月別アーカイブ:2025年10月

河野龍太郎著『日本経済の死角』

2025年10月11日   岡本全勝

知人に勧められて、河野龍太郎著『日本経済の死角』(2025年、ちくま新書)を読みました。新聞の書評でも取り上げられています。知人に勧められていたのですが、遅くなりました。この30年間の日本経済の停滞を、主に雇用と賃金の観点から分析します。特徴的な点を列記しましょう。
・日本の長期停滞は、大企業が儲かっているのに、ため込んで賃上げや人的投資をおろそかにしてきたこと、社会の変化で家計のリスクが変わったのに、それに応じた社会保障制度が整えられなかったことによる。だから少子化も加速している。
・1998年を100とすると、2023年までの間で生産性は30%上昇したのに、実質賃金は横ばい。この間に労働生産性は、アメリカは50%増加、ドイツは25%、フランスは20%増加。実質賃金は、アメリカは25%増加、ドイツ15%、フランス20%増加です。
・企業が賃金を抑えたので、個人消費が低迷した。
・ベースアップがゼロだったが、正規労働者は定期昇給があり、毎年2%程度、25年間で1.7倍になります。この人たちを見ていると、「給料は上がっている」と見えるのです。他方で、非正規労働者は2割から4割近くに増えています。
・定年の65歳への延長、女性の労働参加拡大、外国人労働者増加が、労働市場の逼迫を遅らせた。それが、賃上げを遅らせた。
・1990年代の週48時間労働から40時間労働への変更は、賃金上昇を伴わず、生産性の低下になった。しかし、バブル経済で問題は隠され、バブル経済崩壊後に悪影響が表れた。
・ジョブ型雇用は、一発屋とゴマすりを増やす。必要なのは長期雇用制の維持と早期選抜の導入。

ここでは、ほんの一部だけを紹介しました。鋭い、説得力ある説明だと思います。へえと驚くことと、私の主張と重なることがあります。一読をお勧めします。
経済学者の論文はしばしば算式が多く難解ですが、現在日本経済への切り込みは少ないように思います。この本は、新書で薄いですが、それ故にわかりやすいです。学者の本に比べ数倍の価値があると思うのですが。いかがでしょうか。
日本の政治家や経営者は、この本を読んでいるのでしょうか。「利益を貯め込んで、賃上げや人的投資をおろそかにしてきた」という不都合な真実について、意見を聞きたいものです。

働きたくない国?日本

2025年10月11日   岡本全勝

9月22日の朝日新聞「働きたくない国、嫌だから 中高生が改革案競う」から。

・・・8月中旬、一風変わったコンテストが開かれた。その名も「労働の未来会議」。働き方改革のアイデアを競う大会だ。
4日間で実態を学び、独自案を示す。全国からオンラインで参加した中高生14人を前に、発案した私立かえつ有明高校(東京都)3年の赤松慶亮(けいすけ)さん(18)が呼びかけた。
「英語を話せる友人は海外で働くそうです。働き方改革の進まない日本企業で働くことが僕たちの世代にとって『最後の選択肢』とならないよう、自分たちの社会を考えるきっかけにしましょう」
商社に勤める父の転勤で6歳から8年間、アメリカで過ごした。仕事を終えた父が宿題をみてくれ、週末は家族で出かけた。帰国した後は、帰宅時間が遅くなり、家でもパソコンに向かっている。「進路などを相談したいけど、なかなか顔を合わせる機会がないですね」

まず日本企業の印象を話し合った。
「同調圧力が強そう」「親は休みの日も呼び出されている」。「日本の企業文化と合わなそうだから、国外で働きたい」という意見も出た。
では、就職先を選ぶ際に重視することは?
「フレックスタイム制と在宅勤務を導入していること」「仕事とプライベートを両立できること」「評価が明確か」

日本は、週49時間以上の就業者比率が米国や英国など主要7カ国中で最も高いのに、労働生産性は最下位だ。「最も時間をかけて仕事をし、生み出す付加価値が低い国。だから改革が求められているんです」

私立洗足学園高校(神奈川県)1年の永田結愛(ゆあ)さん(15)は、コンテストの期間中、学んだことを元に両親に尋ねた。
「なぜ仕事の帰りが遅いの?」「どうして休みの日も仕事があるの?」
ヘルスケア関連会社に勤める母親は、午後4時までの時短勤務のはずだが、毎日のように時間を超えて働き午後6、7時に帰宅する。営業で管理職の父親には、休日も電話がかかってくる。
母の職場のチームメンバーも多くの仕事を抱えて割り振ることができなかったり、父は取引先の都合だったり。「一人の意識ではどうにもならない。だから、会社や社会が変わらないといけないんだ」
制度を作るだけではダメだと気づいた。では、意識や環境を変えるには――。理想だけを押しつけては反感を買うかもしれない・・・

