産業政策の復権

7月5日の日経新聞オピニオン欄に、西條都夫・上級論説委員の「技術革新めぐる「国家の復権」 官民の力、結集が不可欠」が載っていました。

・・・過去40年続いた民間主導の経済パラダイムが転機を迎えたのだろうか。米バイデン政権は温暖化対策や半導体のサプライチェーン強化に向けて巨額の公的資金を投入する。欧州や中国でも国家がイノベーション創出に関与するのは日常茶飯だ。日本も経済産業省の一部に政府の主導する「産業政策」の栄光復活を模索する動きがある。
6月初旬の同省・産業構造審議会の総会で配布された「経済産業政策の新機軸」と題する資料は一部で大いに注目された。「市場(ビジネス)のことは市場(企業)にまかせ、政府は市場の失敗の後始末に徹する」という従来の役割分担から大きく踏み出し、「政府こそが産業構造を転換させる主役」という世界の識者の言説をちりばめた。
▼「米国には新しい経済哲学が必要」「以前は恥ずべきものだった産業政策は、今ではごく当たり前の政策だ」=ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)
▼「政府が教育や研究に資金提供し、ハイテク設備の主要な購買者になることで、決定的な支援を提供できる」=ダロン・アセモグル米マサチューセッツ工科大教授
▼「国家はムーンショット(月に人を送るような、とてつもない大型計画)によって、イノベーションの主導者であるべきだ」=マリアナ・マッツカート英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン教授
こうした言説が注目され、現実の政策にも採用される背景にはいくつかの必然性がある。一つはカーボンゼロのような遠大な目標を達成するには、個々の企業の努力の積み上げでは足りず、国家レベルでの資金供給が必要になること。もう一つはサリバン氏はじめ安全保障系の論者に色濃い視点だが、競争相手の中国が国家主導の産業政策を推し進め、人工知能(AI)や高速通信規格「5G」で一定の成功を収めていることだ・・・

・・・さて、本題に戻り、イノベーションを起こし、経済を前に動かすには国の役割が重要だ、という説を検証してみよう。新型コロナウイルスワクチンを例にとれば、国家の関与の重要性は明々白々だ。
米同時テロで炭疽(たんそ)菌の脅威に直面した米政府は感染症対策を安全保障の一環に位置づけ、手厚い助成を続けてきた。コロナ禍が襲来した昨年以降はさらに巨額の補助を注ぎ込み、驚異的な速度でのワクチン実用化にこぎ着けた。日本の厚生労働省がワクチン開発全般に後ろ向きだったのとは好対照だ・・・

記事でも主張されていますが、企業と政府どちらかが強いのではなく、企業の得意な分野、政府が乗り出すことが適切な分野があります。その目利きが、政府に問われているのでしょう。経済自由主義や小さな政府論などの主張は、一面的すぎます。