さて、パラダイムの更新と定着、そしてその再生産の制度化という考え方は、本来の科学技術の分野を離れて、会社などの組織にも「応用」されます。
会社では、創業者や中興の祖が、新しい製品やビジネス・モデルを発明し、ヒットさせます。そして会社は大きくなり、従業員も増えます。
パラダイム転換は、このモデルがうまくいかなくなったときに、唱えられます。学問の行き詰まりや、会社では製品が売れなくなったときです。このようなときに、組織の内外から、パラダイム転換、革命が唱えられるようになります。
もっとも、転換を唱えるだけでは、改革になりません。学者なら、定説に代わる新説を提唱し受け入れられること、会社なら新製品が売れる必要があります。
この点、評論家はお気楽です。結果を出さなくてもよいのですから。もっとも、代案も出さずに、現状を批判していても、説得力はありません。ここに、評論家と実務者との違いがあります。
しかしここで、矛盾が生じます。会社や大学といった組織は、「通常科学」を進化させることは得意ですが、パラダイム転換には不向きです。
教授や会長の教えを守るのが、後輩や部下の務めですから。転換は、既存の幹部からすると、異端の考えであり、異端児です。
「科学革命」を成し遂げるのは変わり者で、「通常科学」を深めるのは普通の科学者です。会社でも、出世するのは、社長の教えを守る「よい子」です。
別の発想で従来の製品を革命的に変える製品や、通説を変える新説を出すのは、後継者からではなく、別の組織からです。革命家や改革者は、既存体制では不遇で、保守本流からは、危険分子であり、つまはじきにされるのです。
月別アーカイブ: 2013年7月
パラダイム、その2
中山茂著『パラダイムと科学革命の歴史』は、次のような構成になっています。
第1章 記録的学問と論争的学問
第2章 パラダイムの形成
第3章 紙・印刷と学問的伝統
第4章 近代科学の成立と雑誌・学会
第5章 専門職業化の世紀
第6章 パラダイムの移植
これだけではわかりませんが、時系列になっているのです。
第1章は、バビロニアと古代中国、古代ギリシャと諸子百家。第2章は、ヘレニズムと漢。第3章は、中国官僚制・紙・印刷とイスラムの学校、ヨーロッパ中世の大学です。第4章は、表題の通り。第5章は、ドイツの大学アカデミズムの成立、イギリスとフランスの場合、アメリカの大学院。第6章は、幕末明治の日本への西洋科学の移植です。
わかりやすくするために、いろいろなことを切り捨てておられるのでしょうが、私たちにも「なるほど」と思わせるものがあります。分厚い学術書も有用ですが、これだけ簡潔にするのはかなりの熟練が必要です。
復興状況のパンフレット
パンフレット「復興の状況と取り組み」をつくりました。A4判で、20ページです。かなり見やすいと思います。ご活用ください。
日本語は難しい、家でもぐったり
7日の記述で、「・・家の中でもぐったり。」と書きました。
読者から指摘がありました。「家のお風呂で潜れるとは、大きな風呂ですね」と。
「・・家の中でも、ぐったり。」ですね。
パラダイム
中山茂著『パラダイムと科学革命の歴史』(2013年、講談社学術文庫)が、とてもおもしろいです。
パラダイムという言葉がよくわかるとともに、科学が「絶対的真理」として存在するのではなく、社会による認知や受け入れによって存在するものであることが、よくわかります。バビロニアと古代中国から説き起こし、平易な言葉で科学の進歩とは何かを説明してくださいます。
同じく講談社学術文庫の、野家啓一著『パラダイムとは何か』(2008年)も読みましたが、野家先生の本はクーンとパラダイムの解説であるのに対し、中山先生の本は、パラダイム転換と通常科学から見た学問の歴史です。いろんなことを考えさせてくれます。例えば、学閥と学派はどう違うか、大学は学問の進化を進めるのか阻害するのか。
私は、この本を読みながら、「ものの見方の枠組み」「組織での発想の転換」などを考え直しています。もっと早く読むべきでした。でも、このような文庫本の形になったのは、先月ですから、仕方ないですね。お勧めです。社内で改革を唱えつつ、実現せず不満を持っている方に、特にお勧めです。
「パラダイム」という言葉は、アメリカの科学史学者のトーマス・クーンが1962年に唱えた、科学史での概念です。クーンによれば「一般に認められた科学的業績で、しばらくの間、専門家の間に問い方や解き方のモデルを与えてくれるもの」です。
パラダイム転換や科学革命は、これまでの科学者の間での通説を壊し、新しい見方を提示します。天動説から地動説への転換のようにです。パラダイムの転換に成功すると、続く学者たちは、その枠組みで実験や観察を繰り返し、より精緻なものとします。クーンは、それを「通常科学」と呼びます。
クーンは、後にこの説を捨ててしまいます。しかしクーンの手を離れて、パラダイム転換という言葉は科学史以外でも用いられ、有名になりました。極端な場合は、「通説になったものの見方」としてです。いろんな分野で改革派が「旧来の考え方を、打破しなければならない」として、パラダイム転換を唱えるのです。経営学や評論で、多用されます。私も、よくこの意味で使っています。
この項続く。