市町村アカデミー機関誌2025年秋号

2025年10月10日   岡本全勝

市町村アカデミーの機関誌「アカデミア」令和7年秋号が、発行されました。いくつかの記事や講義の概要を載せたので、関心ある方はお読みください。

例えば、自治体職員が講師を務める「事例紹介」、今回は次のようなものです。
・三重県いなべ市 災害マネジメント総括支援員としての視点から
・東京都日野市 日野市部活動改革プロジェクト~日野型地域クラブ活動 ひのスポ!ひのカル!~
・埼玉県久喜市 デザイン思考を活用した超企画術
・茨城県ひたちなか市 ひたちなか市の空き家対策

学長連載(正確には今回から「前学長」です)第2回は、「管理職の役割-はまるな四つの落とし穴」です。
管理職の任務は、「部下を使って業務を達成すること」と「部下を育てること」です。これは、誰もが理解しているでしょう。このことを常に頭に置いていれば、よい仕事ができることでしょう。ところが、初めて管理職になると、しばしば落とし穴にはまってしまうのです。四つの落とし穴を紹介しましょう。みなさんは、大丈夫ですか。
・課長は、職員の延長ではありません。
・課長は、検品係ではありません。
・課長は内部管理以上に、渉外が任務です。
・仕事では、困ったことも起きます。

みやぎ心のケアセンター活動終了

2025年10月10日   岡本全勝

10月6日の「自治体のツボ」が「活動終えたみやぎ心のケアセンター」を伝えています。
・・・見落としていたが、東日本大震災の被災地でひとつ動きが。宮城県のみやぎ心のケアセンターが9月末で事業を終了したという。国の交付金終了に伴うもの。被災者ケアは永続的にやるべきではないのか、と疑問を持ったが。
報道をみると、もっと前に閉めるはずが期限を延長して活動していたようだ。センター長らは、自治体に引き継ぐことを想定して仕事してきたと語っているし、センターにかかわった専門家も引き続き県内で活動されるとのこと。それならば。
震災直後に活動を開始し、14年で6万3千件もの相談に応じたそうだ。支援対応件数は2015年度の約7500件がピーク。24年度は1000件程度という。少しずつ相談拠点が地域に移っていったのではないか。誠に意義ある活動だったと思われる・・・

みやぎ心のケアセンター活動概要
東日本大震災対応では、それまで十分に取り組まれなかった分野にも、政府が関与しました。傷ついた心への支援も、その一つです。行政が直接行うことは難しく、専門家の協力をお願いしました。手法としては、非営利団体のとの協働です。この手法も、積極的に取り入れました。

連載「公共を創る」第237回

2025年10月9日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第237回「政府の役割の再定義ー官僚の使い方」が発行されました。

前回から、与党と官僚とのおかしな関係を議論しています。それは、内閣の部下である官僚が、与党の部下として働いていることです。特に問題なのは、政府案の与党への説明や調整を、政治家ではなく官僚が行っていることです。
大臣や副大臣、政務官という内閣側にいる与党政治家が、関係の与党議員や与党機関に説明に行き調整するという形にすれば、与党の責任という点では問題は生じません。

野党との関係では、「与党の下請け」のような「野党の下請け」は起きません。ところが、与党の場合は政府案を作成する過程で、官僚機構を実態としてあたかも「部下」「下部組織」のように使うことができますが、野党が政策を立案する際には、このような官僚機構の組織的対応はありません。
官僚機構は、日本一のシンクタンクとも呼ばれます。それぞれの所管範囲について最も詳しいのは各府省です。政党が政策を立案する際には、与野党を問わず、一定の決まりの下で官僚機構を使っても良いと思うのですが。

現状では、野党のヒアリングは政策立案のための勉強過程ではなく、内閣や与党の既定決定事項への攻撃が多くなっているように思います。野党が政権奪取を目指し、政府・与党案に対抗する政策を検討するなら、与党と同じように官僚機構を使えるようにすることも考えられます。もっとも、各党が政策立案組織を充実させ、そこで議論することが本筋でしょう。また、さまざまな研究機関やシンクタンクと連携することや、支援を受けることも考えられます。
与党だけが官僚機構を「使うことができる」という現状が正しいのか。疑問を呈しておきます。