藤井直樹・国土交通省自動車局長が、季刊『運輸政策研究』2016年10月号に「自動車を巡る課題―コンプライアンスと技術革新」を寄稿しています。
読んでもらうとわかりますが、成熟期に入っていると思われる自動車行政が、いくつもの新しい課題に直面しています。多くの乗客が亡くなった軽井沢スキーバス事故、三菱自動車工業とスズキの燃費不正事案、タクシーの呼び寄せアプリやライドシェア。これらを、コンプライアンスと技術革新という観点から整理してあります。そして、現在の課題を取り上げ、その社会的、構造的問題に切り込む。さらに、将来を見通す。
「それは、運転手が悪いのです」とか「会社の問題です」と、個別事象として片付けることも可能です。しかし、それを社会的問題として考えるのです。なかなかの論文です。ぜひ、原文をお読みください。
近年は、官僚が自説を述べない、論文を書かないような気がします。でも、所管行政の現状と課題を整理し、これからの取り組むべき方向を内外に示す。それが、局長や課長に期待されている役割なのですよね。そして、評論家にならず、その課題を解決することに取り組む。これが、官僚の役割です。
藤井局長に続く官僚を期待します。(2016年11月10日)
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トランプ氏勝利、クリントン候補と共和党の敗北
11月10日の朝日新聞オピニオン欄「トランプ大統領の衝撃」、久保文明・東大教授の発言から。
・・・その白人中間層が「とにかく現状を変えてくれ」というギャンブルに近い思いを込めた票が、トランプ氏に結集したのでしょう。
逆に、元大統領夫人であり、上院議員や国務長官を経験したクリントン氏は、既存の政治を嫌い、変化を求める有権者の流れに押しつぶされてしまいました。
ある意味、敗者はクリントン氏と民主党だけではありません。自由貿易、国際主義を掲げ、国際秩序を支える立場の政党だった共和党は見る影もありません。トランプ氏という反自由貿易主義、孤立主義でアメリカ第一主義の前に、これまでの共和党主流派は敗れ去りました。明らかに共和党の政策の限界を示すものでしょう・・・
・・・クリントン氏が民主党の予備選でサンダース氏に苦戦した通り、全体として、米国のエリートが米国政治の方向性をコントロールする力がだいぶ弱くなっているのかも知れません。これは英国でもそうでしょう。欧州連合(EU)からの離脱を決めた「ブレグジット」がそうでした。また、トランプ氏がこの選挙戦を通じて行ったことは有権者の不満に火をつけることで、人種や民族などの集団間の対立、分断を促進することでした。これから米国のリーダーとして、分断、対立ではなく、融合と統合を行えるのか、集団と集団を隔てる壁ではなく、架橋になることができるかが重要です・・・(2016年11月10日)
明るい公務員講座・中級編4
連載「明るい公務員講座・中級編」第4回、「事務の管理(1)指示の出し方」が発行されました。課長の仕事のうち、まず、部下の仕事を管理することを解説します。
課長が指示を出し、部下が仕事をします。そして、その結果について、課長は責任を持ちます。部下の仕事の出来が悪いときは、自ら手を入れる必要があります。任せただけではダメなのです。指示と確認、そして添削が、課長の仕事です。指示の出し方の例として、表を作る場合を紹介しました。「臨場感」を出すために、恥ずかしながら、私の手書きの指示を載せました。今回の内容は次の通り。
部下への指示・確認・添削、悪い指示の例、任せる上司は良い上司か、部下の能力に応じた指示、仕事の困難度に応じた指示、ボトムアップ型とトップダウン型、効率的な議会答弁案作成、答弁を読むのは大臣や知事。
アメリカ社会と政治、大統領の限界
アメリカ大統領選挙は、接戦の末、トランプ氏に決まったようです。
