丸山真男著『政治の世界他十篇』、2

引き続き、気になったところを引用します。
・・「政界」という言葉があります。政界ということと政治的な世界ということは、今日においては非常にギャップがあります。政界というのは特殊の、政治を職業とする人々の非常に多面多種なサークルであります。つまり、右に申したことをいいかえるならば、政治的な気圧というものは、決して「政界」によってだけ決まるものではない。また、「政界」のことだけを見ていては政治の状況認識はできない、ということになわけであります・・
私は日本の新聞の「政治部」というのは「政界部」というふうに直した方がいいのではないかと、新聞社の知人にからかうのですけれども、かれらもその点で、もっともだといって反駁しません。「政治」というものを報道しないで、政治に重要な出来事を報道しないで「政界」の出来事、派閥がどうなったというような、「政界」の中の人的な関係を報道している。政界ということと政治的世界というものはくい違っているわけであります・・p355。

・・さっき「政界というものは非常に特殊な世界である」ということを申しました。政治のリアリズムというものがないと、政治の言葉の魔術にいかにあやつられるかということは、いわゆる政局の安定、という言葉を例にとってもわかると思います。
「政局の安定」ということはしばしばいわれます。けれど政局の安定というのは、特殊な世界である政界の安定以外の何物も意味しないんです。したがって、日本でいわれている政局の安定ということは、政界の安定であって、それは政治的安定とは必ずしも関係しないし、いわんや国民生活の安定とは何も関係しない・・p381。この項続く。