1月7日の日経新聞経済教室は、ウリケ・シェーデ、カリフォルニア大サンディエゴ校教授の「「ニッポン入ってる」に企業の活路」でした。
・・・過去30年、日本は他国が克服できないような難題に直面してきた。経済の低迷、少子高齢化、韓国・台湾・中国との競争激化といった要因が、衰退する国家というナラティブ(物語)を形成してきたのである。
これらのマイナス要因があっても日本は今も経済大国であり、多くの技術で先頭を走っている。なぜそんなことが可能なのか。マクロデータの背後には、企業の力強い再発明の物語を読み取ることができる。その物語は不確実性の時代を乗り切る指針になるだろう。
20世紀の大半を通じて日本経済の特徴は、高品質の最終製品の大量生産と同義だった。家電から自動車に至るまで「メード・イン・ジャパン」のラベルは日本の卓越性を世界に証明していた。だが1990年代後半になると北東アジアの新興国が日本の製造技術を習得し、低コストを武器に日本の利益を侵食し始める。
上昇気流に乗る相手との正面衝突は無益だと気づいた日本のトップ企業は、ペースは遅くとも計画的に戦略を転換した。グローバルなバリューチェーンの川上に軸足を移し、先端材料、先進的な部品、製造機械、工場自動化に力を入れるべきだと見抜いたのである。
こうした分野なら、日本が蓄積してきた知識や能力を、他国が必要とする材料・部品・装置の発明や改良に生かすことができる。
筆者が「ジャパン・インサイド(ニッポン入ってる)」と名付けたこの戦略転換の意味は、いわゆるスマイルカーブから読み取ることができる(図参照)。
スマイルカーブは製品のバリューチェーンにおける収益性の変化を示すグラフだ。最も利益率が高いのは設計や先端的な研究開発を行う川上部門と物流・販売を担当する川下部門である。かつて日本が得意とした中流部門の組み立て工程は中国など新興勢力の台頭で利益率が低下している。
そこで日本企業はコモディティ化した製品から撤退し、川上や川下へシフトした。半導体分野を例にとると、いまや日本企業は先端材料と製造装置で競争力を発揮している。これらはグローバルなバリューチェーンに根を下ろし、日本に価格決定力をもたらした。
新しい優位性はメード・イン・ジャパンほど目立たない。「Japan Inside」と書かれたラベルが携帯電話やノートPC、自動車あるいは世界各地の建築物に貼られているわけではないのだ。それでも日本製の材料や部品はあらゆるところに埋め込まれている。ここに挙げた製品の製造に不可欠な部品の中には、日本企業だけで世界シェアの100%を占めるものもある・・・