ボカンと殴る

地仙ちゃんに殴られたカミナリちゃんのアタマにはコブができてしまいました。
「ひどいことをするなあ。いいかい、ただでさえ地仙ちゃんのパンチは強いんだから、ちょっとしたことで他人を殴ったりしちゃダメだよ」
さすがの地仙ちゃんも少しだけマズいことをしたと思っているのでしょう、ニコニコしたままです。言い訳とかできないと思うとニコニコしてゴマカそうとするのです。
「ゴマかそうとしているね。・・・ゴマカすというコトバは、胡麻化すとか誤魔化すとか書くけど、江戸時代後半に日本で成立したコトバで、語源はあまりはっきりしない。
当時ニホン国内の托鉢僧であった高野聖が、ただの灰を「弘法大師の焚いた護摩の灰」だと言って売り歩いたらしくて、ここから他人をだます人のことを「護摩の灰」と言ったそうなのだが、「大言海」という日本語の辞典によれば、「護摩の灰のようにだまくらかす」のでゴマカスというようになった、と説明してあるけど・・・」
地仙ちゃんはワガママですから、叱られたのが気に食わないようです。「ちょっとやりすぎただけでちゅのに、アタマごなチにガミガミ言わなくても・・・」と、ほざいています。
「なに言ってるんだ。・・・二度と理由もなくナグらないようによく言い聞かせておかないといけないね。この際なので解説すると、「ナグる」と訓じる①「殴」という文字は、もともとかなり神聖な儀礼行為を示す文字だったんだよ。右側の「殳」はルマタといわれる部首で、武器のホコと思われる棒を手に持って、打ったり叩いたりする姿だ。

左側の「区」は、正字では、右側の開いた大きなハコ(匚・ホウ)の中に、三つの小さなハコ(口)が入っている、という形象。この小さなハコには呪文を書いた紙切れが入れられている。要するに、この大きなハコは聖なるモノの隠し場所(他にも矢を隠した「医」、斧を隠した「匠」などがある)で、そこに神様への誓いのコトバを小さなハコに入れれて、きちんと並べて保管している、というのが「区」のもともとの意味なんだ。
「区」の字は、小さな呪文箱を大きなハコのしかるべき場所にきちんと並べることから「区画」「区分」「区別」という意味に使われる。「区」の入っている文字を見てみると、例えば「駆」は、元来はおマジナイ箱と馬を組み合わせて、道にいるワルいモノを追い払う(駆逐、駆除)という意味の文字だったらしい。
また、近代では「欧州」という当て字に使う
②「欧」は、こういうハコを前にして「アクビ」をしているという文字だが、眠くてアクビしているのではなくて、「嘔吐」の「嘔」と同じく、もともとは口を大きく開けて、呪文を唱えていた姿だろう。そのような呪文は節回しを伴っていたと思われ、③「謳」という字は「謳歌」と熟して歌を歌う、という意味になった。
さて、このようなおマジナイのチカラを持つ「区」というハコをホコで叩くことによって、本来持っているおマジナイのチカラをさらに強める、というのが「殴」という文字が表している儀礼なんだ。ずいぶん前に「方」の字で、首吊り死体を打つことで呪力を強めるハナシをした。漢字には、他にもいろんなモノをナグる字がある。ナグられているモノは神聖な呪力を持つモノばかりなので、どんなモノをナグっているか興味深いところなんだけど、ヘタに地仙ちゃんが真似しないように、別の機会に説明しよう」
「あたちはカミナリちゃんのおマジナイのチカラを強くしてあげようと思っただけなの」などと地仙ちゃんは言い訳を始めました。