司馬遼太郎『ロシアについて』

新宿紀伊国屋に行ったら、ロシアや戦争に関する棚が設けられていました。その中に、司馬遼太郎著『ロシアについて 北方の原形』(1989年、文春文庫)がありました。司馬さんの一連の「街道を行く」はかなり読んだのですが、これは「あれ、まだ読んでいなかったよな」と思い、買いました。

いつもながら、広い視野と具体の事例と、そして司馬さんの語り口で読みやすく勉強になりました。
ロシア(これが書かれた当時はソ連)について書かれたものではありません。日本との関係、特にシベリアや千島、そして日本がロシアから見てどう見えるかです。そこに、司馬さんの得意であるモンゴルと満州の歴史と位置が入ります。「この国のかたち」という言葉は使っておられませんが、ロシアの特質を鋭く指摘されます。

シベリアを領土にしたのはよいのですが、ツンドラの大地は生産性が低く、その維持に金がかかります。本体以上の領土を持ち、それを維持しようと軍隊を持つと、それに振り回されます。戦前の日本と同じです。尻尾が胴体を振り回し、本体をも腐食するのです。その点、かつてのイギリスは、(善悪は別として)その海外領土経営能力は大したものです。

ところで、ラマ教がどのような影響を持っていたかも、初めて知りました。ラマ教が夫婦和合を唱えることは知っていましたが、僧が初夜権を持っていて、その過程で性病を感染させたこともあったそうです。