ポピュリズム権威主義

11月25日の読売新聞文化欄、神保謙・慶應大学教授の「論壇キーワード」は、「ポピュリズム権威主義」でした。

・・・グローバルな民主主義の後退が10年以上にわたり続いている。国際NGOフリーダムハウスによれば、過去13年間連続で権威主義体制が興隆し、民主主義体制の国々でも政治的自由度が低下するか、体制自体が瓦解するというトレンドが続いている。これら民主主義体制の瓦解には、ケニア、ロシア、タイ、トルコ、ベネズエラといった戦略的重要度の高い国々が含まれる・・・
・・・かつての民主主義の瓦解は、軍事クーデターと戒厳令による統治権の剥奪はくだつや、選挙による代表制の停止など、唐突な形での政治体制の転換が多くみられた。しかし今日の民主主義の後退は、むしろ民主的手続きを経て信任されたポピュリスト政治家が、徐々に司法の独立を制限、報道規制を強化、市民の政治的自由に介入し、権威主義化を進めていくモデルが目立っている。これを「ポピュリズム権威主義」もしくは「ポピュリズム独裁」と呼ぶ・・・

・・・ポピュリスト政治家が権威主義化を進める現象は、民主制が根付いた国家にも広く及ぶようになった。米国のトランプ大統領、ハンガリーのオルバン首相、ブラジルのボルソナーロ大統領、フィリピンのドゥテルテ大統領など例に事欠かない。欧州・アジア・ラテンアメリカにおけるポピュリスト政党や政治家の伸長も、さらなるポピュリズム権威主義の予備軍となっている・・・
・・・新興国の権威主義体制は経済成長の果実とIT技術による統治強化を携え、社会の自由をますます制約しながら権力の強靱きょうじん性を強めているようにみえる。先進国の民主主義はグローバル化に対する反動と、低成長期の分配政治の限界を抱え、反エリート主義を掲げるポピュリストが権力を握る傾向が顕著となっている。こうした動向から、経済発展が民主化を促し定着させるという近代化仮説は、その役割を終えたとする議論すらある・・・