責任者は何と戦うか、その4。身内

内なる敵の第2は、身内です。
戦争にしろ交渉にしろ、責任者は外の敵(相手)と戦っていると、皆さんはお考えでしょう。でも、責任者は、前の敵より、身内(後ろ)と戦っているのです。
最近の例で、説明しましょう。TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉に、日本が参加しました。交渉相手は、諸外国です。では、責任者の「敵」は、外国でしょうか。
象徴的な図が、8月24日の朝日新聞に載っていました。TPPに関する日本の体制です。トップに対策本部長として甘利明担当大臣の写真が、載っています。図ではその下に、交渉チーム約80人・鶴岡公二首席交渉官が左に、その右に、国内チーム約30人・佐々木豊成国内調整総括官がそれぞれ写真入りで載っています。記事には、次のように解説されています。
・・交渉が進めば、政府は関税をなくす農産物の絞り込みを迫られる。反発が強い与党や業界団体への調整や根回しを進めるのが、国内チームの最大の任務だ。
これまでの通商交渉では、各省庁の官僚がそのまま交渉に臨み、各省の利害が優先されがちだった。相手国から「日本は省庁や担当者によって言うことが違う」との苦情もあった・・
そうです。国際交渉にあっては、説得すべきは国内なのです(なお、引用した記事の後段は、先日の「仕組みと戦う」の例です)。
国内での交渉でも、次のような会話が交わされます。
「いや~おっしゃるとおり。あなたの提案に、私は同意するのだけど。その内容では、省内(関係者)を説得できないのですよ・・」
これは、多くの場合、半分は事実、残り半分は相手に譲歩を迫る「手口」です。「部下が収まらない」「関係者を抑えきれない」・・。
完璧に当方の主張が通る、というような交渉はないでしょう。取るものは取り、譲らなければならないものは譲る。応援団に配慮して交渉を決裂させることは、簡単です。しかしそれでは、前に進みません。あるいは、何も得られないまま、一人取り残されます。
しばしば、代表者は、テーブルの向こう側と手を結びつつ、後ろの応援団をどう説得するか、それに悩むのです。それは、相手の責任者も同じです。それぞれが「勝った」という理屈を見つける必要があります。
この延長で言うと、「軍縮交渉ができるのは、ハト派ではなくタカ派である」という通説も、理解できます。ハト派が交渉をまとめた場合、国内世論は、「ハト派は軟弱で、国益を損なって交渉をまとめてきた」と決めつけます。タカ派がまとめてきたのなら、「強硬派の彼らがまとめたのだから、仕方ないのだろう」と納得します。
この項、まだまだ続く。