月別アーカイブ:2025年7月

トランプ氏はエリートへの不満を積んだ「乗り物」

2025年7月19日   岡本全勝

6月29日の日経新聞、 アメリカノの政治思想学者パトリック・デニーン氏「トランプ氏はただの「乗り物」」から。

・・・トランプ米大統領が掲げる「MAGA(米国を再び偉大に)」運動は戦後の国際秩序を支えてきた「リベラリズム」を壊そうとしている。その理論的支柱とされるのが米政治思想学者のパトリック・デニーン氏だ。トランプ氏は世界で広がるエリートへの不満を積んだ「乗り物」に過ぎないと主張する・・・

――戦後の民主主義国家の繁栄を支えてきたのがリベラリズムだった。あなたはそこには欠陥があると著書で論じた。どういうことか。
「個人の選択を重視し、政治的にも社会的にも人間関係でも人々をあらゆる束縛から解放しようとする哲学がリベラリズムだ。ところが私たちは自らを統治する自由を失い、経済面でも政治の影響が及ばぬ市場原理に支配されるようになった」
「皮肉なことにリベラリズムは『成功』するほど失敗していった。例えばかつての共同生活には助け合いがあったが、人々は隣人に助けを求めなくなった。米国には長い間、自己犠牲を尊ぶ古い伝統があったがそれらは失われていった」
「経済的なリベラリズム、米国流で言えばグローバル化した市場を重んじる新自由主義が批判を浴び、個人の自由や権利を極端な形で追求する左派リベラルも批判にさられている。リベラリズムの危機が分断を生んでいる」

――個人の自由な選択を追求するリベラリズムこそが人間の幸福や繁栄につながったのではないのか。
「選択の自由は幸福の本質ではない。正しい選択をすることが幸福の本質だ」
「確かに私たちはかつてないほど自由だ。消費者としても一人の人間としても多くの選択肢を持っている。にもかかわらず欧米社会ではメンタルヘルスの危機が著しく高まり、自殺する人が増え、平均寿命も低下している」
「極めて少数の人々に資本主義の恩恵がもたらされ、政治的な不安定を生んでいる。古今東西の政治思想家が一致するように、社会の繁栄を人々が分かち合えているという感覚が行き渡らなければ政治的な安定は得られない」

――この変化はいつごろ始まったと考えるか。
「フランシス・フクヤマ氏が(自由民主主義が政治制度の最終形態と記した)『歴史の終わり』を発表し、ベルリンの壁が崩壊したのが1989年。90年代にリベラリズムは『最高潮』を迎えたが、その頃からリベラリズムが伝統的な慣習や制度の良い部分を壊し始めた」
「米国は政治再編のまっただ中にある。ポストリベラリズム派というべき低学歴の人々や労働者階級、あるいは過度な自由市場や社会的な解放主義に疑念を抱く人々と、エリート層や高学歴といったリベラリズム派の人々の対立だ」

――トランプ氏は2016年の大統領選で当選し、返り咲きも果たした。リベラリズムに対する疑念が彼を誕生させたのだろうか。
「彼は不満の受け皿になっただけだ。無視されてきた数多くの人々が存在していることを本能的に見抜く才覚に優れていた。ビジネスマンとして、ワシントンのエリートが気づかぬ政治的な市場がそこにあることに気づいた」
「右派であれ左派であれ、ワシントンのエリートたちは彼の『成功』にショックを受けたことだろう。ただ、トランプ氏が不満を生んだのではない。前からずっとそこにあったのだ。彼は(その不満の)乗り物になったに過ぎない」

『女たちの平安後期』

2025年7月18日   岡本全勝

榎村寛之著『女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年』(2024年、中公新書)を読みました。
宣伝には、次のように書いてあります。
・・・平安後期、天皇を超える絶対権力者として上皇が院政をしき、それを支える中級貴族や源氏・平家などの軍事貴族、乳母が権力を持つようになる。そのなかで巨大な権力を得た女院たちが登場、莫大な財産は源平合戦のきっかけを作り、武士の世へと移って行く。紫式部が『源氏物語』で予言し、中宮彰子が行き着いた女院権力とは? 「女人入眼の日本国(政治の決定権は女にある)」とまで言われた平安後期の実像がいま明かされる・・・

平安時代は、約400年も続きました。その後半、私たちの知識は藤原道長から源平合戦まで飛んでしまいます。この本が取り上げた、宮中での女性の地位や活躍も、知りませんでした。長講堂領については、かつて知って、そのように皇室財産が相続されたのかと驚きました。
摂関家に対抗するべく、天皇が上皇になって、幼い天皇を補佐する形で政治権力を握ります。ところが、上皇がいなくなったりすると、幼い天皇の母や養母が天皇家の「家長」として差配を振るいます。なるほど。
200年の間の話なので、たくさんの女性が出てきます。天皇も貴族も。その多さに、読んでいる途中で、こんがらがります(苦笑)。それに対して、小説は良いですね、登場人物が限られていて。

ただし、この本が分析しているのは、宮中での権力争いです。彼女たちが、ふだんどのような生活を送っていたかは、わかりません。また、庶民の女性がどのような暮らしをしていたかも、わかりません。

