11月15日の日経新聞夕刊に、「「経済オンチ」は一体誰か?」が載っていました。
・・・第2次石破茂内閣が11日、30年ぶりの少数与党として発足した。自民党が10月の衆院選で大敗した理由として政治資金問題ばかりに目を向けては本質を見誤る。もう一つの要因は「経済無策」という野党の批判に抗しきれなかったことにある・・・
・・・野党2党首が選挙戦で批判したように石破政権の経済政策方針は矛盾に満ちている。石破首相(自民党総裁)は衆院選で「最優先すべきはデフレからの完全脱却だ」と主張した。一方でそのために掲げたのは「物価高を克服するための経済対策」だった。
デフレなのか物価高なのか。消費者物価指数の上昇率は、インフレ目標である2%を2年半にわたって上回り続けている。生活者の物価感をデフレかインフレかの二択で示せば、今はインフレだろう。
首相は「経済オンチ」というより確信犯的な政治レトリックを使っているとみるべきだ。インフレ対策なら、金融・財政とも不人気な引き締め策に向かわざるをえない。
ところがデフレという単語は曖昧に解釈できる。「デフレ=経済停滞」と広義にとらえれば、ガソリン補助金のような物価高対策に大義名分が生まれ、有権者にアピールする財政出動に道が開ける。
野党の勇ましい主張も曖昧な経済用語を逆手にとった確信犯的なレトリックに満ちている。国民民主の玉木代表は「賃金デフレ」という言葉を使う。それが指すのは「1996年をピークに下がり続けている実質賃金」だという。
実質賃金は、実際に生活者が受け取る賃金(名目賃金)から物価上昇分を差し引いて計算する。2023年の実質賃金は前年から2.5%も下落した。生活者の不満が与党の大敗の根底にあり「手取りを増やす」という国民民主の躍進につながった。
ただ、実質賃金が下がった最大の理由は手取りが減ったからではなく、消費者物価(持ち家の帰属家賃を除く総合)が3.8%も上がったからだ・・・
・・・本来なら引き締め的な円安対策を講じるのが王道だ。玉木氏はそれを「賃金デフレ」と言い換えることで、所得税の非課税枠拡大といった大幅減税案で有権者の歓心を買うことに成功した。
衆院選で議席を増やしたれいわの山本代表は「30年不況」という厳しい言葉を繰り返す。経済論議の中で「不況」とは通常、景気循環上の悪化局面を指す。
実際の日本経済は、1993年から2020年までの5回の景気循環の中で拡張期は245カ月、後退期は74カ月と成長期の方が大幅に長い。長期トレンドとして「低成長」の状態にあるが、マイナス成長を続けているわけではない。
不況期であれば、失業者の増加を防ぐ即効性のある財政出動と金融緩和が必要になる。山本氏がいう「消費税減税」も検討対象の一つになるかもしれない。
経済状態が不況でなく低成長であれば処方箋は変わる。成長企業に働き手を移す労働市場改革や国際競争力の高いハイテク産業の育成など、複雑な構造改革こそ求められる。野党のように「減税」の一言で政策を語ることはできなくなる・・・