年別アーカイブ:2025年

長時間労働、女性正社員に壁

2025年1月16日   岡本全勝

12月22日の朝日新聞1面は「長時間労働、女性正社員に壁 「育児と両立困難、非正規に」 67職種調査」でした。

・・・男性の労働時間が長い職種ほど、正社員として働く女性の割合が少ない傾向にあることが、朝日新聞の分析でわかった。結果からは、長時間労働を前提とした正社員の働き方が、子育て世代や女性の負担になっていることが浮かび上がる。

朝日新聞は、慶応大学の山本勲教授(労働経済学)の監修のもと、総務省の就業構造基本調査(2022年)で集計された計67の職種別に、男性正社員の週平均の労働時間と、女性正社員割合の関係を調べた。働き方の変動要因がより小さいとみられる男性の労働時間でみた。
その結果、男性正社員の労働時間が長い職種ほど、女性正社員の割合は低い傾向があった。

就業者が最も多い「一般事務職」は、労働時間が約45時間で女性割合は48・8%と高い。一方、労働時間が約46時間の「営業職」は女性割合が19・6%だ。
山本教授は「男性が長く働いていない方に女性が多くなる傾向が出ている」と説明する。
ソーシャルワーカーなどの「社会福祉専門職」や「介護サービス職」は約43時間、「会計事務職」は約44時間で、女性割合が6割を超えた。
労働時間が約50時間の「医師」は女性割合が24・9%で、約53時間と最も長いトラックドライバーなどの「自動車運転従事者」は、女性割合が2・8%とほかの職種に比べて著しく低かった。

総務省の労働力調査(2023年)によると、女性(15~64歳)の就業率は73・3%で、国際的にも高かった。ただ、非正規雇用者の割合は男性が17・3%なのに対し、女性は50・2%と高い。
また、女性の正社員の割合をみると、20代後半をピークに下がり続ける「L字カーブ」を描くという特徴がある。
一方、世界では長時間労働に依存せず、生産性を上げる働き方が広がっている。日本生産性本部によると、2023年の日本の就業1時間あたりの「労働生産性」は、経済協力開発機構(OECD)加盟国38カ国中29位。ドイツの年間労働時間は1343時間と加盟国の中で最も短く、労働生産性は日本よりも7割近く高かった。
山本教授は「長時間労働が当たり前になっている日本では、育児と仕事の両立が難しいために、非正規雇用を選ぶ女性が多い。長時間労働や硬直的な働き方は、女性活躍の最も大きな阻害要因となっている」と指摘する・・・

反・忖度の元祖、和気清麻呂

2025年1月15日   岡本全勝

数年前、官僚の行動を批判して、「忖度」という言葉が流行りました。忖度は、他人の心情を推測すること、また、それによって相手に配慮することです。安倍官邸に対する官僚の行動に関連して使われるようになりました。2017年には「新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれたそうです。

忖度という言葉は、かつてはあまり使われることなく、「配慮する」という表現が使われたと思います。忖度が使われたのは、配慮以上の行動をする、それも筋を曲げてまで行ったのではないかと考えられたからでしょう。そのような行為を「阿る(おもねる)」とも表現します。
「曲学阿世」という言葉もあります。中国古典の「史記」に出てくる言葉で、学問上の真理をまげて、世間や権力者の気に入るような言動をすることです。敗戦後、全面講和論を掲げた南原繁東大総長に対し、吉田茂首相は単独講和の立場から「曲学阿世の徒」と批判したことが有名でです。

皇居の東北、大手門の近く大手濠緑地に、和気清麻呂像が立っています。和気清麻呂は、ご存じの通り、奈良時代に天皇とそのお気に入りの弓削道鏡の意向に反して、正義を貫いた官僚です。
宇佐八幡宮から称徳天皇に対して「弓削道鏡が皇位に就くべし」との神託があり、和気清麻呂が宇佐八幡宮へ赴き、神託を確認することになりました。そして、道鏡が皇位に就くことに反対する神託を持ち帰り奏上します。清麻呂は左遷され、名前もひどいものに改名され、大隅国に配流させられます。後に道鏡が失脚すると、復権を果たします。
その2」に続く。

中年期の心の危機

2025年1月15日   岡本全勝

12月21日の朝日新聞夕刊、清水研・腫瘍精神科医の「中年期の心の危機、どう向き合う」から。詳しくは原文をお読みください。

・・・中年期に陥る心理的危機「ミドルエイジ・クライシス」。人生の後半に差しかかるこの時期は肉体的な変化だけでなく、不安や葛藤など心の不調に見舞われることもある。腫瘍精神科医として約4千人のがん患者と対話してきた清水研さん(53)も、40歳を前にクライシスを経験した。清水さんにその向き合い方を聞いた。

なぜ中年期に心理的危機が訪れるのだろうか。ユング心理学では、中年期は人生の正午にあたる。成長を感じられる青年期の午前から、老いや死に向かう午後に向かうときに危機を迎え、その後に価値観が大きく変わるという。
「青年期は体力や気力が充実して成長や発展を実感でき、がんばれば成功して幸せになれると信じている。しかし、中年期に入ると、体力が衰えてきてがんばれない。組織や社会での立ち位置、限界も見え、努力の先に輝かしい未来があるとは限らない現実も知る。がんばれなくなった自分自身への信頼も失う。今までのやり方に行き詰まりを感じるのです」

