政策の階層

9月25日の朝日新聞、佐伯啓思先生の「この7年8カ月の意味」の続きになります。「安倍政権の位置づけ、激変した世界の中で。その2」で、次の文章を引用しました。
・・・最高の地位にある政治家は、また行政のトップでもある。最高の行政官は、国民の要求に応えなければならず、また国家の直面する目前の問題に対して現実に対処しなければならない。まさに身を粉にして「仕事」をしなければならない。「仕事」をすれば支持率はあがる。だが、政治家とは、世界状況を読み、その中で国家の長期的な方向を示すべき存在でもある。「旗」をたて、その旗のもとに結集すべく人々を説得する「指揮官」でもある・・・

各人が精一杯努力してそれぞれに成果が出ているのに、全体としてはうまく行っていない。小は職場や企業から、大は日本の政治と社会まで、しばしば見られる現象です。理由の一つは、求められる成果に対して、違ったことに頑張っているからです。極端な例は、企画案(粗々な原案でよいから)を求められているときに、文章のてにをはを直すことに時間をかけている場合です。暗闇で鍵を落としたのに、そこから離れた街灯の下で鍵を探すとか・・。

では、日本政治ではどう考えたらよいか。私は、次のように考えています。
その1 評価の基準
日本の政治は、いま何をしなければならないか。たくさんある課題から、どれを優先するか。これは難しい判断です。しかし、簡単に言えば、「10年後から振り返って、あの時(2020年)は正しいことをした」と評価できるかどうかです。「毎年、いろいろ頑張ったのに、なぜこんなことになったのだろう」では失敗です。
10年後から振り返るとしても、経済、財政、社会保障、安全などいろんな分野で測ることができます。これまた簡単に言えば、「国力で世界何位にいるか、国民一人あたり国内総生産で世界何位か」が、最もわかりやすいです。もちろん、経済力だけで、国民の幸せを測ることはできません。しかし、平成以来の日本社会停滞の大きな原因は、経済の停滞です。このまま放置すると、中国、アメリカなどに引き離され、韓国や台湾の後塵を拝するでしょう。

その2 政策の階層
では、総理をはじめ責任者は、何をすればよいのか。それを考える際に必要なことが、政策の階層です。内閣も課長も、さまざまな課題に取り組みます。その際に、優先順位をつけることが必要なのです。
それも、一列に並べることではありません。内閣で言えば、取り組まなければならない課題や政策を「総理が取り組むこと」「大臣が取り組むこと」「局長が取り組むこと」の3層に分けることです。
すると、政策の体系・ピラミッドができます。総理がするべきこと、大臣が取り組むべきこと、局長に任せること。これを判断するのが、総理と総理を補佐する人たちの一番重要な任務です。
「明るい公務員講座」56ページでは、ゾウを捕るのかネズミを捕るのかのたとえで話しました。「講座」では一人の職員の任務として話しましたが、組織の場合は課題をゾウとネズミに分類し、誰にどれを分担させるかです。

マックス・ウェーバーが、心情倫理(信条倫理)と責任倫理を分けました。政治にしろ企業にしろ、「頑張りました」だけではだめで、「これだけの結果を出しました」が判断基準です。この項続く