政治が支える経済の仕組み

先日「アメリカ資本主義の行き着くところ」という記事(2月7日)で、ロバート・ライシュ著『最後の資本主義』(邦訳2016年、東洋経済新報社)を紹介しました。実は、この本を読んだのは、そのような「アメリカ式強欲資本主義」を知りたかったからではありません。資本主義、自由市場を支えているのは、政治によってであることを主張しているからです。

経済学では、市場経済における政府の役割は、次の3つと教えます。資源配分機能、所得再分配機能、経済安定化機能です。しかし、これは財政の役割であっても、政府の役割のすべてではありません。例えば、所有権が保障されること、会社に法人格を与え株主には無限の責任が及ばないこと、取引でもめ事が起きたら裁判で決着をつけること、契約が履行されないときは政府の力で強制されること、証券取引所で株が売買されることなど。日常の経済活動が成り立つように、政府が法律をつくり、紛争処理や執行を行わないと、自由市場、自由主義経済は成り立たないのです。決して「自由」な経済ではありません。政府が整えた仕組み、関係者が守る制度や慣習の上で、自由に振る舞うということです。

この本では、資本主義が成り立つ要素を、詳しく分析しています。ライシュ教授によれば、次の5つです。
所有権、所有できるものは何か
独占、どの程度の市場支配力が許容されるか
契約、売買可能なのは何で、それはどんな条件か
破産、買い手が代金を支払えないときはどうなるのか
執行、これらのルールを欺くことがないようにするにはどうするか
そして、現在のアメリカの経営者たちは、このルールの抜け道を使って巨万の富を得ているというのが、教授の主張です。そして教授は、これまでは市場に対して政府の大きさが問題になっていたが、大きさではなくルールの作り方が問題だと主張します。
納得しました。まだまだ、紹介したいことはあるのですが、ご関心ある方は本をお読みください。翻訳もこなれていて、読みやすいです。

社会をよくするために、政治と行政は何をしなければならないか。それが私の研究テーマです。「政府の役割」と言って良いでしょう。その際に、市場と国家の関係は大きな課題の一つです。
行政の分類」で「国家の役割と機能の分類」を試みました(連載「行政構造改革」2008年9月号に載せました。私のホームページでは、表は読めなくなっています。うまく移植できなかったのでしょうね)。整理して、大学の授業で解説しようと考えています。

著作一覧

著作一覧(工事中、リンクが張れていません)。「主な著作
このページの左欄(黒い部分)のカテゴリー「著作と講演」さらに「著作」を開いてください。小目次があります。

1 地方行財政(これはすべて古くなっています。歴史遺産)
→詳しくは著作の解説1 地方行財政のページへ。
(1)地方財政
(単行本)
「地方財政改革論議-地方交付税の将来像」2002年、出版社ぎょうせい
「地方交付税・仕組みと機能-地域格差の是正と個性差の支援」1995年、大蔵省印刷局

(論文など)
「平成15年度地方交付税法の改正と最近の議論について」月刊『地方財政』2003年4月号
「地方税財源充実強化の選択肢」月刊『地方財政』2001年4月号
「第11回地方財政学会の基調講演と概要」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2003年9月号
「近年の地方交付税の変化」月刊『地方財政』2004年1月号
「進む三位一体改革-評価と課題」月刊『地方財務』2004年8月号、9月号
「続・進む三位一体改革」同2005年6月号、2006年7月号
「地方財政の将来」神野直彦編『三位一体改革と地方税財政-到達点と今後の課題』(2006年11月、学陽書房)所収
「三位一体改革の意義」と「今後の課題と展望」『三位一体の改革と将来像』(ぎょうせい、2007年5月)所収

(2)地方行政
「制度と運営と-ヨーロッパで地方自治を考える-」月刊『地方財政』(地方財務協会)2002年12月号。第28回欧州諸国地方行財政制度調査報告書」2003年1月、地方財務協会刊に所収。
「失われた10年と改革の10年-最近の地方行財政の成果」月刊『地方自治』(ぎょうせい)2001年5月号
「市町村合併をめぐる財政問題」月刊『自治研究』(第一法規)2003年11月号

2 日本の政治と行政
→詳しくは著作の解説2 日本の政治と行政のページへ。
(単行本など)
東日本大震災 復興が日本を変える」2016年、ぎょうせい
新地方自治入門-行政の現在と未来」2003年10月、時事通信社
省庁改革の現場から-なぜ再編は進んだか」2001年、ぎょうせい
『Public Administration in Japan』(2024年、Palgrave Macmillan)の「第19章 Crisis Management」を執筆(英文)

