年別アーカイブ:2020年

心理社会的なストレスによる病気

2020年8月1日   岡本全勝

7月26日の読売新聞、中井吉英・関西医大名誉教授の「心療内科の神髄 体と心 患者さんに触れる」から。
「社会が複雑化し、ストレスであふれた現代。先の見えないコロナ禍も重なり、今後は心身の調子を崩す人がじわじわと増えることが予想される。ストレスが背景にある病気は、検査で異常が見つからないことも多く、診断と治療が難しい」

「ベッドサイドで手を握る。体をさする。大人もそれで安心します」
・・・心療内科医になって50年がたちました。でも、いまだに心療内科は多くの人に誤解されています。
精神科は、統合失調症やうつ病、不安症などの精神疾患が対象。神経内科は、パーキンソン病や脳梗塞こうそくなど脳神経系の病気を診ます。
一方、心療内科は、「体と心を分けずに診療する内科」です。主に心理社会的なストレスの影響で、体に不調が表れたり、もともとあった病気の症状が悪化したりした身体疾患(心身症)を診る「心身医学」を、内科の領域で実践します。心療内科医は名前の通り、内科医なのです。

1995年の阪神大震災の時、避難所の体育館に70代の男性がいました。被災後に血圧が高くなり、降圧剤を飲んでも上の血圧が180から全然下がらない。話を聴くと、地震で家が倒壊し、親友が目の前で亡くなった。その場面が何度もフラッシュバックとして現れ、1か月間、ほとんど眠れなかったといいます。私は彼の脈を診ながら手を握り、じっくりと話に耳を傾けました。その後に睡眠薬を処方すると、男性はぐっすり眠れるようになり、血圧も120台にまで下がりました。

人間関係の悩みからじんましんが度々発症していた30代の男性。夫の言葉による暴力から胸痛が表れていた50代女性。幼少時から親に甘えられず大量の飲酒を繰り返して慢性膵炎すいえんになった40代男性――。こうした患者さんたちは、医師が身体所見を正確に診た上で、心理面をはじめ、家族、学校、職場などの社会・環境まで見据えた「全人的医療」を行うことで症状が改善されるのです。
このような心療内科の診療で特に大切なのは、患者さんに「触れること」です・・・

テレワークの短所

2020年7月31日   岡本全勝

7月27日の日経新聞、西條都夫・編集委員の「一過性で終わらせない 希望と不安のテレワーク」から。テレワークの長所と短所が並べられています。

・・・これがテレワークの理想像とすれば、他方で負の側面も浮かび上がった。現時点で明確になったマイナスは2つあり、一つは(田中社長の感想とは正反対の)生産性の低下、もう一つは働く人の不安の増大だ。
前者については6月の内閣府の調査で「仕事の効率が上がった」と答えたテレワーク経験者が9.7%だったのに対し、「下がった」は47.7%に及んだ。他の調査でも同様の結果が出ており、これが緊急事態宣言解除後にオフィス回帰が急速に進んだ理由である。
背景にあるのは、「コロナによって、突然余儀なくされたテレワーク」による準備不足だろう。テレワーク研究で有名な米スタンフォード大のニコラス・ブルーム教授は生産性の足を引っ張る最大の要因は「子供」だという。
「うちにも4歳の男の子がいて、パパが家にいると遊んでほしくて書斎に乱入してくる。これは生産性の大きな妨げ」と教授はいう。ほかに「自室がなく家族共用の食卓で仕事をする」「通信状態が悪い」といった要因も大きく、家で働くための環境整備がテレワークの成果を引き出す前提条件であることが分かる。

「不安」については、職場における基盤が弱い若年層がより強く感じているのが特徴的だ。例えばパーソル総合研究所の調査によると、見えない場所で仕事をするので「上司から公正に評価してもらえるか不安」という人は50代では23%にとどまったのに対し、20代は43%に達した。
全員が会社に来ない一斉テレワークより、来る人と来ない人が混在する「まだらテレワーク」のほうが不安を助長するというデータもある・・・
・・・コロナによるテレワークの機運が一過性で終わるのは、やはり惜しい。日本経済の直面する人手不足やワークライフバランスの改善などの課題解決にテレワークは威力を発揮する。マイナス面を抑える取り組みが企業には求められる・・・

政治における委任とリーダーシップ

2020年7月31日   岡本全勝

月刊Voice8月号、河野勝・早稲田大学教授執筆「政治における委任とリーダーシップ」から。この論考は、いくつかの新聞論壇時評で取り上げられています。

・・・冒頭で述べたとおり、今日では政治リーダーがさまざまな専門家からアドバイスに支えられることは不可避であり、コロナ危機はそれを誰の目にも明白にした。しかし、アドバイザー体制を構築することで、リーダーの責務が終わるのではない。政治のリーダーシップが本来発揮されるべきは、まだその先である。
現代における政治のリーダーシップとは何か。筆者は、優れたリーダーを測るのは「その人でなければできない」という素質を持っていることが、もっとも重要な基準であると考えている。集められるかぎりの情報を集めさえすれば、そのなかから自ずと答えが出るような意思決定に、リーダーは要らない。情報を集める前に独断専行で決定に及ぶのは、論外である。
集められる情報をすべて集めるアドバイザー体制を整えることは、もちろん重要である。しかし、そのような体制づくり事態は、「その人でなければできない」ことではなく、いってみればそれは優れたリーダーであるための前提条件に過ぎない。

