安倍首相の教育再生改革

8月1日の朝日新聞「安倍元首相の「教育再生」改革、功罪を聞く」、児美川孝一郎・法政大教授へのインタビューから。

――全体の評価はどうですか。
安倍さんの政策というと、「愛国心」を書き込んだ2006年の教育基本法の改正、道徳の教科化など保守的な印象が強い。
しかし後半は、プログラミング教育の必修化や1人1台端末を配るGIGAスクール構想など、産業界に向けた人材育成を目指す政策が増えてくる。国家主義と市場主義が車の両輪のように進んできたといっていいでしょう。

特徴があるのは、政策の決め方です。官邸に諮問機関を置き、官邸主導で猛スピードで決めていった。かつては自民党文教族、旧文部省、中央教育審議会と曲がりなりにも教育界が関与し、現場の実態が反映される余地があったが、それもない。
そうした頭ごなしの政策が失敗に終わった例が、大学入学共通テストでの記述式問題の導入や英語民間試験の活用です。民間企業の力を借りて強引に乗り切ろうとしたが、破綻しました。

――最も大きい政策は。
教育基本法の改正です。戦後変えられずに来たが、ついに山が動いた。国家主義ラインの「伝統と文化」「道徳心」といった文言だけでなく、「能力」「資質」といった経済界向けの人材育成につながる文言も入っている。
安倍改革の集大成は前文に初めて教育基本法を掲げ、17年から19年に改訂された今の学習指導要領です。「何を学ぶか」だけでなく、「何ができるようになるか」という資質・能力まで書き込み、国による縛りがきつくなった。
「ゆとり教育」批判を恐れて量も増えている。スクラップはなく、ビルド、ビルド一辺倒。どこまでできるようになっているかは全国学力調査で測られ、競わされる。子どもも教員も疲弊しない方がおかしい。