(論文など)
「予算編成の変容」月刊『地方財務』2003年12月号
「豊かな社会の地方行政-工業化社会からポストモダンへ」月刊『地方自治』2002年5月号
「中央省庁改革における審議会の整理」月刊『自治研究』(良書普及会)2001年2月号、7月号
「地方自治50年 私たちの得たもの忘れてきたもの」1997年、富山県職員研修所

「再チャレンジ支援施策に見る行政の変化」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2007年8月号
連載「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2007年9月号から
「社会のリスクの変質と行政の変化」日本大学法学部紀要『政経研究』第47巻第1号(2010年6月)
行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)
連載「社会のリスクの変化と行政の役割」月刊『地方財務』(ぎょうせい)2010年10月号から2011年4月号

「地震・原発災害からの復興と地方自治」日本地方財政学会編『地方分権の10年と沖縄、震災復興』(2012年、勁草書房。地方財政学会年報)
「被災地から見える「町とは何か」~NPOなどと連携した地域経営へ~」共同通信社のサイト「47ニュース、ふるさと発信」2012年8月31日
「東日本大震災からの復興―試される政府の能力」日本行政学会年報『東日本大震災における行政の役割』(年報行政研究48、2013年5月、ぎょうせい)
日本地方財政学会編『原子力災害と地方自治体の財政運営(日本地方財政学会研究叢書)』(2015年、勁草書房)
「復興の現状と課題―未曾有の事態へどのように対応してきたのか」『地方財務』(ぎょうせい)2015年4月号

3 行政管理
→詳しくは著作の解説3 行政管理のページへ。
(単行本)
明るい公務員講座 管理職のオキテ」2019年、時事通信社
明るい公務員講座 仕事の達人編」2018年、時事通信社
明るい公務員講座」2017年、時事通信社
「明るい係長講座 初級編・中級編」1996年、富山県職員研修所

(論文など)
連載「明るい公務員講座」専門誌『地方行政』(時事通信社)2015年11月~
「デルクイ発刊趣意」『デルクイ』創刊準備号、1996年
「富山県庁の挑戦-私の行政改革論」1998年、富山県職員研修所
「不思議な公務員の世界ーガラパゴスゾウガメは生き残れるか」『地方自治』2008年5月号(ぎょうせい)
「安心国家での地方公務員の役割」月刊『地方公務員月報』2011年4月号(総務省自治行政局公務員課)。詳しくは「明るい係長講座2」へ。(2011年5月7日)

4 随筆など
日経新聞夕刊1面コラム「あすへの話題」連載(2018年1月~6月)

その他の雑誌への寄稿や講演録は、著作一覧2へ
論文検索「Google Scholar

復興庁5年、被災自治体首長の評価

2月10日の河北新報に「復興庁5年 被災自治体は・・」が載っていました。見出しは、「評価と 交付金配分要望通り、省庁横断の強み活用」「注文と 臨機応変な運用必要、原発復興支援継続を」です。

大熊町の石田仁副町長は「ほぼ要望通りの配分なのでありがたい。まちづくりのアドバイスなど非常に助けられている」と、多賀城市の鈴木学市長公室長は「職員は自分たちのネットワークを活用してくれた。復興庁に話をすれば、各省庁に話が通っていた」と評価してくれています。
このほか、被災3県と14市町村の首長または幹部の意見を表にして載せていました。
岩手県は「岩手復興局で窓口が一本化されたのはありがたい」、福島県は「ワンストップ機能が発揮されている」です。
女川町は「現場とのギャップはない。ビジネスパートナーな感じ」、南相馬市は「複雑な被災地域の実情を勘案し対応してくれた」、浪江町は「町担当参事官が何度も足を運んでくれる」、新地町は「全体的には寄り添った対応をしてもらえた」、飯舘村「予算は満足。発足時に比べれば役割を果たしている」です。
ありがとうございます。

拙著『東日本大震災 復興が日本を変える』p81や、『明るい公務員講座』p175にも書きましたが、初めの頃は首長からは必ずしも良い評価をもらっていませんでした。それが、2年経った頃から、評価が良くなったのです。現場での復旧が進んだわけではありません。まだ計画作りや用地買収に時間がかかり、目に見えた復旧も始まっていませんでした。なぜ、評価が良くなったか。それは、復興庁職員が現場まで御用聞きに行き、信頼関係ができたからだと考えています(参考、2014年2月7日河北新報)。
そして、地元自治体、首長さんからの良い評価は、職員の励みになります。
記事では、今後の注文ももらっています。

 