「その人でなければできない」決断は、集められる情報をすべて集めたうえでも答えが出ないときに、はじめて必要となる。そのような場面において、BでなくAの選択肢が正しいという判断を何らかの根拠に基づいて行い、しかもそれを周りの人たちに納得させることができる能力と信頼が備わっていること、それが現代のリーダーシップの本質ではないかと考える・・・

連載「公共を創る」第50回

2020年7月30日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第50回「日本は大転換期―うまくいかなかった平成時代」が、発行されました。

前回に引き続き、平成の地方分権改革について、その位置づけを説明しました。
そして、平成時代の総括を述べました。一言でいうと、昭和後期が「思ったよりうまく行った時代」であり、それに対し平成時代は「思ったほどはうまく行かなかった時代」と言えるでしょう。

その間に、日本人は変わっていません。そして、国民も、企業も、政治も行政も、その時々の課題に精一杯取り組みました。しかし、昭和後期はうまくいって、平成時代はうまく行かなかったのです。
なぜか。それは、科学技術発展の時代背景、国際環境、他国の状況など、昭和後期は「例外の時代」だったのです。他方で、平成時代には、私たちは課題と対応策を間違えたようです。昭和の延長に発展はないのに、まだ続くと考えていたのです。発展途上社会と成熟社会では、課題が異なるのです。
この問題は、令和時代の私たちの宿題です。それを意識して、この連載を書いています。次回からは、その話に移ります。

コロナ経済危機、雇用調整助成金と失業保険

2020年7月30日   岡本全勝

7月22日の日経新聞経済教室、八代尚宏・昭和女子大学副学長の「休業手当より失業給付重視を あるべき雇用政策」から。

・・・今回のコロナ危機では、2008年のリーマン・ショック時と比べ、失業者の増加が著しく抑制されていることが特徴だ。政府の自粛要請に基づくサービス業主体の中小企業の休業増加に対応して、従業員への休業手当を補助し、解雇を防ぐ雇用調整助成金が大幅に拡充された要因が大きい。
具体的には対象事業主の拡大や受給要件の緩和と、中小企業への休業手当の助成率を100%近くまで引き上げたことなどだ。この結果、コロナ不況の影響が最初に表れた20年4月の失業率は前年同月比0.2ポイントの上昇にとどまった。
代わりに休業者数が前年比420万人も増えるという異常な状況が生じた(図参照)。仮に19年平均を上回る休業者の増加数がすべて失業者になっていれば、失業率(図の修正失業率)は9%台に達していた・・・

・・・もっとも、これは雇用調整助成金内での整合性にすぎず、肝心の職を失った労働者が直接申請する失業給付との間には大きな不均衡がある。現行の失業給付は、低賃金労働者を除けば、ほぼ賃金の5割で日額8330円(月額18万円)が上限と、休業者への直接給付の半分程度だ。
つまり類似の生活保障給付なのに、政府の自粛要請で休業中の従業員と、企業の倒産・廃業で失業した従業員との間には、2倍もの格差がある。もともと雇用調整助成金による休業手当と失業給付の上限額は同じだったが、失業率に影響しない休業者の増加を優先するという政治判断によって新たな不均衡が生じた。
また企業に代わり、その従業員が政府に休業手当を申請できることは、事業主にとって、休業手当を支払わなくてもよいというモラルハザード(倫理の欠如)を誘発する・・・

・・・今回、雇用調整助成金の対象範囲を拡大し、本来の雇用保険の被保険者でない短時間労働者の休業も対象にしたことは注目される。これは現行の雇用保険の枠組みを用いて、より多くの非正規労働者を救済し、その費用は国庫から補填するという現実的な工夫だ。
もっとも、外的な経済ショックに現行の雇用保険だけで対応するには限界がある。コロナ危機で所得水準が前年より大きく落ち込んだ個人を対象とした当初の30万円の給付金は、補完的な所得補償を目的としたものだった。だが全国民を対象とした一律10万円の定額給付金に置き換えられたため、膨大な財政コストと不毛な行政事務を招いた。
こうした財政の浪費を繰り返さないためにも、欧州の動向に倣い、フリーランスや学生アルバイトなどにも幅広く失業給付の対象を拡大することで、より普遍的な雇用維持策の機能拡大を図る必要がある。
コロナ危機は継続する可能性が高い。一方で、企業に依存しない働き方の多様化も広がっている。今後は「企業が雇用を守り、その企業を政府が守る」という労働者保護と企業保護が混在した雇用調整助成金の政策目的を、本来の労働者保護に徹底させるべきだ・・・

詳しくは原文をお読みください。