時代を体現する指導者

10月25日の日経新聞オピニオン欄、ギデオン・ラックマン、フォーリンア・フェアーズ・コメンテイターの「歴史に名残す? トランプ氏」から。
歴史に名を残す人物は、時代を動かした英雄の他に、時代を体現した人物もあるとの主張です。そして、トランプ大統領は後者に当たる可能性があるのです。

・・・ヘーゲルが生きていた時代の典型的な世界史的人物はナポレオンだ。ヘーゲルはナポレオンのことを「馬に乗った世界精神」と表現した。ヘーゲルの世界精神について筆者がこれまで読んだ定義の中で最もよかったのは、奇妙なことにフランスのマクロン大統領による説明だ。マクロン氏は独シュピーゲル誌によるインタビューでこう語っている。「ヘーゲルは『偉人』をその人物よりもずっと偉大な何かを実現する道具にすぎないとみていた……彼は、ある人物がしばらくの間、時代精神(世界精神)を体現することはできるものの、当人がその時必ずしもそれを明確に自覚しているわけではない、と考えていた」と。
トランプ氏がヘーゲルについて一家言あるとは思えない。だが、同氏は本能的に、ヘーゲルがまさに指摘したような自分でさえよく理解していないその時代の流れや力を体現し、それらを自分に有利に使える直観的な政治家なのかもしれない。対照的にマクロン氏は今のところ、教養はあるが、滅びつつある今の秩序を体現する存在のように見える。

では、もし将来の歴史家たちがトランプ氏を歴史的人物だと認めるとしたら、どういう意味で評価するだろうか。
まず、米国の外交方針について、エリート層の間で合意されてきた過去のやり方とは完全に決別した点が挙げられるだろう。歴代の米大統領は、米国の力が弱体化しつつあることを否定するか、ひそかに対処しようとするかのどちらかだった。だがトランプ氏は米国の凋落(ちょうらく)を認め、その流れを逆転させようとしている。手遅れにならないうちに世界秩序のルールを米国有利に書き換えようと努力する中で、米国の力を容赦なくあからさまに振るった、と、未来の歴史家は書くだろう、そして以下のように続ける。
特に、歴代大統領がみな信奉してきたグローバル化は実はひどい考え方で、それが米国の力を相対的に低下させ、国民の生活水準を押し下げてきたと同氏は断じた。30年以上にわたる実質賃金の伸び悩みや目減りを経験してきた米国民は、同氏のメッセージを受け入れた・・・

・・・一方、内政面では、未来の歴史家は、トランプ氏が米国のエリート層の見解と一般大衆の意見の間に、大きな隔たりがあることに最初に目を向けた大統領だったと記すかもしれない。移民や貿易、アイデンティティー政治(編集注、民族、宗教、社会階級など構成員のアイデンティティーに基づく社会集団の利益のために政治活動すること)などの幅広い問題を巡る考え方の違いに、だ。
同氏はこの分断を、最初は大統領候補として、その後は大統領として徹底的かつ効果的に活用した。トランプ氏は、従来の常識では政治家としては致命的といえるような言動をとってきたが、彼の本能の方が専門家の分析より優れていた。高齢(72歳)にもかかわらずニューメディアを「理解」し、ほかの政治家には及びもつかないほど見事に使いこなした――。こう記されるかもしれない・・・・

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