生物学的なヒトの寿命は55歳

11月12日の読売新聞「あすへの考」、小林武彦・東大定量生命科学研究所教授の「老いて病む 人間の進化」から。哺乳類の総心拍数が種が異なっても同じという説は、「象の時間、鼠の時間」として何度か紹介しました。

・・・哺乳類の心臓は、総心拍数が20億回ぐらいに達すると終わりになるという仮説があります。60年生きるゾウも、2年しか生きないネズミも、トータルで約20億回は同じ。だからゾウの心臓はゆっくり2秒に1回ぐらい拍動するのに対し、ネズミの心臓は「トトトトトッ」と1秒間に10回ぐらいものすごい速さで打つ。
人間の総心拍数が20億回に達するのは、大体50歳前後です。また、がんで亡くなる人が55歳あたりから増えることや、女性の閉経年齢が50歳前後であることを踏まえ、私は生物学的なヒトの寿命は55歳ぐらいではないかとみています。

とはいえ、ヒトは最大で120歳ぐらいまで生きますよね。これは進化の過程で老いた個体、あるいは老いたヒトがいる集団の方が生存に有利に働き、選択されて長生きできるようになったためと考えられます。
もっとも、寿命にも限界はあります。世界中で115歳を過ぎた人は非常に少ない。どれだけ健康で体が丈夫でも越えられない壁がある。今なら120歳前後です・・・

・・・そもそも寿命がある、つまり「死」があるってことは、生物の進化に必要なんです。生物学的に考えると死があるから進化できた。古い世代が死に、新しい世代が生まれ、環境に適応するよう進化していくことで生物全体の生命が連続していく。ちょっと逆説的に聞こえるかもしれませんが、死ぬものだけが進化できて、今、存在しているのです。
進化は「変化」と「選択」から成り、変化は多様性であり、選択は、たまたまその環境で生きることができたものだけが生きてほかは死ぬということです。そこには意図も目的もない。キリンの首が長いのは、上のものを食べようと必死に努力したからではありません。変化により、たまたま首の長いのが誕生して、たまたまいい場所に葉っぱがあって、選択により、たまたま首の長いのが生き残った。生物学ではそう考えます・・・