カゼが吹く

カゼが吹く
 びびゅううん、とすごい風が吹いてきました。
「ちゅごい風でちゅね。風使いの精霊・風仙ちゃんは気まぐれでちゅからね。でも昨日までと違って風が湿っていてあったかいの。吹く方向も違うみたい」 と庭先にいる地仙ちゃんは帽子を押えながら大声で言いました。
 しかし、誰も答えません。先生は地域のひとたちと話し合いをしてから、あちこちに手紙を書いたり、書籍とか骨董品の類のガラクタ(先生の宝物らしいです)を箱詰めするのに忙しいみたいで、書斎の中にこもったままです。何をしているのでしょうか。
 地仙ちゃんは春一番に吹かれて、ごろんごろん転がったりしてひとりで遊んでいましたが、そのうち飽きてきたみたいです。書斎の窓をどんどんと叩いて、
「センセイ~、ナニちてるの? あちょんで~」と言いました。
 しばらく経ってから先生が顔を出します。
「わたしは今いろいろと忙しいんだよ。荷物を取りまとめなきゃいけないのでね・・・。それに、今日は春一番で風が強いからオモテに出たくないし・・・。春一番は外国語の直訳だが、温帯モンスーン地帯にあるチュウゴク江南地方では四十五日ごとに風の向きがかわるとされていて、三百六十五÷四十五=約八になるので、一年で八方向から風が吹き、方向ごとに名前がついていて「八風」という。これによれば冬至から四十五日経つと東の風(明庶風)、九十日経つと東南の風(清明風)が吹くとされる。
 で、①②はともに「風」という字。
 そもそも漢字の基を作った殷の国は、鳥を始祖(史記では「ツバメ」)としていて、その鳥は天上にいる「帝」が姿を変えたもの、と考えていた。鳥トーテムだね。で、その鳥が羽ばたくと風が吹くのだという。だから、「風」の古い字は点線内のように冠のある鳥の形で表されていた。この字形をそのまま引き継いでいるのが「鳳」だが、これについては別に述べたい。・・・ということで、風は「神鳥」の象形が元になった字なのだよ。
 さて、殷から周にかけて、大地の四方・八方にも神鳥がいて、ある方向から風が吹いてくるのはその方向の神鳥が飛んできているからで、特定の風は特定の神鳥の性格を受けて土地やニンゲンの在り方に強い影響を与える、と考えられるようになった。こうして、「風」は、「風土」「風光」のようにその地方の地理的性格を規定するとともに、「風俗」のように民衆のならわしを決め、「風邪」のような流行病も運んでくることになった。また、ニンゲン関係の雰囲気を指すこともあり、おエラ方から「風化」が、シモジモからは「風刺」がなされる(「風」で軍隊の強弱も判断できた。「聖なる夜」の章参照)。
 さて、周の時代には王のもとに各諸侯国の民歌が集められた。その国がよく治まっているかどうかを知るには民衆の歌を聞くのが一番だという理由だけど、そのような民歌を「国風」といい、これを収集する役人を「風人」と言ったのだよ」
「へ-、風ニンゲンがいるの? 風ニンゲンも鳥だから焼いて食べちゃうの?」
「「風」の鳥は文字が生まれるずっと前から伝承される「太陽鳥」(イヌワシと推定されている。参考図参照)に淵源があると思われるので、熱には強いんじゃないかな。・・・でもこのハナシをし始めると太陽の中に住む「三本足のカラス」のハナシまでしないといけなくなるので今回はここまでにしよう・・・次回がいつかは知らないけどね・・・」
と先生は言ってますよ。