女性再就職 正規雇用の壁

2026年8月7日   岡本全勝

7月19日の読売新聞「あすへの考」は、吉田尚大・編集委員の「女性再就職 正規雇用の壁」でした。

・・・女性の正規雇用率は20代後半をピークに下がり続ける。グラフに描くとL字形になることから「L字カーブ」と呼ばれる。正規雇用の女性が出産や育児を機に退職した後、再就職すると、パートなど非正規雇用になることが多いためだ。女性の活躍の機会を減らし、男女の賃金格差や女性の管理職比率の低さの一因となっているため、希望すれば正規雇用で働き続けられる環境の整備が求められる。

正規雇用比率を見ると、男性は50代後半まで70%程度を維持している。一方、女性は、35~39歳は43・6%、40~44歳は39・5%と下がり続けていく。
その影響は大きい。2026年の男女共同参画白書によると、日本の男女の賃金格差は、男性の賃金の中央値を100とした場合、女性は79・3。経済協力開発機構(OECD)諸国の女性の平均89・7と比べて差がある。企業の管理職に占める女性の割合は課長級16・1%、部長級9・3%。いずれも、正規雇用の女性の層が薄いのが一因だ。

L字カーブが生まれた歴史的背景として、周燕飛・日本女子大教授は産業構造の変化を挙げる。
1950年代半ばから始まる高度経済成長期前は、農業や自営業の世帯も多く、女性は貴重な働き手だった。畑や店舗は自宅とほぼ同じ場所にあり、働きながら育児や家事ができた。
高度経済成長期が始まると、男女とも会社で働く人が増えた。自宅と働く場が離れ、子どもが生まれると女性が育児や家事のために退職し、子育てが一段落すると教育費などのために非正規雇用で再就職する、という流れができた。
周教授は「日本には年功序列制の企業が多く、雇用の流動性が低い。中途採用市場も小さく、高学歴の女性ほど、希望に沿う業務や賃金の正規雇用の仕事を見つけにくい。欧米ならすぐに採用されるような女性が能力を発揮できないのは損失だ」と指摘する。

L字カーブの一因として、日本企業特有の「メンバーシップ型雇用」を挙げるのは、本田一成・武庫川女子大教授だ。
日本の典型的な会社員は、定期異動によって社内で様々な業務を経験し、勤続年数に応じて賃金が上がっていく。安定した雇用や賃金と引き換えに、長時間労働や転勤を受け入れるなど、企業の良きメンバーに徹していく。
メンバーにとどまるため、男性はハードな長時間労働をこなすが、早く帰宅して家事や育児をすることはできない。一方、家事や育児を担う女性の多くは、ハードな働き方はできないためにメンバーにとどまれず、退職や非正規雇用への移行を選ばざるを得ない。性別役割分担意識の強い日本では、「男性は仕事、女性は家庭」というあり方が受け入れられやすい土壌もあった。国も、会社員らの配偶者が保険料を払わなくても基礎年金を受け取れる「第3号被保険者」制度などを導入し、働く男性社員を支える妻の役割に報いた。
本田教授は「現状だと、メンバーにとどまれるのは、長時間労働をいとわない『M(Male=男性)型』の働き方ができる社員しかいない」と指摘。「生活に重点を置いた『F(Female=女性)型』の働き方をM型に取り入れ、男女とも家事や育児を担いながら働けるようにしてL字カーブを解消するべきだ」と強調する。

女性が正規雇用で働き続けられるようにして、L字カーブを解消するためには、どのような取り組みが必要なのだろうか。
正社員の女性が退職する原因の一つが、長時間労働に加えて、家事・育児の負担が女性に偏り過ぎていることだ。21年の社会生活基本調査によると、女性の家事や育児の時間は1日約7時間半にも及ぶが、男性は2時間に満たない。大和総研の高須百華研究員は「負担の重さから、正社員を辞めたり、働き方の柔軟性が高い非正規雇用を選んだりするようになる。長時間労働が前提の働き方を見直し、フレックスタイム制度の導入などで働く時間を自由にするなど、夫婦とも家事・育児の時間を取れる働き方改革が必要だ」と語る。
「キャリアにつながる責任ある仕事を任せ、『目標を達成できたかどうか』を基準に、時間当たりの生産性を評価するなど、育児中の女性でも昇進できる制度が必要だ」と訴えるのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子主席研究員だ。任せる仕事の質は変えずに量を調整することで、「ライフ」だけでなく「ワーク」を充実させることも、働き続ける意欲を持つには欠かせない・・・