度経済成長期以前は、家族で農業などに携わる働き方が主流でした。男性が雇用されて定年まで働き続け、妻は専業主婦という家庭が一般化したのは、それほど昔のことではないのです。近年はフルタイムで働く女性が急増し、独身の人も多い。それなのに、依然として男性の方が社会での競争を意識せざるを得ないのは、学校教育の影響もあるようです。
大学生に聞くと、いまだに高校では部活動の片付けを女子だけが担い、男子が教室の掃除をさぼっても許される、といった風潮が一部に残っているようです。女子は他の人の世話をする「女子力」を求められ、大学進学率が上昇しても理系に進む生徒は限定的です。学校や家庭でも、男女の役割の固定観念に縛られず、将来を自由に描けるような教育が必要です・・・
12月11日の日経新聞読書欄、山田昌弘・中央大学教授の「男らしさの呪縛を解こう 生きづらい男性のための4冊」も参考になります。
・・・近年、「男性弱者」に関する議論が盛んになっている。男性弱者とはおおざっぱに言えば、「稼げない男性」のことである。グローバル化、格差社会の進展によって、「稼ぐ」という従来の男らしさを実現できない「男性弱者」が増加していると言われている。
女性抑圧からの解放を目指すフェミニズム運動に触発されて出てきたメンズリブ運動や、「男らしさ」について研究する「男性学」の論客も、男性弱者を積極的に取り上げるようになってきた。そこでは、稼げない男性が結婚できなかったり、稼ぐ役割を強要され過労や自殺に追い込まれるなど、男性であることの「生きづらさ」が強調されるものが多かった。これらの論考を、社会学者の江原由美子氏は「男はつらいよ型男性学」と呼び、男女平等がけしからんといった反動的な思想や運動につながる危険性について指摘している。
しかし、従来型の男性学を日は敵に乗り越え、新しい男性のあり方を模索する論考が最近相次いで出版されている・・・