個人の再登場

2026年3月18日   岡本全勝

連載「公共を創る」を書きながら、「この国のかたち」が大きく変化していることを考えています。変化の一つは「組織中心の社会」から「個人中心の社会」への転換であることです。「組織の時代」から「個人の時代」へとも言えます。

振り返ってみると、20世紀は組織の時代でした。社会をつくっているのは個人や家庭ですが、各個人がそれぞれに活躍するのではなく、企業や役所、学校など組織に属することで生活してきました。戦前は軍隊もありました。そしてその際に、個人より、組織の方が優先されたのです。
さらに遡ると、かつては多くの人が農林水産業か自営業に従事していました。生活の単位は家族です。地域社会で暮らし、困ったときも親族や地域が助けました。終戦後でも、勤め人は4割で、農業や自営業が多かったのです。第一次産業が半数でした。現在では就業者の9割が勤め人です。貧しく苦しい生活でしたが、個人が気ままに生きていた時代から、会社という組織の中で規則に縛られて生きなければならなくなりました。

就職といいますが、実態は就社で、会社の中で職を代えました。会社も、社員とその家族の面倒を見ました。親族や地域での助け合いが希薄になり、国家の社会福祉制度が充実するまで、企業がそれを担ったのです。日本型福祉(1980年代から主張された日本特有の福祉の仕組み)は、企業と家庭を守る妻が支えていました。

しかし、長期停滞で企業が従業員を解雇し、面倒を見続けることが少なくなりました。従業員も、会社に忠誠を尽くすのではなく、条件の良い会社に転職することが増えました。
ここに、組織中心の社会から、個人中心の社会へと変化が進んだのです。もっとも、組織に属している安心感は薄くなり、自己責任が増えます。また、共働きが増えると妻が家族の面倒を見ることができなくなり、一人暮らしが増えると家族による支えはなくなります。