奥井智之著『宗教社会学』

奥井智之著『宗教社会学  神、それは社会である』(2021年、東京大学出版会)を紹介します。
目次を見てもらうとわかるように、信仰、教団、儀礼といった、宗教になじみのある項目のほかに、経済、学問、芸術、スポーツ、性別といった、なじみの薄い項目が並んでいます。この本は、宗教学ではなく、宗教を素材にした「社会学」です。宗教を分析するのではなく、宗教を使って社会を分析するのです。

宗教は、近代社会では非合理的なものとして、影響力が低下しました。他方で、私たちの生活や社会がすべて合理的に説明できるものでもなく、説明されても納得できないこともあります。そこに、人は、神あるいは人知を越えたものを信じます。
現在の学問では、人と人のつながりを、政治(権力的関係)、経済(取引による関係)、互恵(助け合い、コミュニティ)の3つで説明します。宗教という「非合理的な関係」は、この3つの外です。しかし、芸術、スポーツなども、3つでは説明できません。
この本は、先に挙げたさまざまな項目で、私たちの生活に神が残っていることを説明します。

社会、私たちの生活の多様な面を、宗教を鍵に説明します。読んでいて途中から、「次の項目(例えばスポーツ)について、著者は、どのように議論を展開するか」を想像しながら読みました。読んで納得しつつ、「私なら、このように書くなあ」とも考えました。
「わからないことは、学問の対象としない」ことになっている現在の学問の世界で、著者の試みは、どこまで理解されるでしょうか。
読みやすく、わかりやすいです。社会学入門書にも、なっています。他方で、先生の実体験も織り込まれていて、話が身近になり、理解しやすいです。お勧めです。