タンザニアのその日暮らし

6月6日の読売新聞、文化人類学者・立命館大教授の小川さやかさん、「タンザニア「その日暮らし」したたかに」から。

・・・タンザニアで暮らしていると、日本でいうコロナ禍で仕事が突然なくなるような事態が頻繁に起きます。店の資本を増やしても突然警察に没収されたり、仲間の裏切りにあったり、商品を預けていた倉庫が火事になって無一文になったり。
公的な保障や保護がほとんど得られない不安定な社会では、「将来に備える」といっても、将来はどこにあるのかという感じです。日本だったら今頑張れば良い学校に入れ、大きな会社で働け、安泰な老後を過ごせるなど直線型の未来を描きやすい。でも、ここではそうはいかない。
では、人々はどうしているか。
この先どうなるかわからないリスキーな社会だから、一つの仕事に固執せず、いろいろな事業に投資して、いろんなタイプの人間とつながっておく。「生計多様化戦略」です。
例えば、コロナ禍で中国と取引ができず、電化製品の商売ができなくなった。日本なら政府の助成金に期待できても、ここでは自分で何とかするしかない。
都会に住むタンザニア人が目を向けたのが農村です。食べ物はコロナが来ようが常に要る。電化製品の商いはやめて1週間後には農村で養鶏を始めている。そんな時、役に立つのが多様な人と結んでおいた人脈です。中には養鶏のやり方を知っている人がいるから教えてもらう。すぐに新しい事業を始められる背景に、儲けは同じ事業につぎ込まず、農地の確保など、いつか役に立つかもしれない分野に投資しておく知恵があります・・・

・・・日本ではいいかげんさや適当さ、計画性がないことは好ましくないとされ、一度失敗したらダメな奴との烙印を押されがちです。これは苦しい。一方、タンザニアのような融通無碍な社会は、失敗を許す寛容さと、新たな挑戦を促す柔軟さがあります。
「その日暮らし」というと、「刹那的」という言葉を思い浮かべるかもしれません。むしろ、その日その日を生き抜くために、人々はいろんな縁を紡ぎ、生計多様化戦略に基づいて様々なビジネスを展開している。時に失敗し、だまし、だまされることがあっても、それが人間だと割り切ります。「その日暮らし」の社会から透けて見えるのは、どんな状況になっても生き抜くぞという強さとしたたかさを持った生存戦略です。
先行き不透明で不安感が強い時代だからこそ、日本のように規範性が高い社会にとっては、彼らの生き方や経済が参考になるのではと思うのです・・・