復興庁発足5年

復興庁が2012年2月10に発足して以来、丸5年が経ちました。いくつかの新聞が、取り上げてくださっています。朝日新聞社説は「復興庁「御用聞き」から前へ」でした。
・・・これまで復興庁は、被災地に寄り添い、自治体や住民らの声をすくい上げる「御用聞き」の役割を重視してきた。そこから一歩前に出て、現場で課題を掘り起こし、解決につなげられるか。復興の司令塔としての力量が問われる・・・
「御用聞き」は私たちが心がけてきたことです。これまでの役所、特に国の役所にはなかった仕事の姿勢だと思います。これから、他の役所でも心がけて欲しいです。

・・・復興庁の特徴は、震災前は国の役割とはされてこなかった仕事に力を入れていることだ。仮設住宅に住む人の交流促進や、復興にかかわりたい民間人材を被災自治体や団体に紹介するといった事業だ。行政が不慣れな分野だけに、ノウハウを持つNPOや企業と積極的に連携してきた・・・NPOや企業といった民間と二人三脚で、「公」の仕事を担う。こうしたやり方をさらに広げ、新しい行政のモデルを目指してほしい・・・
ありがとうございます。まさに、私たちが目指したことを、適確に取り上げていただきました。

・・・復興事業の大半は他の省庁が担当している。復興庁はそれを調整する役回りだが、職員の多くは各省庁からの出向者だ。縦割り意識や出身母体への遠慮がないだろうか・・・
前段は、ご指摘の通りです。日本中を探しても、街づくりの専門家、学校校舎復旧の専門家は、霞が関にしかいないのです。民間にはおられず、新採職員を育てている時間はありません。後段の指摘は、なるべくなくすように努力したのですが。

・・・復興の重点は今後、福島県の原発周辺地域に移っていく。これまで賠償や除染といった仕事をそれぞれの担当官庁が進めてきたが、地域の再生に向けた取り組みでは復興庁が先頭に立つべきだ・・・
ご指摘は、半ば同意します。実は、原発被災地は復興の前に、事故の後始末が必要なのです。そしてそれは、政府の原子力災害本部の仕事です。「東日本大震災に係る政府の対応」(資料の12ページ)をご覧ください。地震津波被災地(図の右側)では、津波が終わると復興に入れました。しかし、原発事故被災地では、避難指示を解除する、またそれまで被災者の支援をするのは、原災本部とその事務局の仕事なのです(図の左上)。火事に例えれば、火は消えたけど、まだ立ち入れない状態といったら良いでしょうか。避難指示が解除され、住民が帰還できるようになったら、復興庁の仕事になります(図の左下)。もっとも、避難指示解除前から、帰還の準備に、復興庁が仕事を始めています。

また、朝日新聞は3面に、大月編集委員による「復興庁発足5年、32兆円分の責任」が載っていました。
被害が広範囲甚大だっただけに、復興には巨額の経費がかかっています。そして、それは国民の税金です。「地元の要望」と「税金=納税者の目」を考えながら、事業を進めなければなりませんでした。
記事にも出ていますが、高台移転の戸数が、当初の3万戸分から2万戸分に減りました。これは、市町村に住民の意向調査を繰り返してもらい、計画の精度を上げていったのです。時には、復興庁が嫌われてもです。高台移転は山を削り整地し、道路や上下水道を引きと、お金がかかります。当初は戸建てを立てたいとおっしゃっていた避難者の中にも、公営住宅に入るという方も出てきました。そこで、事業を縮小したのです。他方、公営住宅は当初計画の2万戸が3万戸に増えています。しかし、1戸あたりの国費は、かなり少なくなります。「一度計画を作ったら縮小しない」という行政への批判に答えたつもりです。
大月記者は、発災当初から引き続き復興を追いかけてくださっています。長期的に現場と行政を見てくださっていることは、ありがたいことです。

反響、クレーマーへの対応

連載「明るい公務員講座・中級編」の「交渉(4)苦情への対応」(2月6日発行)に、何人かの読者から、「私はもっとひどい目に遭った・・・」というようなメールをもらいました。少し改変してあります。

Aさん 11時から18時頃まで、苦情電話に付き合ったことがあります。「こちらからは電話を切るな」と指導されていたので、辛抱しました。
Bさん 以前、つい本音が出て少し反論したら相手が激高し、上司に苦情が回りました。この時は、上司に防波堤になって助けてもらいました。
「逃げてはいけない」という基本的スタンスに立ちながら、「いちいち反論しない」というのは、誰かに言ってもらわないと、あるいはやけどをしてみないと気付かない点です。
Cさん つい先日、住民からの長電話に付き合ったばかりです。あの電話の前に、この記事を読んでいたら、もう少し落ち着いて対応できたのですが。