安全保障としての感染症薬

1月15日の朝日新聞経済面連載「瀬戸際の感染症ビジネス5」「平時も売る「消火器モデル」提唱」から。
・・・菌やウイルスのライブラリーは維持費や購入費で年間数億円にのぼる。化合物も室温の調整やロボットでの管理など、費用がかさむ。これらは感染症が流行しようがしまいが、毎年のしかかる負担だ。
塩野義の2019年度と20年度の決算は2期連続の減収減益だった。大きな要因が、主力の「ゾフルーザ」などインフルエンザ治療薬の不振。18年度は295億円あった売り上げが19年度は24億円、20年度は3億円と激減した。この2年間、インフルが流行しなかったことが原因だ・・・

・・・塩野義が新型コロナのワクチンと治療薬の開発に乗り出したことに、投資家から懸念の声が上がった。インフルと同様、収束すれば収益を得られない可能性があるからだ。塩野義の手代木功社長は「ビジネスとして成り立つわけがない」と打ち明ける。
危機感を募らせる手代木社長が提唱するのが、自ら「消火器モデル」と名付けた仕組みの創設だ。火事に備えて設置する消火器は定期的に交換するが、使われなくても不満に思う人はいない。同様に感染症の治療薬も、流行に備えて平時から売れれば、ビジネスとして成立する、と考えた。要は国が定期的に治療薬を買い上げる制度だ。

海外では、感染症を国家の安全保障上のリスクととらえ、製薬会社を支援する仕組みを整える国がある。内閣官房によると、米国は、平時でも感染症関連に年間5千億円以上を投じ、研究開発を促す。英国は薬を開発した会社に毎年定額料金を前払いし、必要なときに薬を受け取れる「サブスクリプション」の制度を導入した。
日本政府も新型インフルの流行後、タミフルやイナビルなどの治療薬を備蓄する制度を設け、平均して年間100億円前後を備蓄分の更新にあてる。ただ、備蓄は一部の治療薬のみで、薬の有効期限の関係で更新しない年もあり、研究する企業に安定してお金が入るわけではない。
手代木社長は言う。「事業を持続できるかどうかが重要だ。新しいビジネスモデルができなければ急性感染症の治療薬をやめることも考えないといけない」・・・

1月17日の日経新聞1面は「重要物資、供給網を支援 半導体や医薬品 政府、投資計画促す」を伝えていました。
・・・政府は社会・経済活動に不可欠な物品の国内調達を維持するため、サプライチェーン(供給網)の構築を財政支援する仕組みを新設する。半導体や医薬品を支援対象に指定し、事業者の研究開発を後押しする。米欧が同様の支援に乗り出しており、日本も経済安全保障の目玉の一つに据えて日本企業の国際競争力の向上につなげる・・・