渡辺将人著『アメリカ政治の壁―利益と理念の狭間で』(2016年、岩波新書)が、勉強になりました(かなり前に読んでいたのですが、ここに書くのを怠っていました。何事も、思い立ったときに、しておかなければなりませんね。反省)。著者は、マスコミ記者やアメリカでの政治事務所での経験をもつ、北海道大学准教授です。
8年前、熱狂的に迎えられたオバマ大統領が、なぜ思うような政治ができなかったか。その政治・社会的背景が描かれています。
分析視角として、民主党と共和党との対立や、大統領より強い議会という構造だけでなく、その対立をさらに複雑にする社会の分裂を指摘します。一つの補助線は、「利益の民主主義」と「理念の民主主義」です。これが、宗教、マイノリティー、経済・貿易などの争点で、支持政党とは違う分裂を生んでいます。オバマ大統領の敵は、共和党ではなく、民主党内にいるのです。新書という分量に、わかりやすく書かれています。是非、本をお読みください。
新しいアメリカ大統領もまた、国民の政治的意識の分裂の中で、難しい舵取りを迫られます。自らの主張を実現しようとすると、法案を議会で成立させる必要があり、その議員たちは有権者の意向を無視できません。
オバマ大統領が、1期目に早々と求心力を失う模様は、ボブ・ウッドワード著『政治の代償』(邦訳2013年、日本経済新聞出版社)が生々しく描いています。
ところで、かつて日本では、決められない政治を打破するために、大統領制にすべきという主張もありました。しかし、構造的には、衆議院が必ず与党優位になる議院内閣制の方が、大統領の与党が必ずしも議会で優位にならない大統領制より、強いはずなのです。現に、今やアメリカより日本の政治の方が「決めることができる」政治になっています。
さて、海の向こうの大国の政治も重要ですが、我が日本の政治はどうか。利益と理念の政治はどう対立し絡み合っているか。考えさせられます。
社会の亀裂の状況が、日本とアメリカでは大きく違います。アメリカでは「全員がマイノリティなのです」という指摘があります。日本ではかつて、「単一民族、一億層中流」という説明が受け入れられていました。しかし、そのような時代は過ぎ、正規非正規、子どもの貧困といった「亀裂」が大きな課題になっています。それを、政治・政党がどう拾い上げるか。その役割の差もあります。(2016年11月9日)
被災地視察、宮城県北
6日夜は仙台のホテルに泊まって、7日8日と、宮城県北部沿岸市町に、復興状況の視察に行ってきました。復興庁事務次官を退任した際(6月)に、復興状況を見届け、また市町村長さんたちにきちんとご挨拶したかったのですが、福島の仕事が忙しく、今頃になりました。
この地域の視察は、ほぼ1年ぶりです。あの大被害を思い出すことが、難しくなっています。町を造り替える大工事や住宅再建が、着実に進んでいます。もちろん、残る工事を完成させること、産業再生を軌道に乗せること、コミュニティ再建と仮設住宅の終了など、まだまだ課題はあります。しかし、あと2年で、住宅再建の工事は、ほぼ終わる見通しです。
水産加工業やハウス園芸に取り組む事業者にもお会いして、状況をお聞きしました。施設設備復旧までは国費で支援したのですが、販売が軌道に乗るかが課題なのです。
5年間一緒に苦労した(しばしばお叱りを受けた)首長さんたちとも、久しぶりにお会いしました。皆さん、自信に満ちた笑顔でした。5年半の時間が経つことの早いことを、一緒に振り返ってきました。「あの頃は、がれきがいつになったら片付くのだろうかと思った」「民地のがれきは将来も片付かないだろうなと思っていた」との思い出も。それらも、片付けたのですよね。いくつも前例のない対応をしたことや事業を作ったことに、感謝してもらいました。
「途中で逃げて(次官を辞めて)、ひどいじゃないですか」と、お叱りも受けました(苦笑)。いえいえ、公務員を辞めても体力の続く限りは、被災地を見守り続けますよ。(2016年11月8日)