ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー―あなたの意思はどのように決まるか?』(上下)(原著2011年。2012年早川書房、204年ハヤカワ文庫に再録)を読みました。あるところで紹介されていたので。今ごろ読んだのは、「ファスト&スロー」という表題に、関心を持てなかったからです。私がつけるとしたら、「直感と熟慮ー意思決定の2つの型」でしょうか。
文庫本で上下巻あわせて、800ページを超える大著です。著者の主張は、人間の判断は必ずしも合理的ではないということです。それを、いくつもの実験で証明します。その功績で、ノーベル経済学賞を受賞しました。近代経済学は、人間は合理的に判断するものとして組み立てられています。その根底を覆すのですから、経済学会からは冷たい扱いを受けたようです。著者は経済学者ではなく、心理学者であり、行動経済学をつくった一人です。
本書を読むと、納得することばかりです。近代経済学の限界がよくわかります。経済学もこのような「実際の人間」を扱ってほしいです。そして、抽象的な数式を深めるのではなく、現実社会の問題に取り組んでほしいです。参照「スティグリッツ著『資本主義と自由』」
著者の結論は、次のようなものです。
人が判断する際には2つの型(システム)があります。システム1は早い思考をする直感的なもので、システム2は遅い思考をする熟慮型です。そして、システム2は時にはシステム1の監視をして、間違った判断を修正します。
直感は深く考えることなく、ものを見ると直ちに判断します。それはどうやら、人類が長年の進化の過程で身につけたようです。そして、個人も成長の過程で、身につけるようです。相手の顔、表情を見て、相手が何を考えているかを推測するとかです。あまり深く考えることなく判断するので、脳に負担をかけない、経済的効率的な判断です。しかし、しばしば間違います。本書にはその例がたくさん載っています。
それに対し熟慮は、二桁のかけ算のように「頭を使う」判断です。直感では答えが出ない場合に、仕方なく熟慮が働きます。
また、利得が得られる場合と損失を被る場合では、リスクの評価が異なること。痛みの記憶は、実際の体験とは異なって思い出されることなど、人間の判断と記憶がええ加減なことが、次々と示されます。
なるほどという事例が、いくつも出てくるのですが、次の例は興味深いです。将来予測はできないという話です。
ある証券会社の個人客1万人について、7年間の取引記録16万件を調べたところ、売買実績より、そのまま持っていた方が実績が良かったのです。これは平均ですから、うまくやった投資家もいたでしょうが、もっとまずいことになった投資家もいたでしょう(上巻374ページ)。著者やこの話を投資アドバイザー向けの講演でしたそうですが、無視されたそうです。
また、大企業の最高財務責任者に、翌年の株価指数連動型投信のリターンを予想してもらう調査でも、まったく外れでした。しかも、彼らは自分たちの予測能力のなさをまったく自覚していません(下巻62ページ)。