私たちは普段は意識しないが、心の中に「want(~したい)」と「must(~しなければならない)」の「相反する自分」が存在するという。
wantは「泣きたい」「おなかがすいた」といった感情や感性が優位な自分。mustは親のしつけや学校教育、社会規範などから形作られた「人に迷惑をかけてはいけない」「結婚しなければいけない」といった理性や論理が優位な自分。大事なのはそのバランスだ。
mustが強すぎると、自己肯定感の低さや承認欲求の強さにもつながる。「強いmustに縛られてきた人が、それに従うエネルギーを失い、心が悲鳴を上げたとき、中年の危機が起こります。今までの生き方が苦しくなり、手放す必要に迫られるのです」・・・

ご自身の体験、絶望も書かれています。
・・・「父から認められ、自分を承認したい」。そんな思いから精神科医になり、仕事を最優先に生きていた。だが、自分に自信を持てず、他人の評価が気になり、生きづらさを抱えていたという。そして40歳を前に限界を迎えた。
清水さんは危機にどう向き合ったか。まず自分の中のwantの声に耳を傾けることから始めた。
「小さなことからでいいんです。コンビニで昼食を選ぶときに『短い時間でさっと食べられるものを』や『カロリーが高いものは避ける』で選ぶのではなく、『自分は今、何を食べたいか』に集中した。手に取ったカツ丼を食べて喜んでいる自分を発見しました」
あるときは自分の中のmustに抵抗した。気の進まない仕事の会合を断り、見たかった絵本作家ターシャ・テューダーのドキュメンタリー映画を見に行った。素晴らしい映画だった。その充実感は夜寝るまで続いたという。
清水さんはまず、心の中に同居するmustの声とwantの声を切り分けることを勧める。葛藤がなぜ起こるのかがわかり、気持ちを整理できるからだ。
次に、なぜmustが形成されたのかを人生の歩みやできごとから振り返る。mustの正体がわかると「過去とは状況が異なるから、現在はmustに縛られなくていい」と感じられるからだ。
この二つを経ても、must思考が強い人が、その考え方を手放すのは容易ではないこともある。清水さんもそうだった・・・

・・・腫瘍精神科医として小児科病棟の子どもたちに接する中で、子どものころの自分を思い出す機会があった。精いっぱい居場所を求め、もがいていた当時の自分を慈しむ気持ちがわき起こった。
「自分を許し、愛する」。この三つ目のステップを踏むことでmustから解放され、危機を脱することができた。45歳のころだ。
「カウンセリングを受けるのでも、人に話を聞いてもらうのでも、本を読むのでもいい。自分はダメだと思うのではなく、『厳しい状況や窮屈な生き方でも、よくここまでやってきた』と自分を認め、信じることから始めてみて」・・・

モノから関係へ、行政の役割変化

2025年1月14日   岡本全勝

拙著『新地方自治入門』(2003年、時事通信社)で、行政のこれまでとこれからを論じました。そのあとがきに、「モノとサービスの20世紀から、関係と参加の21世紀へ変わることが必要」と書きました。
発展期の行政は、モノとサービスの提供を増やすことが役割でしたが、豊かな社会を達成すると、課題は人と人との関係や役所からの提供ではなく、住民が参加することが重要になるという主張です。この時点では、孤独と孤立問題の重要性に気がついていませんでした。

その後、孤独と孤立が問題になりました。阪神・淡路大震災、東日本大震災でも、孤独と孤立は問題になり、対策を打ちました。しかし、この問題は被災地だけでなく、日常生活に広がっています。
連載「公共を創る」で説明しているように、自由な社会は、どこで暮らすか、どのような職業を選ぶか、結婚するかどうかといった自由を実現しましたが、他方で孤独も連れてきたのです。他者とのつながりは、行政や企業が一方的に提供できるものではなく、本人の参加が必要となります。

この変化の一つの例が、住宅政策です。当初の住宅政策は、不足する住宅の提供、安価で質のよい住宅の提供でした。しかし、住宅は余り、空き家が増えています。他方で、孤立や孤独死が問題になっています。モノとサービスの提供から、関係と参加の確保が課題なのです。土木部ではなく福祉部・住民部の仕事に移っています。

大学教育、教える教育から育てる教育へ

2025年1月14日   岡本全勝

12月18日の日経新聞大学欄、日色保・経済同友会副代表幹事の「経済界が求める大学教育とは」から。

大学が実学教育を重視するなど、ビジネス界で活躍できる人づくりを進めている。その一方で若手社員の相次ぐ離職など、人材活用が進んでいない面もある。経済界は日本の大学教育に何を求めているのか。日本マクドナルドホールディングス(HD)社長兼最高経営責任者(CEO)で経済同友会副代表幹事を務める日色保氏に聞いた。

――今の大学生をどうみていますか。
「今の学生は昔に比べると、たくさんの情報が外にあることもあり、客観的に自分のことやキャリアについて捉えていると感じる。その一方で、知識に偏りがあり、大学で本来習得するべき深い思考能力を得られていない。そういった能力の開発を企業は大学に期待しているが、大学の教育はやはり『教える教育』であり、『育てる教育』になっていない。そこがやはり一番の問題なのではないか」
「ただ、どういう人材がほしいか、大学側と十分な意思疎通を今までしてこなかったという企業側の反省もある。企業側は特に、人との議論の中で問いを立てて、仮説を検証し、深く学んでいくようなコミュニケーションスキルなどを企業に入る前に身につけてほしいと考えているが、大学側はどういう教育をしたら企業で活躍できるような人材になるか、よくわかっていない状態に陥ってしまっている」

―一部の大学は即戦力の育成との言葉を使っています。
「昨日の即戦力が明日の即戦力になるとは限らない。例えば、プログラミングの知識を持っていて、多少のコードを書けるくらいの人は山ほどいる。変化が激しい中でもフレキシブルに対応できるような学び方や自分のやり方を形成できる。それこそが即戦力なのではないか」