福田康夫元首相「政官関係の再構築を」

8月28日の朝日新聞夕刊「いま聞く」、福田康夫・元首相の発言「コロナ対応、行政の混乱なぜ 官僚の知恵なくして危機管理なし、政官関係の再構築を」から。

「コロナを『国家の危機管理』ととらえた有事の体制になっていないのではないでしょうか。首相官邸と官僚機構との連係プレーが十分に機能していない」。福田さんは心配そうに語った。
「ワクチン接種は厚生労働省、総務省、経済産業省、防衛省・自衛隊と複数にまたがる。官房長官から(法案や人事などの閣議案件を事前に調整する)事務次官会議で『調整してくれ』と指示すれば、各省の事務次官が必死になって調整するはずなのに」
次官会議は本来、組織を末端まで知り尽くす次官同士が機能的に組織を動かすために意思疎通をはかる「かなり重要な場」と強調する。

政府の新型コロナ対応では、司令塔がだれなのかもわかりにくい。
危機管理全般を担う加藤勝信官房長官とは別に、コロナ対策は西村康稔経済再生相と田村憲久厚労相が、ワクチンの調整は河野太郎行政改革相がそれぞれ務める。船頭多くして船山に登る――そんな状況にあるように見える。
「司令塔はシンプルであるほうが迅速にことが運ぶ。危機管理は、各省庁が瞬時に動けるように指揮命令系統と責任の所在を明確にすることが要諦です」「現場の総司令官は事務次官です。その司令官が安心して一生懸命に動くという気持ちを失ってしまったのではないでしょうか」

2014年に安倍政権下で発足した内閣人事局は、600人を超える各府省幹部の人事を一元管理するとともに、省益より国益を重視する職員を登用することが目的だった。だが、運用の過程で官邸による官僚人事への介入を決定的に強めた結果、霞が関に「忖度」の風潮が広まったと指摘される。
内閣人事局については、福田さんも17年の共同通信社のインタビューで「各省庁の中堅以上の幹部はみな、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。恥ずかしく、国家の破滅に近づいている」「官邸の言うことを聞こうと、忖度以上のことをしようとして、すり寄る人もいる。能力のない人が偉くなっており、むちゃくちゃだ」と指摘していた。

改めて聞くと、「各省の事務次官が組織を円満かつ迅速に動かすにはこの体制でいくのが一番いいと判断して、人事案を持ってくる。問題がある人事は事務次官の責任で排除している。そういう自律機能はあるんです」。
「事務次官の権威を保つのに重要なのは人事権です。その人事権をごぼう抜きするような内閣人事局の運用であってはならない」
先の国会では、官僚による虚偽答弁や公文書改ざん問題が論戦の主要テーマになった。
「官僚がうそをついたら話にならない。政治主導の人事をしているうちに、官僚の良心もまひしちゃったとしたら、それこそ大問題だ。それを政治が放置し、世論もメディアも徹底追及していないのはおかしいですよ」