『ミッテランの帽子』

ミッテランの帽子』(2018年、新潮社)を読みました。
友人が勧めてくれて、買ってあったのです。私は、社会や政治に関心があって、それらの本を読むだけで時間がなくなります。とても、小説まで手が回らないのです。そして、作り話より、ノンフィクションの方が、面白いと感じるのです。とはいえ、たまには難しくない本を。

ミッテラン大統領が、レストランに置き忘れた帽子。持ち主が変わるたびに、彼や彼女の人生に幸運をもたらします。詳しくは読んでいただくとして。
フランス料理、香水、ブルジョアの暮らしなど、軽やかな文体ですが、緻密な表現がされています。フランス料理は私たちもなじみができましたが、香水やブルジョアの暮らしは、知らない世界です。
次はどの様な展開になるのだろうと、わくわくしながらページをめくります。私が書く文章と、小説との違いですね。事務文章は、次は何が出てくるのだろうと疑問を持たせたり、びっくりさせてはいけないのです。
たくさんの読者が、感想文を書いています。参考にしてください。「アマゾンでの感想文

「頭の上に帽子を乗せることで人は それを持たない人たちに 疑う余地のない威厳を誇示できるのだ」トリスタン・ベルナール。巻頭の題辞
「帽子は帽子をかぶる人にそれをかぶらない人以上の威厳を与える、とダニエルは思った」(P30)

私は、そこまで気取ってはいないのですが。まあ、中折れ帽を被って、変な行動はできませんわね。野球帽と中折れ帽(ボルサリーノ)では、立ち居振る舞いは異なります。被った当初は、ホテルやデパートで、「丁寧に扱ってもらっている」と感じるときはありました。
さて、私の中折れ帽(いま被っているのは、もう何代目かのものですが)は、私に幸せをもたらしてくれたのでしょうか。そうだと思いましょう。

ただし、帽子愛好家としては、疑問が残りました。この小説は、ミッテラン大統領がレストランに帽子を忘れる場面から始まりますが、この設定に難があります。
1 しょっちゅう忘れ物をする私でも、帽子を忘れることはありません。身についているので、帽子がないと、違和感を感じるのです。
2 大統領には、秘書官と警護官がついているので、忘れると指摘してくれるはずです。もちろん、お店も。

さらに付け加えると。帽子って、簡単に被れないのです。一つは、サイズが合わないことがある。靴と同じです。もう一つは、その人の顔や服装に合わせるのも、けっこう難しいのです。どれでもよいとは、いかないのです。