生活保護引き下げ、違法判決

2025年7月18日   岡本全勝

6月28日の朝日新聞1面、「生活保護引き下げ、違法 最高裁「厚労相の裁量逸脱」 物価下落のみ考慮、誤りと指摘」から。

・・・国が2013~15年に生活保護費を大幅に引き下げたのは違法だとして、利用者らが減額決定の取り消しなどを求めた2件の訴訟の上告審判決が27日、最高裁第三小法廷であった。宇賀克也裁判長は、引き下げを違法と判断し、減額決定を取り消した。原告側の勝訴が確定した。
一方で判決は、原告側が求めた国の賠償は認めなかった。判決は裁判官5人のうち4人の多数意見で、宇賀裁判官は賠償も認めるべきだとする反対意見をつけた。

引き下げに先立つ12年の衆院選では、野党だった自民党が保護費削減を選挙公約に掲げて政権復帰した。国は13年以降、生活保護費を約670億円削減した。
この削減では、生活保護費のうち、食費などの生活費にあたる「生活扶助」の基準額が3年の間に平均6・5%、最大10%引き下げられた。引き下げ額を決めた厚生労働相は、物価の下落に合わせて保護費を減らす「デフレ調整」を行った。
判決は、生活扶助の額は従来、世帯支出など国民の消費動向をふまえて決められていたのに、今回の調整では、「物価下落のみ」が指標とされたと指摘。指標を変えることは、専門家による社会保障審議会の部会で検討されておらず、専門的知見との整合性を欠いているとして、判断過程を誤った厚労相に「裁量の逸脱や乱用があった」と結論づけた。

訴訟では、一般の低所得世帯と生活保護世帯の均衡を図るとした「ゆがみ調整」の是非も争われたが、判決は、統計などの専門的知見と整合しないとはいえず、不合理ではないとした。
判決は、国の賠償責任について、生活扶助の指標を変える議論が過去にあった点などを踏まえ、認めなかった。
宇賀裁判官は反対意見で、「最低限度の生活の需要を満たすことができない状態を(原告らは)強いられた」として精神的損害を賠償すべきだと指摘した・・・

連載「公共を創る」第229回

2025年7月17日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第229回「政府の役割の再定義ー英・独に学ぶ官僚の中立性確保」が、発行されました。政治主導を実現するには政治家と官僚との意思疎通が重要なのに、それがうまくいっていないことを議論しています。
今回は、人事を使って官僚を従わせることについて述べました。官僚が「左遷」を恐れて萎縮し、忖度したことが明らかになっています。 ある新聞は、「官邸主導、壊れた政官関係」「10年に及んだ人事権による『恐怖政治』」と表現しました。

官邸による人事を使った官僚の操縦について、官僚たちはどのように考えていたのか。北村亘・大阪大教授の「官邸主導の理想と現実:2019年及び2023年の官僚意識調査から見た政策形成」(台湾国立政治大国際関係研究センター「問題と研究」2025年3月号所収)を紹介しました。多くの場合は、「やり過ごす」ことで耐えたようです。

政治家による官僚人事への介入は、制度の問題であるよりも、その時々の政治家の意向による人事権の運用です。それが乱用されて、官僚制の本質がゆがめられるようなことがあっては困ります。2023年10月3日付日本経済新聞「経済教室」、藤田由紀子・学習院大教授と内山融・東大教授による「政治主導と官僚制の行方」「英、官僚の中立性を守る工夫」を紹介しました。

ドイツ連邦公務員法(連邦官吏法)第62条には、上司に助言し補佐することが、「服従義務」の一つとして書かれています。そして第63条では、職務命令の合法性(適法性)に疑義がある場合は、直属上司に報告しなければなりません。それでもなお職務命令が続き、疑義がある場合は、もう一つ上の上司に連絡しなければなりません。

主張逆張りの目新しさ

2025年7月17日   岡本全勝

7月1日の朝日新聞オピニオン欄「荒れる選挙」、小林哲郎・早稲田大学政治経済学術院教授の「「逆張りエンタメ」に需要」から。

・・・ 日本人は中国やロシアのような権威主義国家の非自由主義的なナラティブ(正当性を主張する物語)に影響されやすい。そんな傾向が18~79歳の3270人を対象とするオンライン調査実験で浮かびました。他の研究者と共同で3月に論文を発表しました。
例えばロシアのウクライナ侵攻に関する設問では、「一方的な侵略であり重大な国際法違反だ」という自由主義陣営の「物語」よりも、「NATO(北大西洋条約機構)が中立の約束を破りウクライナへの影響力を拡大したのが原因」というロシアに都合の良い「物語」の方が、説得効果が高いという結果が出ました。
その理由は逆張りの目新しさにある、と考えています。つまり、社会の主流の価値観と異なる物語は新鮮で面白く感じられ、関心を引くということです。
だとすれば、選挙でも陰謀論などを唱える候補者が説得力を持ってしまう可能性は十分にあるでしょう。

ネット配信のドラマは非常に展開が速く、どんでん返しをたくさん入れて視聴者の関心を引きつけます。国内選挙の実証研究はこれからで、あくまで仮説に過ぎませんが、政治も最近エンターテインメントとして消費されている側面があり、ドラマのような展開を求める需要があるのではないかとみています・・・
・・・民主主義はまず法律があり、それに照らして理非が判断される演繹(えんえき)的なシステム。予想外の結論は出にくいです。「既得権益への挑戦」という物語に対抗すれば、既得権益側の物語とみなされる。情報を読み解く力を高めるといった個人の努力を求めてもなかなか響かないでしょう。「面白くない」ものに関心を持ってもらうのは難しい。民主主義はソーシャルメディア時代には不利なのです・・・