話す力、自分との対話を重ねる

2月21日の朝日新聞夕刊「取材考記」、大阪スポーツ部、堤之剛記者の「16歳で全豪テニス準V 自ら俯瞰し培う「話す力」」から。

・・・16歳とは思えぬ「力」に驚かされた。
テニスの4大大会、1月の全豪オープン車いす部門男子シングルスに初出場した小田凱人(ときと)が準優勝した。攻撃的なスタイルも目を見張ったが、興味深かったのが記者会見やスピーチで発する言葉だった。
決勝後の会見。小田は優勝したアルフィー・ヒューエット(英)を巧みに言語化した。「アルフィー選手はコートの外からでもコートの隅を狙うことができる。警戒していたが、慣れていなかった。そのボールに対応できなかった」
4大大会4度目の出場で初の決勝を終えたばかり。並の16歳ならば興奮は冷めていないだろう。だが、この種目の最年少出場者は、試合の局面などについての質問に、丁寧にすらすらと答えた。大会を通じて自らを俯瞰していた。

なぜ、大勢の前でよどみなく話せるのか。「最初は全然話せなかった。ただ、10代で4大大会を経験し、記者会見という場を設けられたことで話すのが苦でなくなった」
とはいえ、10歳で競技を始め、昨年5月の全仏で4大大会デビューを果たしたばかり。スピーチトレーニングもしていない。言葉に詰まってもおかしくないが、そんなそぶりは見せない。心がけていることがあるという。「答えるときに、自分の気持ちをどう伝えるかを考えている」

取材を続けていくうちになぜ「話す力」があるのか、少しわかった。一つ一つのプレーに明確に根拠があり、内なる自分と対話を重ねているから。だから、他者に聞かれてもすぐに答えられる。
小田は対戦相手と自己を分析しながら、試合を進めていた。相手を上回る方法はあるのか。指導者に頼ることなく、コートの状況に合わせて勝機を探った。

他競技の高校年代の選手を取材すると、「自分たちの野球」「自分たちのサッカー」といった言葉を使う。それが具体性を欠き、目指しているものが不透明なことがある。小田は「自分のテニス」とは言わない。具体的で柔軟な思考。こんな高校年代の選手が増えれば、日本スポーツ界は変わると思った・・・