アングロサクソン型資本主義とライン型資本主義

先日紹介した、田端博邦著『幸せになる資本主義』に引用されていて、興味を持ったので、ミッシェル・アルベール著『資本主義対資本主義』(邦訳1992年、竹内書店新社)を、読みました。概要は、田端先生の本に紹介されている通りです。ごく簡単に言うと、共産主義が崩壊し、世界は資本主義に一元化される。しかしその中に、2つの型の対立がある。アングロサクソン型(レーガンのアメリカ、サッチャーのイギリス)と、ライン型(ドイツや日本)である。アングロサクソン型は魅力的だが、フランスとしてはライン型を目指すべきだという主張です。筆者は、フランスの高級官僚で経営者です。原著は1991年に出版されています。約20年前です。1898年にベルリンの壁が崩れ、1990年にドイツが統合され、1991年にソ連が崩壊しました。第1次湾岸戦争が1991年、日本でバブルが崩壊したのも1991年です。まだ、EUはなく、通貨統合もされていません。この時点で、このような洞察をしていたのですね。ただし、バブル崩壊直前で、日本の評価が最も高かった頃です。アルベール氏は、その時点で、日本がアングロサクソン型に近づきつつあることを、危惧しておられました。アングロサクソン型は、個人の成功と短期的な金銭利益を土台としている。何事も利益追求のチャンスとし、人びとを競争へと駆り立てる。しかし、他人にはおかまいなしで、リスクもある。他方、ライン型は、集団での成功、コンセンサス、長期的な配慮に価値を見出す。連帯を大切にし、文化や人間にも一定の場所を与える。着実で成果も大きいのだが、魅力に欠ける。

1980年から1990年までの10年間の、株価値上がりが比較されています。東京市場3.3倍、フランクフルト市場2.4倍、ロンドン1.7倍、ニューヨーク1.7倍で、競争重視のアングロサクソン型が、必ずしも勝っていないと述べられています。残念ながら、その後の20年の歴史は、それまでとはかなり違ったものになりました。著者が予言した2つの型の対立は、日本においても大きな争点となりました。1990年代の「小さな政府論」から始まり、2000年代の小泉改革です。それまでの「日本型資本主義」を修正し、「市場原理主義」「新自由主義」「新保守主義」を導入する、切り替えるという流れでした。
20年経ってわかったこと。それは、市場経済の分野では、国際競争の波を避けることはできない。規制緩和をし、競争を促進しなければならない。しかし、一方で、ルールと監視を強めないと、サブプライムローン破綻のような金融危機が起きる。社会の分野では、個人の競争も大切だが、格差、子どもの貧困などの問題が拡がり、それらの問題への対応が求められている。ごくごく簡単に述べれば、このようなことでしょうか。さらに資本主義の型とは関わりなく、一人暮らしと高齢化が進み、それらの問題への対処も必要です。